違和感
そうして、ガイルが出立した頃。
アルバードの庭は、いまだ熱気に包まれていた。
「次は……いつやるんですか!!」
「レイズ!! また店に来てくれよな!!」
人々の歓声が飛び交う中、別の方向からは――
「ガイル様!! もう行ってしまわれるのですか!?」
「ガイルさまぁぁぁ!!」
と、名残を惜しむ魔族たちの声が響いていた。
レイズはその光景を眺めながら、頭を掻く。
「さて……どう収拾したもんか……」
しばし考えた末、腹をくくったように声を張り上げる。
「みんな!! 再会は果たされた!!
だから解散! 終わり!!
……っていうか誰だ!? ここにこんなに人を呼んだの!!」
その瞬間、リアナがびくりと肩を震わせた。
レイズは見逃さない。
「……リアナ。
おまえ、楽しんでたな?」
「だってぇ。その方がレイズ様らしいじゃないですかー」
「はぁ……。
じゃあリアナ、後始末はおまえがやれよ」
そう言い残し、レイズは屋敷へ戻ろうとする。
――が、その前に。
視界の端に、こちらへ戻ってくる二人の姿が映った。
クリスと、グレサス。
そしてレイズは、即座に“異変”に気づく。
(……クリスの様子が、違う)
だが、その違和感に気づいたのは、レイズだけだった。
他の者たちは、誰ひとりとして気づいていない。
「……クリス?」
名を呼ぶと、クリスはいつも通りの動きで姿勢を正す。
「ハッ! レイズ様!
お待たせしました!」
――あまりにも“いつも通り”だった。
レイズは一瞬、気のせいかと思いかけたが、胸のざわつきは消えない。
「クリス。
今回の騒ぎ……俺にも責任はあるんだが……
リアナと二人で、後始末を頼んでいいか?」
「ハッ。お任せください」
そう答えると、クリスは前に出て、集まった
人々へ頭を下げる。
「皆様。
本日は騒がせてしまい、誠に申し訳ありません。
今回の件は、この私クリスの責任です。
本日はここで解散してください」
――丁寧すぎる。
真面目すぎる。
(……クリスらしくない)
レイズの胸に、再び違和感が走る。
それでもクリスは手際よく人々を誘導し始め、リアナもそれに続く。
笑顔で言葉を交わしながら、庭は次第に落ち着
きを取り戻していった。
「……そうだ」
ふと、レイズは思い出したように呟く。
「リアノと……あの白い……あいつは……どこ行った?」
答えを待たず、レイズは屋敷へと足を向ける。
その背中を見送りながら、イザベルとレイナは顔を見合わせた。
「アハハ……。
ほんとにレイズくんって、どうしてこう……
無駄に忙しくする天才なんだろうね?」
「パパは……昔から、あんな感じだったの?」
「そうよ。
だからね……すごく可愛くて、すごく愛してるの」
その言葉に、レイナは満面の笑みを浮かべる。
「うん。
わたしもパパが大好き!
でも……ママも大好きだよ!」
「ふふ。ありがとう」
イザベルはそう言って、レイナの額に優しく口づけた。
一方で――
「クリス。あとで話があるんだから!!」
ディアナの声が響く。
「ママ……でも、なんかパパ……少し暗くない……?」
ディアナはクリスの背中を一瞥し、静かに言った。
「少し反省するくらいが、ちょうどいいのよ」
その言葉の裏にある真意を、子どもたちは知らない。
そして――
今この瞬間、クリスとグレサスが胸に抱えている思いを、誰ひとりとして知る者はいなかった。




