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【悪役転生 レイズの過去をしる】続編のプロットができたので章を更新します。  作者: くりょ
新たな始まり

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秘密の共有

そのころアルバードでは、

 いつものように、夜明け前から素振りを続ける二人の姿があった。

 

レイズと、クリス。

 乾いた空気を切り裂くように、重木の木刀が振り下ろされる。

 一振り、一振りに無駄はない。

 レイズは、黙々と木刀を振りながら考えていた。

(……俺は、何のために剣を振っている?)

 守るためか。

 抗うためか。


 それとも――ただ、ここに立ち続けるためか。

 隣ではクリスもまた、同じように素振りをしている。

 だが、どこか意識が内側に沈んでいるのが、レイズには分かった。


 二人にとって、素振りの時間はすでに訓練ではない。

 思考を削ぎ落とし、心を整える――瞑想に等しい行為だった。


 しばらくして、レイズがふと口を開く。

「なあ、クリス」


 木刀を振り下ろしたまま、視線は前を向いたまま。

「グレサスと話したこと、

 昨日のあれだけじゃないんだろ」

 クリスの木刀が、わずかに止まった。

「……レイズ様には、お見通しでしたか」

 再び木刀を振る。

「はい。ですが……こればかりは、

 レイズ様にお話しするわけにはいきません」


 レイズは鼻で笑った。

「まあ、人には言えない秘密の一つや二つ、あるもんだよな」

 そう言いながらも、内心では気になって仕方がなかった。

 グレサスとクリス。

 あの二人が共有している“何か”。


 レイズは、少しだけ間を置いてから言った。

「なあ、クリス。

 実は俺にも……本来なら、おまえに話せない秘密がある」


クリスの動きが、はっきりと止まる。

「……私に、秘密……ですか?」


レイズは肩をすくめた。

「知ってるのはな……

 ヴィルと、イザベル、リアナ、リアノ。

 それと……もう一人か二人くらいだ」

 

クリスは目を見開いた。


「ヴィル様とイザベル様は……ともかく。

 リアノ様とリアナ様まで……?」

 

思わず息を呑む。

 レイズは軽く笑った。

「ああ。それを伝えてから

 俺はリアナとリアノを正式に嫁として迎えることになった」


冗談めかした口調だが、事実だ。

 クリスは、喉を鳴らす。

「……いったい、どれほどの秘密なのですか……」

 その問いは、恐れと忠誠が混じった声だった。

 ――知りたい。

 だが、知ることが怖い。


レイズは、その葛藤を見抜いたように言う。

「最初はな……

 この事実を話すのが、正直怖かった」


 木刀を振る手を止め、空を見上げる。

「受け入れてもらえないんじゃないかってな」

 一拍。

「でも、今は違う。

 皆が受け入れてくれると、信じてる」

 クリスは、即座に言った。

「私は、レイズ様のすべてを受け入れます。

 それは……ずっと前から、誓っております」

 レイズは小さく笑った。

「じゃあさ、クリス。

 俺も、おまえを受け入れるって誓う」

 

そして、真顔になる。

「だから、その顔をやめろ。

 覚悟決めちまってる顔だ」


クリスは俯いた。

「……ええ。

 ですが……ディアナや、クリアナにも関わる話なのです」

 声が揺れる。

「もし……レイズ様が、死属性の魔法を使えたなら……

 あるいは、解決できたのかもしれません」


レイズは少し考え、言った。

「死属性、か」

 そして、はっきり言う。

「確かに、俺は使えない。

 だがな、クリス」

 視線が真っ直ぐ向く。

「魔法がなくても、

 俺には知識がある。経験がある。

 そして――未来を変えた実績がある」


クリスは黙り込む。

 レイズは、静かに続けた。

「なあ、クリス。

 本当の未来では……ディアナはいない」

 クリスの呼吸が止まる。

「……は?」

「クリアナもいない。

 イザベルも、リアナも、リアノも……」

 一拍。

「レイナもだ」

 言葉が落ちる。

「そして孤独に生きた俺は、

 最後にカイルに殺される」

 

