洗脳と誤解
そして一同は、グレサスの屋敷へ案内されることになった。
王国の通りを抜け、石畳を踏む音が連なっていく。
朝の湿り気を含んだ空気の中、屋敷へ向かう道は静かで、むしろ静かすぎた。
その静けさが、エルビスの心には怖い。
先頭を歩くグレサスの背中は、いつも通り大きい。
強く、揺らがず、迷いのない歩き方。
――けれど。
(……ほんとうに、迷いがないの?)
エルビスの視線は、無意識にデュランの手へ吸い寄せられる。
デュランは、黄金の剣を握りしめていた。
いや、握りしめているというより――抱え込むように、逃がさぬように持っている。
それは、ただの剣ではない。
グレサスの剣だと、エルビスは知っている。
喉がきゅっと縮む。
(なぜ?
なぜ、グレサスの剣を……あなたが……?)
問いが、胸の中で棘になる。
どこに刺していいか分からず、抜くこともできない棘だ。
デュランは、エルビスの視線に気づくと、歩みを乱さずに言った。
「これは……預かっているだけです」
声は低く、落ち着き払っている。
「すぐにお返しします。ご安心ください」
その言葉を聞いても、エルビスの不安は消えない。
むしろ、余計に膨らむ。
――“預かっているだけ”。
それは、“本当は握らせたくないが、今は仕方がない”という響きに聞こえてしまう。
エルビスは思わずグレサスを見る。
グレサスは――剣に興味を示さない。
デュランが何を抱えていようと、見向きもしない。
ただ歩き続ける。
その姿が、エルビスには怖い。
剣を失ったことが怖いのではない。
剣を失っても平然としている、その心のあり方が怖いのだ。
やがて屋敷が見えてくる。
石造りの門、整えられた庭、重厚な外壁。騎士の家の屋敷というより、城の縮図に近い。
門の前に立った瞬間、使用人たちが揃って頭を下げた。
その動きは、よく訓練されている。恐ろしく整然としている。
「お帰りなさいませ、旦那様」
その言葉は、ここが彼の“帰る場所”であることを突きつける。
――帰る場所があるのに、なぜ置いていったの。
エルビスは唇を噛む。
案内されたのは、屋敷の奥の一室だった。
客間にしては広く、天井は高い。壁には古い戦の絵、騎士団の紋章、そして装飾された槍が飾られている。
椅子に座ると、柔らかいのに沈みすぎない。
つまり、長く話をするための椅子だ。
――ここは、決断の部屋だ。
エルビスの背筋が冷える。
それぞれが席につく。
デュランは剣を自分の膝に置き、両手で押さえるように保持した。
リリィは落ち着いているようで、目だけが落ち着いていない。何かを見ている目だ。
そしてグレサスは、席につくと背筋を伸ばし――一度も剣の方を見ない。
沈黙。
空気が一枚、厚い布になる。
その布を切り裂いたのは、グレサスだった。
「……エルビス。なぜ、俺の場所がわかった?」
声は静かだ。
だが“静か”であることが、いっそう怖い。
エルビスは言葉を詰まらせた。
胸の奥に押し込めていたものが、喉に一気にせり上がってくる。
「あなたが……鎧を忘れていたから……!」
声が裏返りそうになるのを抑えながら続けた。
「届けに行ったんです。とっても……重たくて……」
思い出す。
床に置かれた鎧。
「それで……リオネル陛下にも会って……」
息を吸う。吸わないと、泣きそうになる。
「グレサスが騎士を辞めるって……聞いて……。
だから、探し回ったの……!」
胸が痛い。
言わなければ、崩れる。言ってしまえば、もっと崩れる。
「なんで……そんな重要なことを……私にも相談してくれないの……?」
グレサスの目が、ほんのわずかに揺れた。
彼は理解したのだ。
鎧を置いていった――ただそれだけの行動が、エルビスにとっては“別れの宣告”と同じ意味になったことを。
エルビスは、グレサスの口から出る言葉を待つ。
けれどグレサスは、すぐに答えない。
