家族の時間
王国へ戻ると、グレサスはリオネルをその場に残したまま、颯爽と背を向けた。
「おい! グレサス!!」
背後から呼び止める声が響く。
「まだ報告が残っているだろう!
仕事でアルバードへ行ったこと、忘れたのか!?」
振り返りもせず、グレサスは笑い声を含ませて答える。
「陛下が直接ご覧になったではありませんか。
ならば、それで十分でしょう」
「いや、いや……お前の、その……まあ、いい」
リオネルは言葉を飲み込んだ。
――今日のグレサスは、どこかおかしい。
自由すぎる行動。 王国騎士でありながら、規律よりも本能を優先しているような振る舞い。
だが、その本能が――今は別の場所へ向いている。 そんな感覚が、リオネルの胸をかすめていた。
「さて……デュランたちに、どう説明したものか」
アルバードで目にした、あのどんちゃん騒ぎ。 仕事を任せて置いてきた騎士たちへ、どう伝えるべきか。 リオネルは頭を抱える。
一方、グレサスは迷いなく歩みを進めていた。 目的地はただ一つ――自身の家。
扉が開く。
「グレサス様、お帰りなさいませ」
使用人たちが一斉に頭を下げる。 グレサスは無言のまま視線を巡らせ――そして、ふっと表情を緩めた。
子供を抱いた、エルビスの姿。
「エルビス……戻ったぞ」
「おかえりなさい、グレサス」
穏やかな笑みを浮かべながら、エルビスは言う。
「……顔を見れば分かるわ。
ずいぶん楽しんできたようね?」
「ああ」
短く答えると、グレサスはそのままエルビスを優しく抱き寄せた。
「もう……最近のあなた、なんだか――
少しベタベタしすぎじゃない?」
「……だめか?」
「いいえ」
エルビスは小さく笑う。
「嬉しいわ」
その光景を見守っていた使用人たちは、そっと視線を逸らした。
――グレイオン家にも、確かに愛情が根付いた。 冷たい名門の家に、いつの間にか温もりが満ちている。
そう胸に思いながら、彼らは静かにその場を離れる。 三人の家族の時間を、どうか邪魔しないようにと願いながら。
グレサスは腰を下ろし、アルバードでの出来事を語り始めた。 まるで子供のように、無邪気に。
エルビスはその話に耳を傾け、瞳を輝かせる。
「さすがです、グレサス。
本当に……昔から変わらず、かっこいい」
その言葉に、グレサスは少し照れたように笑った。




