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思い出す。かつての強者。



さすがに昨日のような無様な姿は見せられない。

レイズは気持ちを落ち着け、真剣にクリスの太刀筋を見極めようとした。


――そこで気づく。


(……似てる)


目の前のクリスの立ち姿が、ゲームで見たとあるキャラクターと重なったのだ。

記憶の中に蘇る、強敵として立ちはだかったあの剣士。無駄のない動きと洗練された構え。


(……そうか。あのキャラと同じだ)


レイズは思わず笑みを浮かべた。

ならば――自分も“あのときの主人公”になればいい。


ゆっくりと、ゲームで何度も見たあのキャラの構えを模倣する。腰を落とし、木刀を斜めに構えるその姿は、かつて憧れすら抱いたものだ。


クリスの表情がわずかに揺れる。

「……レイズ様? その構え……」


彼には分かってしまった。

それは、クリス自身が本気を出したときと同じ型。


「まさか……」と驚きを含んで口を開こうとするクリスに、レイズが被せるように吠えた。


「いいから!! かかってこい! そのイケメン面、泥に沈めてやらぁ!!」


気迫を帯びた声が鍛練場に響き渡る。

模倣であろうと、本気でぶつかるその姿


クリスは目を細め、息を呑んだ。


(……そんなはずはない)


そう思いながらも――体は自然と、レイズと同じ構えをとっていた。

無意識ではなく、確かめずにはいられなかったのだ。


もし本当に、その構えを再現できるのだとしたら。

レイズ様は……ただ者ではない。


「――!」

クリスの瞳が揺れる。彼は知らず知らずのうちに、レイズへ全力で応える姿勢を示していた。


その光景を、少し離れた場所からヴィルが見ていた。

皺深い眼差しは、確かな驚きと期待を帯びている。


(……やはり知っているのかレイズ)


ヴィルは知っている。クリスが何者であるかを。

そして――この先に示される未来の意味を。


だからこそ、孫がたどり着いた“答え”に、彼自身もまた強い興味を示さずにはいられなかった。


レイズは知っていた。


クリスの繰り出したその技――本来であれば、魔力を帯びて宙から強烈な連撃を放つ奥義。

正面から受ければ、必ず急所を穿たれる。

ゲームの中で、何度も見せつけられた“死の技”だった。


だが――今は違う。

魔力を帯びていない。


(……クリス、お前は俺を殺す気じゃない)


だからこそ、勝機はある。

レイズは地に低く沈み込むように、体を倒し――まるで大地と溶け合うかのように構えた。


……はずだった。


しかし、この肉体はそれを許さなかった。


「くっそがぁぁぁぁぁぁ!!」


歯を食いしばり、体を無理やり捻る。

そして、下から突き上げるように木刀を振り上げ――連撃を叩き込む!


瞬間。


「……っ!!」


クリスの木刀がレイズに触れた。

だが同時に、レイズの一撃が彼の勢いを殺し、確かな衝撃を返していた。


互いの剣筋がぶつかり合い、弾ける。


地面に転がり込むレイズ。

しかし立ち直ったクリスの額には、止まらぬ冷や汗が伝っていた。


――確かに感じた。

このレイズの一撃は、ただの偶然ではない。



一見すれば、それはクリスの勝利だった。

立ち上がるクリスと、泥に倒れ込むレイズ。

誰の目にも結果は明らかに見えた。


だが――クリスの胸を占めていたのは、勝利の余韻ではない。


(……見破られた!?)


技の弱点を。

そして、その一撃を確かに返されたことを。


振り下ろした腕に、じんわりと鈍い痛みが広がっている。

視線を落とせば、そこには小さな痣が浮かび上がっていた。


「……っ」


冷や汗が止まらない。

倒れているのはレイズのはずなのに、勝者であるはずの自分が震えていた。



クリスは静かにヴィルの方へ向き直った。

その瞳に確信を宿し、深く目を閉じて――頷く。


「……レイズ様は、とんでもない才能を」


言葉にせずとも、その表情だけで十分伝わった。


ヴィルもまた、目を細めてゆるやかに頷き返す。

嬉しそうに、そしてどこか誇らしげに。


――絶対にありえないことが、いま目の前で起きたのだ。

その事実を、二人は確かに理解していた。


一方で、地に伏したレイズの頭の中では――別の映像が流れていた。


ゲームで見てきた、最強の存在たちの姿。


ひとりは、自らを魔王と称し、ラスボスにふさわしい実力を誇った魔剣士ガイル。

ひとりは、王国最強と讃えられ、常に頂点に君臨した剣聖グレサス。

そして――物語の途中、唐突に姿を現した謎の強敵。


ウラトス。


「……っ!」


思わず息を呑む。

重なった。目の前のクリスの姿が、確かに“ウラトス”と重なったのだ。


(……クリスは、ウラトス……!?)


その確信と共に、全身から力が抜け落ちる。

視界が闇に沈み、レイズの意識は途切れていった。



ゲームの中には――バランスを崩壊させる“最強キャラ”と呼ばれる存在がいくつかいる。


先に挙げた三名は、その代表格。

魔剣士ガイル、剣聖グレサス、そして……謎多き剣士ウラトス。


とりわけウラトスは、公式でも「正体不明の剣士」と紹介されていた。

主人公カイルたちが物語の中盤へ差しかかると、突如として姿を現し――理不尽なまでの敵意をぶつけてくる。


そうして始まる戦闘は、まさに悪夢。

多くのプレイヤーが、そこで幾度もゲームオーバー画面を拝むことになる。


なぜか?


それは、この世界の根幹を揺るがす設定にあった。


通常、キャラクターの属性所持は二つまで。

だが、ガイル・グレサス・ウラトスの三名は例外だった。


死属性を除いた――全属性を使いこなす。


その力は“異端”以外の何物でもない。


しかも、ただ属性を操るだけではない。

近接の剣技、中距離の斬撃、遠距離の術。

どの間合いでも隙がなく、さらにパラメーターそのものが規格外。


――そして中でも、ウラトスは群を抜いていた。


謎に包まれた正体。

プレイヤーの前に突如現れ、理不尽に試練を突きつける剣士。


ファンの間では「彼の正体は誰なのか?」と、数え切れないほどの考察が飛び交うほどに。







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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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