沈黙の中で、デュランが静かに頭を下げた。
「エルビスさん……」
声が柔らかい。
「グレサスは、決して貴女を蔑ろにしていたわけではありません……」
「デュラン、よせ」
グレサスが制した。強くではない。だが、逆らえない低さがある。
そしてエルビスを見て、言った。
「すまなかったな、エルビス」
その一言だけで、胸が痛む。
謝罪では足りないものがあるのに、謝罪の形だけが置かれると、余計に怖い。
「理由は、いまから説明する。
……落ち着いて聞いてくれるか?」
エルビスは、こくこくと頷いた。
頷くしかなかった。
その時、リリィが恐る恐る、手を上げるようにして言った。
「その……グレサスさん……」
声が小さい。けれど言葉が鋭い。
「貴方は……見えてますよね?」
部屋の空気が、わずかに変わった。
エルビスは何のことか分からない。だが、グレサスの反応だけで“危険な質問”だとわかる。
グレサスは、少しだけ口角を上げた。
「なるほど……やはり……魔女ではあるようだな」
曖昧な答え。
だが“肯定”でもある。
リリィは一瞬俯き、肩をすくめるように言った。
「……気づいていたんですね。
はい。私は魔女見習いで……正式な魔女では、ありません」
「魔女……?」
エルビスが、思わず声を漏らす。
「魔女が……今回の話に関係しているの……?」
グレサスは短く頷いた。
「ああ。今回の私の行動には、すべて魔女が関係している」
そのまま、エルビスを見る。
「そしてエルビス。
……おまえも、そこに深く関わる話だ」
エルビスの指先が冷たくなる。
自分のことなのに、全く分からない。分からないことが恐ろしい。
リリィは不思議そうに首を傾げた。
「えっと……グレサス様は分かりますが……
エルビスさんが、ですか……?」
グレサスが眉を寄せる。
「なにを言っている。魔女見習いでも……知らないのか?」
声が低くなる。
「魔女の血は……魔女の呪いの“依り代”を選ぶ」
エルビスは目を見開いた。
「依り代……?」
グレサスは言い切る。
「エルビスは私の妻だ。
この意味は……分かるな?」
リリィは数秒、言葉を失う。
そして、慎重に口を開いた。
「……私が理解した範疇で、お話ししてもいいですか?」
「構わぬ」
エルビスは混乱のまま呟く。
「魔女の血……呪い……。
私が……依り代……?」
リリィは、まず確認から入った。
「グレサス様……お母様のお名前を、伺ってもいいですか。
多分ですが……私はその方を……知っています」
グレサスは、一瞬迷った。
言うべきか、言わぬべきか。
それでも、ゆっくり息を吐き、静かに答えた。
「……ルティ。
ルティ=グレイオンだ」
リリィが息を呑む。
「ル……ルティ様……!?
ルティ様の血を……グレサス様は……?」
「ぁあ、そうだ」
グレサスの声は平坦だ。
だがその平坦さが、むしろ深い痛みを隠している。
「故に私とウラトスは、全属性が扱える。
これは……魔女である母の恩恵だと、私は知っている」
リリィはようやく、グレサスが言っている“枠組み”を理解した。
「そういうことですか……」
――なら、なおさら分からない。
なぜ、彼がここまで悲観しているのか。
リリィは続ける。
「ルティ様は……私の師、サティ師匠の姉に当たる方です。
とても……優しく、偉大な方で……自身の子であれば、なおさら大切にしてます。」
その言葉に、グレサスが薄ら笑った。
「私のことが大切であれば……」
笑みが、刃物のように冷える。
「なぜ……私に魔女の血を……父と子を成した?」
息が詰まる。
「なぜ!!
私に呪いを授けた!?」
エルビスも、デュランも反応する。
「ま、まて……グレサス……!」
デュランが身を乗り出す。
「呪い……? 何なのですか、それは……?」
エルビスの声も震える。
リリィは落ち着いて言う。落ち着こうと必死な声で。
「呪い……ですか?
