強者に伝わる感覚。
そうして一同は、グレサスの後に続いた。
デュラン、ピスティア、アリス、ジェーン、リリィ。
そして──グレサスの手を、強く握りしめているエルビス。
その姿を見て、ピスティアは思わず小さく息を吐いた。
「エルビス……ほんとに……グレサス様のことが、大好きなのね……」
ぽつりと零れたその言葉は、誰に向けたものでもなかった。
エルビスの心は、まだ落ち着いていない。
拭えない不安が胸の奥に残り続けている。
だが、グレサスはそれを悟っていた。
優しく、しかし逃がさぬように──固く、その手を握る。
その仕草ひとつで、ピスティアにはすべてが伝わった。
(……大切に、想ってくれている)
それは疑いようのない事実。
それでも、胸に浮かぶ疑問は消えない。
(それなのに……なぜ……エルビスは、こんなにも……)
答えを出せぬまま、ピスティアは二人の背中を見つめていた。
その時、ジェーンがぼそりと、彼女の耳元で囁く。
「……なかなか、いい男じゃないか」
ピスティアが視線を向けると、ジェーンは小さく肩をすくめた。
「自分が一番不安なはずなのにさ。それを一切、表に出さない。
大したもんだよ」
ジェーンは、すでに察していた。
王国最強の男──グレサス。
先ほどからの言葉、その一つひとつに、覚悟の重さが滲んでいる。
それは、必ず“代償”を伴う覚悟だ。
軽い決意などでは、決してない。
(……ただ強いだけじゃない)
ジェーンは理解していた。
この男は、芯から強い。
だが、その覚悟に気づいているのは──
今のところ、ジェーンとデュランの二人だけだった。
これから語られる話の重さを、ジェーンはなんとなく予感している。
「なぁ、あんた」
ジェーンが声をかける。
「……グレサスに、話がある」
「なんだ?」
振り返ることなく、グレサスは静かに応じた。
「あたしたちは、王国を観光したいんだ。
だから、ピスティアとアリスを連れて歩こうと思ってさ。……いいかい?」
その言葉の裏にある意図を、グレサスは即座に理解した。
――聞かなくていい者を、遠ざける。
そのための提案だと。
「ああ。そうだな」
グレサスは頷く。
「ぜひ王国を見て回るといい。
……とても、美しい場所だ」
そう言って、近くにいた一人の騎士に声をかけた。
「おい。おまえ」
「はっ!!」
「こちらは、私の妻の姉上だ。
丁重に案内してやってくれ」
「承知しました!」
そのやり取りに、エルビスはようやく我に返った。
「ピ、ピスティアお姉さま……
その……また後ほど、必ずご挨拶に伺います……。
いまは……その……」
久々の再会。
本来なら、喜び合うべき場面だ。
だが──今は、それどころではない。
ピスティアは、それを理解していた。
「ええ、エルビス。
ようやく私に気づいてくれたのね」
微笑み、そして続ける。
「……素敵な殿方を見つけて。
本当によかったわ」
そう言って、ピスティアはアリスの手を取った。
「えっ!? リリィは……?」
戸惑うアリスに、ジェーンが笑って答える。
「あとで合流するさ。
リリィはいま、必要とされてる」
ちらりと視線を向けて、付け加える。
「……酷いことになったりは、しないさ」
そうして、ジェーン、ピスティア、アリスはその場を離れていった。
「リリィ!!
あとで一緒に見て回ろうね!?」
アリスの声に、リリィは優しく微笑み返す。
「はい。必ず」
だが──リリィの胸中は、すでに別のことで満たされていた。
これから語られる話。
それが、生半可なものではないことを、彼女は理解している。
――魔女の呪い。
その言葉だけで、心は穏やかでいられなかった。
(……いる)
この場に、魔女の呪いに関わる者がいる。
そして──それは、一目でわかる。
グレサス。
彼の周囲に、青い靄が絡みつくように漂っている。
(なぜ……この方が……?
なぜ……魔女の……素質を……)
知りたい。
そして、知ることを恐れてもいる。
それでも──リリィは目を逸らさなかった。
これからグレサスが明かす真実。
その重さを、受け止める覚悟を決めていたのだから。




