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【悪役転生 レイズの過去をしる】続編のプロットができたので章を更新します。  作者: くりょ
新たな始まり

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後悔しないための自由

グレサスは、その足でリオネルのもとへ戻っていた。


リオネルは深く息を吐く。

「グレサス。今回のおまえの行動は……あまりにも勝手だ」

責めるというより、困惑に近い声だった。


グレサスは肩をすくめ、どこか楽しげに笑う。

「勝手なことはな。できるうちにしておかねば、後悔するものだ」


意味深な言葉だった。

リオネルは眉をひそめる。

「まるで、おまえが近いうちに自由を失うような言い方だな」

「そうなるさ」

即答だった。


「私も、もういい歳だ。今日のこれが……最後の我が儘になるだろう」


あまりに自然な口調に、リオネルは思わず笑ってしまう。

「その強さでよく言う。おまえには、まだまだ王国を支えてもらわねば困るぞ?」

軽口のつもりだった。


もちろんリオネルは知らない。

この言葉の奥にある、本当の意味を。


グレサスの視界の端に、うっすらと——

まるで霧のように、青い靄が揺れていた。

かつて、語り継がれるだけだった“前兆”。

それが、今や確かな輪郭をもって、彼の世界に入り込み始めている。


グレサスは理解していた。

これは錯覚ではない。

そして——逃れられぬ兆しであることも。


その事実を、彼はクリスにも伏せていた。


空を仰ぎながら、グレサスはぽつりと呟く。

「……だが、今日の戦いは本当に楽しかった」

命を削らずとも得られる充足。


それが確かに存在するのだと、初めて知った気がした。

命懸けの戦いを、誰よりも愛してきた自分が——

今は、命そのものを惜しいと感じている。

その感覚に、グレサス自身がわずかに戸惑う。

そして、自然と脳裏に浮かんだのは

ひとりの女性の姿だった。

帝国の王女。


そして、彼が心から愛した妻——エルビス。

グレサスは、何も言わず、ただ静かに空を見上げ続けていた。


そしてその頃、レイズは屋敷の中を歩き回っていた。

「おい。リアノを見なかったか?」


声をかけられた使用人は、少し考えてから答える。

「リアノ様でしたら……あちらの方へ向かわれましたが……」

「そうか。ありがとう。

今日はみんなに迷惑をかけて、本当にすまなかったな」


そう言って、レイズは軽く頭を下げると、足早にその場を後にした。


使用人は、その背中を見送りながら微笑む。

「いいんです。

レイズ様は、いつもアルバードを賑やかにしてくださいますから」


その言葉を、レイズは聞いていない。

だが確かに、その想いは届いていた。


案内された方向へ歩を進めて――レイズは、ふと足を止める。

(まさか……この部屋に……?)


そこは、かつて自分が使っていた部屋だった。

今の居室とは別に残された、小さな部屋。


ヴィルがまだ健在だった頃の、記憶が詰まった場所。


レイズは息を殺し、ゆっくりと扉に手をかける。

きい、と小さな音を立てて開いた扉の先。

そこには、ベッドに横たわるリアノの姿があった。


そして、その腕元には――白い小動物が、丸くなって眠っている。

あまりにも穏やかな光景に、レイズは思わず息を呑む。


リアノの寝顔は安らかで、

白い小動物は、まるで昔からそこにいたかのように自然に寄り添っていた。

レイズはそっと近づき、指先でリアノの髪を撫でる。


その感触に、リアノがうっすらと目を開いた。

「レ……レ……」

声を出しかけたその口元に、レイズは人差し指を当てる。

――起こしてしまわないために。


「……ゆっくりでいい。ついてこられるか?」

リアノは小さく頷いた。


二人は音を立てぬよう、慎重にベッドを離れる。

白い小動物は、身じろぎ一つせず眠り続けていた。

扉を閉めたあと、レイズはようやく息をつく。

(触るのは得策じゃない……起こすなんてもってのほかだ)


得体が知れない。


それでも、あそこに“置いておく”ことが、どこか正しい気がしていた。

――不思議な感覚だった。


まるで、あの部屋が本来あるべき姿に戻ったかのような。

廊下を歩きながら、レイズはリアノに目を向ける。

「リアノ……大丈夫か?

体調に、何か異変はないか?」

「はい。大丈夫です。

ただ……勝手にあの部屋に入ってしまって……」

「いい。問題ない」

レイズは即答する。

「あの部屋は……

俺にとっても、リアノにとっても、大切な場所だろ。

好きに使っていい」


その言葉に、リアノの頬がわずかに赤く染まる。


二人だけが共有する“思い出”が、そこにあることを、彼女は知っていた。

少し迷ってから、リアノは小さな声で尋ねる。

「……あの子を、見張らなくてよろしいのですか?」


レイズは首を振る。

「なぜだろうな。

あれは……あそこにいるのが、不思議なくらい自然なんだ」

「自然……ですか?」

「ああ。だから、ゆっくり居させてやろう」


リアノは驚いたように目を見開き、やがて静かに頷いた。

「……実は、私も……同じことを感じました。

おかしいですよね……」

「おかしい。

でも――おかしくない」


レイズはそう言って、わずかに笑う。

「そんな感覚だ」


リアノは、その言葉に納得したように頷いた。

レイズは、改めて思考を巡らせる。

「あれの正体は、まだ分からない。

だが……レアリスと深く関わっているのは間違いない」


リアノは、その名に小さく肩を震わせた。

「そして多分だが……

俺とも、何か関係がある」


リアノは白い小動物のことを思い浮かべる。

――敵意は感じない。

それだけは、はっきりしていた。


だからこそ、謎を残したまま、彼女はその結論を受け入れるのだった。

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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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