グレサス様、貴方の言っている意味が……私には分かりません。
呪いどころか……祝福されているではありませんか……」
グレサスの瞳が、燃える。
「愛することを許されない代償の、どこが祝福だと言っている!!」
部屋の空気が震えた。
それでもグレサスは、すぐに呼吸を整え、声を落とす。
「……これは、我が家……グレイオンが支払う代償だというのか……」
リリィが、耐えきれず声を張る。
「だから!!!
なんなんですか!! その呪いとは!!」
目が潤む。怒りというより、悔しさだ。
「ルティ様は!!
貴方を大切にしているではないですか!!」
グレサスは、低く返す。
「大切……なら……なぜ私は、愛する資格を許されない……?」
その言葉に、リリィは一瞬だけ黙った。
――そして、目を細める。
「……分かりました」
小さく笑う。
「貴方の体にいる。
魂は……ルティ様……なんですよね?」
青い靄。
それはグレサスとリリィにしか見えていない。
靄は、リリィの言葉に反応するように、淡い青から緑へと色を変えた。
リリィは確信して言う。
「グレサスさん……貴方は勘違いしています!!」
そして、はっきりと突きつける。
「魔女は……呪いと加護を、選ぶことができます!!」
エルビスが青ざめる。
「わ、わたしが……いなくなる……?
どういうこと……ねぇ、グレサス!!」
デュランが、低い声で言った。
「確かに……グレサス。
リリィさんの話を、ちゃんと聞くべきだ」
グレサスは一度目を閉じ、そして言う。
「……ぁあ、すまない。
どういうことだ? 頼む……分かりやすく教えてくれ」
リリィは、深く息を吸う。
怖い。相手は王国最強。
だが、言わねばならない。
「いいですか……?」
言葉を選びながら話す。
「私は……魔女になるために、受け入れる覚悟を持っています。
それに抵抗もありません」
胸に手を当てる。
「それは……“本当のリリィ様”のことを、師匠から教わっているからです」
しかし声が震える。
「ですが!! 私はまだ……まだ未熟なんです!!」
悔しさが滲む。
「リリィ様は、私に入ってきてくれない……。
この意味が……分かりますか?」
グレサスの眉が、わずかに動く。
“呪い=強制的に奪われるもの”という彼の前提が、揺らいだ。
「……魔女は、人を選ぶのか……?」
言葉が漏れる。
「なら……エルビスは……助かるのか……?」
そして、どうしても理解できない疑問が噴き出す。
「なら、なぜ私は見えるようになった!!
エルビスを愛するまで……一度も、こんなことはなかった!!
これは、どういう意味だ……!」
リリィは、そっと微笑んだ。
優しく、しかし断言するための微笑み。
「……ルティ様の別名を、教えます」
部屋が静まる。
「ルティ様は……慈愛の魔女と呼ばれ、
そして才色の魔女とも呼ばれます」
緑の靄が、ふわりと揺れた。
「貴方が……誰かを愛したことで……
ルティ様は……とても喜んでおられます」
グレサスは、唇を震わせた。
「なら……なぜ!!」
怒りというより、悲鳴に近い。
「そんな呪いの話を……父は私に説明したのだ!!」
デュランが、痛みを飲み込みながら言う。
「グレサス……それは、俺の解釈だが」
一拍。
「魔女の呪いは……違う。
おまえの父は、おまえから愛を縛り……ただただ強く、最強であることだけを望んだ」
グレサスの脳裏に、過去が走る。
ウラトスが言った言葉。
――“愛を知った”と。
そして自分は、その言葉を理解できずに戦い、敗れた。
それは……強さの差ではなかったのかもしれない。
グレサスは、ようやく気づく。
(俺は……愛は枷だと、思い込まされていた……)
それが父の教育。
