砂漠の地を知るレイズ
ガイルとレイズは、しばらく腰を落ち着けて話し込んでいた。
「それでよぉ」
ガイルが、どこか楽しそうに口を開く。
「ルルとあちこち見て回ってきたんだがよ。
おまえ――サグァ砂漠って場所、知ってっか?」
その問いに、レイズは一瞬だけ言葉を失った。
――知識を探る。
――ゲームの記憶と今の記憶を、端から端まで引きずり出す。
だが、どれだけ探っても引っかからない。
レイズが知るこの世界の未来は、限られている。
王国領土、帝国、レイバード領、魔王が救う最果ての地。ガイルディア。ジュラの地
そして聖国と法国。
滅びたエルフの国、アストリア跡地。
それ以上は、ない。
「……いや。知らないな。どこにあるんだ?」
そう答えると、ガイルは待ってましたとばかりに、得意げな笑みを浮かべた。
「あぁ、なんつーかよ……
砂が、からっからに乾いててな」
ガイルは手を広げ、景色を描くように語る。
「見渡す限り、砂。
そのサラサラの砂が風に吹かれてよ、地面が妙になめらかで……」
一拍置いて、言った。
「――そこにも、町があるんだよ」
レイズの胸が、わずかに高鳴った。
ゲームには登場しない土地。
それでも、この世界が“現実”である以上、未知の地が存在しない方がおかしい。
現実世界でも、砂漠はある。
熱帯も、雪原も、昼と夜がほとんど逆転する土地も。
この世界にだって、同じような場所があって当然だ。
「……もしかして、その町に入ったのか?」
レイズが問うと、ガイルは肩をすくめて笑った。
「入ろうとはしたぜ。
けどよ――言葉が通じねぇ。
それに、やたら警戒されてな」
「歓迎は、されなかったってわけか?」
「あぁ。まったくだ」
その様子を想像して、レイズは思わず笑ってしまった。
「当たり前だろ。
ドラゴンに乗って、
しかも見た目からして明らかに“やばい”やつが、
エルフ乗せて町に降りてきたら……」
肩をすくめて言う。
「普通なら、異常事態だ」
「だよなぁ」
ガイルも笑った。
「さすがに、歓迎されても困るような場所だ。
得体もしれねぇしな」
だが、と続ける。
「……でもよ。
俺、あの町が何を欲しがってるかは、分かったんだぜ?」
レイズは首をかしげる。
「欲しがってるもの?」
ガイルは天を指差した。
「あぁ。水だ」
即答だった。
「どう考えても、あそこは水が命だ」
レイズは一瞬、嫌な予感を覚えた。
「……おい。
まさか、魔法で雨降らせたりしてないよな?」
ガイルは鼻で笑う。
「雨?
そんな、ちんけなことするかよ」
レイズは、喉を鳴らした。
嫌な予感が、確信に変わる。
「砂漠の奥に山があってな。
そこに、どでけぇ川が流れてた」
ガイルは悪びれもせず続ける。
「だからよ。
砂漠の横を通るように――溝、掘ってやった」
――レイズは、頭を抱えた。
柔らかい砂地に水を引く。
その危険性を、彼は知っている。
最初は、確かに水は届くだろう。
だが水流は、柔らかな砂の壁を削り、
溝は瞬く間に拡張し、制御不能になる。
砂を大量に含んだ水は飲料にも使えず、
やがて海へ流れ、汚染へと繋がる。
想像するだけで、最悪の未来が見えた。
「……おい、ガイル」
声が、低くなる。
「それ……
厄災でしかねぇぞ」
「は?」
ガイルは、心底不思議そうな顔をした。
「何言ってんだ?」
レイズは、できるだけ噛み砕いて説明した。
水と砂の関係。
浸食。
環境破壊。
人が制御できない自然の連鎖。
ガイルは黙って聞いていたが、やがて視線を逸らし、小さく呟いた。
「……まぁ。
それも、自然ってやつだろ」
どこか気まずそうな声音だった。
「ガイル!」
ルルが慌てて割って入る。
「すぐ、また見に行かないと!!」
レイズは、そのやり取りを見てから言った。
「……その時は、俺も行く」
ガイルの目が輝いた。
「おっ!
それいいな!!
一緒に旅、出てみるか!?」
「いやいやいや!!」
ルルが即座に否定する。
「レイズさんは……
アルバードの王様ですよ!?
そんなの、アルバードの人が……
いえ、クリスさんが許すわけないじゃないですか!」
その名前が出た瞬間。
レイズとガイルは、同時に――
最大の問題点に気づいた。
「……あぁ……」
レイズはぽつりと呟く。
「そういえばさ。
俺、リアナとリアノを嫁に取ったんだけど」
ガイルが瞬きをする。
「……ん?」
「つまり……
新婚旅行ってことで、出かけるのはどうだろう?」
一瞬の沈黙。
そして、ガイルが豪快に笑った。
「おお!!
そりゃ名案じゃねぇかよ!!」
「新婚旅行……」
ルルは、その言葉を繰り返しながら、ちらりとガイルを見る。
その視線を、レイズは見逃さなかった。
「そうだな……
ダブルデート……いや……」
指を折って数え始める。
「俺の場合、リアノとリアナがいるから……
トリプル……?
あれ? なんだこれ?」
混乱するレイズ。
「ダブル……デート?」
ガイルは首をかしげた。
「なんだそりゃ?」
その瞬間。
ルルは、がくりと肩を落とすのだった。