クリスは完全に固まった。

「……ウラトス……おまえも、

 カイルに敗れて、自害する」

 

木刀が、地面に落ちた。

「グレサスも殺される。

 ガイルは……自決を選ぶ」

 

レイズは、淡々と告げる。

「いま、こうして肩を並べて立っている世界は、本来の歴史から、大きく逸れている」

 

クリスは、震える声で問う。

「……レイズ様は……一体、何を……」

 

レイズは、苦笑した。

「俺はな……

 レイズの中に入り込んだ、異世界の人間だった」


 間。


「しかも、その世界では――

 この世界の未来を、“カイル”として生きていた」

 

クリスの思考が追いつかない。

 恐怖が、別の恐怖を呼ぶ。

 ――誰かの体を奪う。

 魔女の呪い。

 ディアナやクリアナに起きるかもしれない未来。

 だがレイズは、すぐに言った。

「勘違いするな」

 はっきりと。

「レイズは、ちゃんとレイズとして生きている。

 俺は……レイズと混ざり合って、

 “レイズになった”だけだ」


クリスは、ふと過去を思い出す。

 ヴィルが、孫を“彼”と呼んでいたあの瞬間。

「……つまり……

 ヴィル様は、最初から……」

「ああ」

 レイズは頷く。

「初日に、すぐバレた。

 でもな、ヴィルは俺を受け入れた」

 声が、少しだけ低くなる。

「そしてアルバードを託し……

 最後には……

 俺を、レイズ――実の孫として認めてくれた」


クリスの胸に、あの言葉が蘇る。

 ――そこにいたのか、レイズ。

 あれは、疑問ではなかった。

 再会の喜びだったのだ。

 クリスは、ゆっくりと木刀を拾い上げた。

 そして、深く頭を下げる。

 世界が歪んだのではない。

 

誰かが――必死に、未来を掴み直したのだ。


そしてレイズは、どこか懐かしむように笑いながら話を続けた。

「なぁ、クリス。覚えてるか?」

 唐突な問いに、クリスは一瞬首をかしげる。

「……何のことでしょうか」

「二回目の模擬戦だ」

 レイズは木刀を軽く振り、空を切る音を聞きながら言った。

「俺が、おまえの構えを知ってたとき。

 やけに驚いてたよな」


クリスの動きが、ぴたりと止まる。

「……ま、まさか……」

 喉が鳴る。

 レイズは、あっさりと言った。

「その“まさか”だよ」

 

少し笑って、続ける。

「おまえ、あの技をカイルに使ってたぞ」

 空気が凍る。

「何回殺されたと思う?