洗脳に近い刷り込み。
グレサスの口から、乾いた笑いが漏れた。
「……私の父は……だから……弱かったのか……」
笑いが震える。
「だから……ヴィルに負けたのだ……
ハハハ……ハハハハ……」
リリィは、改めて言い直す。
ここが決定的だ。
「魔女は人を選びます。
“魔女の呪い”――それは、あながち間違いではありません」
声を落とす。
「実際に……体を奪った魔女も……います」
デュランが眉を寄せる。
「つまり……そうではない魔女もいる、ということですね」
「はい」
リリィは頷く。
「ルティ様、サティ師匠、そしてリリィ様は……そんなことをしません!!」
涙が滲む。
自分が信じてきたものを、汚されたくない。
「貴方たちは……魔女を誤解しています!!」
呼吸が荒くなる。
「魔女は、恐ろしくもあり……
そして、優しくもある」
リリィは、胸に手を当てた。
「私の知る魔女は……ほんとうに優しい、偉大な方たちです」
沈黙。
その沈黙の中で、初めて知らされる。
――魔女の思想にも、さまざまな形があるという事実。
グレサスは、エルビスを見つめる。
そして、涙をこぼした。
「……すまなかった、エルビス……」
言葉が詰まる。
「私は……おまえを……」
デュランが、そっと膝の剣を持ち上げた。
黄金の剣が、光を返す。
そして、グレサスへ差し出す。
「だから諦めるなと言ったんだ」
苦笑が混じる。
「ほんとにバカなんだ。グレサス、おまえは……」
グレサスは剣を受け取り――
剣ではなく、エルビスを見た。
そして立ち上がり、エルビスを強く抱き締める。
骨が軋むほどの抱擁。
怖がっている人間の抱き方だと、エルビスは理解した。
(……そうだったんだ。)
グレサスが異常なほど、最近自分に触れてきた理由。
ベタベタすることに戸惑いながらも、どこか嬉しかった理由。
――彼は、怖かったのだ。
自分がいなくなることを。
それだけを、王国最強がそれだけを怖がっていた。
その事実が、エルビスにとってどれほど嬉しいことか。
涙が溢れる。
「グレサス……」
声が震える。
「貴方……なにをしようとしたのよ……」
グレサスは首を振る。
「なにもしようとしていない」
少し間を置いて、正直に言う。
「……今は。
こうして、おまえを抱き締めることが……したいことだった」
「そういうことじゃ……」
エルビスは言いかけて、やめた。
これ以上は、言わなくていい。今は。
誰よりも強く、
誰よりも孤高で、
誰よりも誇り高く、
最強とまで言われた王国の騎士。
その男がいま、エルビスの前で――
ただただ、一人の普通の男であることを、証明していた。
グレサスは、ひとしきりエルビスを抱き締めたあと、ようやくその腕を緩めた。
名残惜しそうに、だが確かめるように。
エルビスがそこにいることを、もう一度現実として確かめるように。
エルビスの肩から手を離すと、グレサスは一歩下がり、深く息を吐いた。
そして、静かにリリィの方を向く。
視線が合う。
リリィは、思わず背筋を伸ばした。
王国最強の騎士としての威圧ではない。
それでもなお、重い視線だった。
「……本当に……」
グレサスの声は、低く、かすれている。
「リリィ……
おまえに……おまえに会うことがなければ……」
一瞬、言葉が途切れる。
続きが、口に出すのも恐ろしいというように。
「……取り返しのつかないことが、起きていた……」
拳が、わずかに震えた。
「感謝を……させてくれ」
そう言って、グレサスは――頭を下げた。
それは形式的なものではない。
誇りを捨てたわけでもない。
ただ、救われた人間としての、率直な動作だった。
「……っ」
リリィは慌てて立ち上がる。
「い、いえ……!
