弱い姿もまた。
その後――。
イザベルは、他の使用人の姿が見えなくなったのを見計らい、リアナとリアノを呼び止めた。
「ねぇ……二人とも。レイズ君、どう?」
声は穏やかだったが、その瞳は真剣だ。
リアナはきゅっと拳を握りしめる。
「……当主様は、立派なお方です。無理をなさってでも鍛練を続け、弱音すら決して表に出されません」
その声色は誇らしさと同時に、どこか残念そうな硬さを帯びていた。
一方でリアノは、ふっと微笑む。
「でも……昨日、少しだけ“弱い本音”を見せてくれたんです。私たちにだけ。だから……大丈夫だと思います。」
その声には安堵と嬉しさが混じり、むしろ誇らしげですらあった。
イザベルは二人の対照的な答えを聞き、胸の奥がじんと熱くなる。
――立派に見せたい兄のような姿と、ようやく漏らしてくれた弱い人間としての姿。
両方を背負って、レイズ君は歩いているんだね。
イザベルの視線は自然と遠くへ向く。
その眼差しには、彼への新たな想いが静かに灯っていた。
イザベルは二人の言葉を聞いたあと、少し考え込むように唇に指をあて、やがて小さく微笑んだ。
「……じゃあ、私もレイズ君に会いに行ってみようかな?」
その言葉に、リアナとリアノは一瞬だけ顔を見合わせる。
リアナは眉を寄せ、そっと首を振った。
「……いまは、おそらくそっとして差し上げた方がいいかと」
リアノも頷き、ためらいがちに言葉を添える。
「はい……当主様は、頑張りすぎて……。少しだけ、一人で考える時間が必要なんです」
イザベルはふぅん、と肩をすくめた。
その表情にはほんのり寂しさも混じる。
「…そっか」
彼女の瞳にきらりと光が宿る。
「レイズ君が一人で背負いすぎないように、ちゃんと支えてあげたいな」
リアナとリアノはその言葉に胸を打たれ、深くうなずくのだった。
そうしてイザベルは静かに立ち上がった。
「……やっぱり、私が会いに行くよ」
リアナとリアノは驚いたように顔を上げる。
イザベルは微笑みながらも、その瞳は真剣だった。
(まぁ、そうだよね。レイズ君はここに来て、まだ数日しか経ってないんだもん)
その短い間に背負わされた責任の重さを思うと、胸がぎゅっと痛む。
(そして……そのことをちゃんと理解しているのは、今のところ私とおじいさまくらい。だから――)
イザベルは小さく頷き、自分に言い聞かせるように続けた。
「理解してる人が、話を聞かなくちゃ。そうじゃないと……きっと、レイズ君は孤独になっちゃうから」
リアナとリアノはその言葉に反論できなかった。
二人とも、不安げに頷きながらイザベルを見送るのだった。




