また来たのかよおまえ....
そうこうしていると、扉の外から弾むような声が響いた。
「レイズくーん!」
「……いません!」
即答した瞬間――。
ガチャリと音を立てて、扉が勢いよく開く。
現れたのはイザベルだった。
「ちょっと早すぎでしょ!」
楽しげに笑いながら、彼女は勝手に部屋へ入ってくる。
「いや、むしろ開けるの早すぎなのはおまえだろ!?」
思わずレイズがツッコむも、イザベルの表情は本当に楽しそうで、悪びれる様子は一切なかった。
「……また来たのかよ、おまえ」
レイズがぽつりとつぶやく。
その瞬間、胸の奥にふとよぎったのは――初めてイザベルに会ったときの、あの鮮烈なトキメキ。
光に包まれるような笑顔。眩しくて、胸をざわつかせた存在。
だが今は違う。
「……なんか鬱陶しいな!」
そんな気持ちさえ芽生えている。
それでも――。
扉を勝手に開けて、無礼を貫き、遠慮なく踏み込んでくる彼女を、レイズは結局受け入れてしまう。
それが日常の一部になっていることに、レイズ自身はまだ気付いていなかった。
しかし、イザベルは分かっていた。
レイズにどう思われようと――鬱陶しいと思われても、迷惑だと思われても。
それでも、自分はレイズくんの側にいたい。
その気持ちが、日に日に強くなっていくことを。
そして、もう抑えきれなくなっている自分がいることを。
一方でレイズは、イザベルの存在を「鬱陶しい」と思いながらも、結局拒絶はできなかった。
むしろ、彼女の無礼さも強引さも、どこか当たり前の日常として受け入れてしまっている。
――鬱陶しいと思うレイズ。
――側にいたいと願うイザベル。
この奇妙な関係が絶妙なバランスを生み、二人の距離は少しずつ近づいていくのだった。
イザベルがぱっと手を叩いて、にこにこと声をかけてくる。
「レイズくん、ご飯できたってさ! おじいさまも呼んでるし、一緒に食べに行こうよ〜」
レイズはその言葉に、一瞬だけ顔をしかめ――
「……ぐっ、むかしの古傷が……いたたた……!」
急にお腹を押さえて苦しそうに演技を始める。
イザベルは呆れたように腰に手を当てて言った。
「……リアナ呼んでこようか?」
「ま、待て! それはやめてくれ!」
慌てて飛び起きるレイズ。
そして何事もなかったかのように胸を張り、妙に格好をつけた顔で宣言した。
「くくく……では、食事としゃれこもうではないか!」
その場をそそくさと立ち去るレイズの背を見て、イザベルはたまらず吹き出してしまうのだった。