私は……まだ、なにも……!」
目を泳がせ、言葉を探す。
「ただ……知っていることを……言っただけで……
そんな……感謝されるような……」
「それでいい」
グレサスは顔を上げ、はっきりと言った。
「それで十分だ」
そして、一拍置いてから続ける。
「……だが」
空気が、少し引き締まる。
「一つ……どうしても、分からないことがある」
グレサスは、無意識に胸のあたりを押さえた。
「なぜ……私なのだ……?」
声は問いであり、独白でもあった。
「なぜ……母は……ルティは……
私の側に、こうして在り続けている……?」
視線が、宙を彷徨う。
「ウラトスにも……ディアナを愛し……
さらに……娘もいる」
少し、悔しそうに。
「それも……私より、ずっと先にだ」
沈黙。
「……なぜ、私なのだ?」
リリィはすぐには答えなかった。
軽々しく答えていい問いではないことが、痛いほど分かる。
だから、ゆっくりと、慎重に口を開く。
「……愛の深さは……比較するものでは、ありません」
グレサスが、わずかに眉を動かす。
「ですが……」
リリィは続ける。
「グレサス様の……その愛が……
ルティ様の“慈愛”と……
最も、強く……共鳴したのでは……ないでしょうか……?」
グレサスは、鼻で小さく笑った。
「……愛の深さ、か」
自嘲の混じった笑み。
「それはいったい……何だというのだ……」
視線を伏せる。
「ウラトスも……私と変わらぬほど……
ディアナを愛していたぞ……」
その言葉に、場の空気が一瞬、揺れた。
そこで――デュランが、少しだけ口元を緩めた。
重苦しい場に似つかわしくない、ほんのわずかな笑み。
「……グレサス」
諭すような声。
「一つ……忘れている」
グレサスが顔を上げる。
「ウラトス……いや、クリスには、確かに愛する妻がいる」
デュランは続ける。
「それは、私もよく知っている」
そして、一拍。
「
だが、それと同等に……
クリスには、敬愛すべき人物がいるだろう?」
その瞬間、グレサスの目が見開かれる。
「……ま、まさか……」
喉が鳴る。
「……レイズ、か……?」
デュランは、ためらいなく頷いた。
「そういうことだ」
はっきりと、言い切る。
「クリスにとって、ディアナはもちろん一番だ。
だが、それと同等に……
レイズに対しても、異常なほどの敬愛を示している」
グレサスは、言葉を失う。
思い当たる節が、いくつも浮かぶ。
戦場での態度。
言葉の端々。
あの、説明のつかない忠誠。
デュランは、さらに踏み込む。
「……だが、おまえはどうだ?」
視線が、まっすぐグレサスを射抜く。
「おまえには……
エルビスに並ぶほど、愛するべきものが……他にいたか?」
グレサスは即座に言い返す。
「馬鹿なことを言うな」
声に迷いはない。
「エルビスが一番に決まっている。
そして……エルスが、それに並ぶ」
家族の名を口にした瞬間、声が少しだけ柔らぐ。
デュランは、ふっと笑った。
「……つまり、そういうことだ」
ゆっくりと言葉を重ねる。
「クリスは……レイズに異常な敬愛を持っているからこそ、ルティ様と“共鳴”する余地がなかったんじゃないか?」
グレサスの眉が寄る。
「だが……おまえは違う」
デュランは言った。
「おまえの愛は……一点に、深く、真っ直ぐだ」
リリィは、二人のやり取りを見つめながら、静かに補足する。
「……その通りだと、思います」
二人の視線が、リリィに向く。
「ウラトス様……クリス様のことは、
正直……私も、詳しくは分かりません」
正直な言葉。
「ですが……
“敬愛”と“慈愛”は……まったく、別のものです」
リリィは、エルビスを見る。
そして、グレサスを見る。
「グレサス様が……エルビス様に向ける愛は……」
一瞬、言葉を探す。
「……私から見ても、とても美しく……
そして……最も、ルティ様が好む形をしていると……思います」
部屋に、静かな沈黙が落ちた。
グレサスは、何も言わない。
だが、その表情は、先ほどまでとは違っていた。
疑いではない。
恐怖でもない。
――理解に、近づいている顔だった。