 ……何回もだ」


その言葉に、クリスはぞっとした。

 だが同時に、妙な説得力があった。

 あの構えは、初見で見破れるものではない。

 対策など、経験なしでは不可能だ。


 ましてや、あの頃のレイズが知っているはずがない。

「……だから……」

 クリスは、震える声で呟く。

「レイズ様は……知っていた……」

 レイズは肩をすくめ、苦笑する。

「嫌というほど喰らったからな。

 本当に強すぎたよ、ウラトスは」


そして、冗談めかして言った。

「正直、何度心が折れたか分からん」


 クリスは思い出す。

「あの技は……ヴィル様に教わったものです」

「……マジかよ」


レイズは思わず吹き出した。

「ただでさえおまえは化け物なのに、

 そこにヴィルの知恵まで乗っかってたのかよ……」


しばらく沈黙が落ちる。

 クリスは、意を決したように一つの疑問を投げた。

「……これまで、レイズ様が示してきた数々の“知っていたこと”。

 それがすべて経験によるものだと理解しました」


そして、慎重に言葉を選ぶ。

「レイズ様は……

 もしかして、魔女の血縁……なのですか?」


 レイズはきょとんとした顔をした。

「……魔女?」

 次の瞬間、吹き出す。

「んなわけないだろ」

 クリスの反応を見て、少し真面目な声になる。

「いや、なんでそんな発想になるのかは分かるけどな」

 レイズは少し考え、魔女について語り始める。

「魔女か……

 確かに俺と似てるようで、全然違う存在だ」


 視線を遠くにやる。

「魔女はな、基本的に“女”にしか宿らない。

 しかも名前も、存在も、自分のものにする」

 はっきりと言う。

「俺は違う。

 レイズを奪ったわけじゃない」

 胸に手を当てる。

「共有してるんだ。

 ……いや、“混ざり合ってる”って言った方が近いか」


クリスは、息を呑む。

「……共有……

 共存、しているということですか……?」


そして、顔色を変える。

「レイズ様!!

 それなら……魔女に乗っ取られない方法も……

 ご存知なのではありませんか!?」

 その必死さに、レイズは一瞬戸惑った。

「……なんで、そこまで魔女の話になる?」


だが、はっきりと答える。

「ああ。

 乗っ取られない方法なら、知ってる」

 クリスの目が見開かれる。

「……っ!」

「死属性があれば、それは可能だ」


 その言葉は、希望だった。

 そして同時に、絶望でもあった。

 ――いまのレイズは、死属性を使えない。

 だが。

「……でもな」


 レイズは、にやりと笑った。

「俺は使えないけど、

 ちょうど死属性が使えるやつが――

 こっちに向かってきてる」


クリスの胸が跳ねる。

「そ、それは……!?」

「リリィだよ」

 あっさりと言う。

「リリィは死属性を持ってる。

 しかも、使い方をまだ知らない」


クリスは思わず声を上げる。

「リリィ……魔女なのですか!

 なら……なら、その魔女に頼めば……!」

 

レイズは、ふっと真顔になった。

「なぁ、クリス。

 おまえがそこまで魔女に反応する理由、

 さすがに分かってきた」


視線が鋭くなる。

「グレサスと話したこと……

 魔女に関わる話なんだろ?」


クリスは、観念したように頷いた。

「……さすがです」

 声を落とす。

「私は……グレサスは……

 魔女の血を引いています」


レイズは目を剥いた。

「……はぁ!?

 お、おまえが魔女の血!?」


思わず前に出る。

「どの魔女だ!?」

 クリスは、言い淀みながら答えた。

「……詳しくは知りません。

 ですが……ルティという魔女。

 ……私の母です」

「……ルティ?」

 レイズは、一瞬固まり――

「……はぁぁ……」

 深く息を吐いた。

 

どこか、安堵したような顔だった。

 クリスは困惑する。

「レイズ様……

 母を……ご存知なのですか?」

「ああ、知ってる」

 レイズは笑う。

「ルティは悪い魔女じゃない。

 少なくとも――」


指を折る。

「ルティ、サティ、リリィ。

 この三姉妹は、魔女の中でもかなり温厚な部類だ」

 

クリスは、それでも不安を拭えない。

「ですが……魔女の呪いが……

 いつかディアナや、クリアナが……」

 

レイズは、即座に否定した。


「それは、ない」

 断言だった。

「ディアナも、クリアナも、

 乗っ取られることは起きない」

 

クリスは、思わず問い返す。

「……なぜ、そこまで言い切れるのですか?」


レイズは笑う。

「簡単だ」

 穏やかな声。

「その三人の魔女は、“受け入れられた時”しか入れない」

 間を置いて、続ける。

「体を捧げる覚悟があって、

 本人が望まなければ、魔女にはならない」

 

クリスは、即座に首を振る。

「……受け入れるはずがありません!」

 

レイズは、肩をすくめる。

「だろ?」


少しだけ、遠い目をする。

「むしろ、受け入れようとしても簡単には入ってくれない。

 ……リリィが、そうだったからな」

 

レイズは、自分の知っている知識を、

 一つずつ、クリスに手渡すように語るのだった。


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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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