忠誠の生まれ
クリスは、ただただ驚くことしかできなかった。
なぜなら――
あの技は、ヴィルから直接教わった「飛翔の構え」。
アルバードに伝わる、数ある剣技の中でも、
間違いなく“必殺”と呼ばれる技だったからだ。
模擬戦ゆえ、魔力は纏っていない。
ゆえに致命傷にはならない。
それでも――
疑う余地はなかった。
まさか、
初見で、あの形で対応されるなど。
(……ヴィル様……)
視線の先で、ヴィルもまた目を見開いていた。
だが、ほんの一瞬の沈黙の後、
彼はゆっくりと、どこか納得したように笑った。
「……とっておきの技、なんですがね」
軽い口調。
だが、その声音には確かな驚きが滲んでいる。
「まさか、対策されるとは……思いもしませんでした」
その言葉に、クリスは愕然とする。
ヴィルが、“対策された”と断言した。
つまり――
あの必殺技には、確かに欠点が存在する。
だが、それを見抜き、対応できた者など、
これまで一人もいなかった。
なぜなら。
――この技を、正面から受けた者は、生きていない。
だからこそ、必殺。
だからこそ、秘匿。
ヴィルがこの構えをクリスに教えた理由も、
ただ一つだった。
いつか、
アルバードを守るために、
どうしても誰かを倒さねばならない瞬間が訪れたとき。
そのための、最後の切り札。
それを――
教わってすらいないレイズが、
構えを見せ、
意図的に誘い、
そして――対策まで示した。
どう考えても、おかしい。
それは、
一度や二度、受けただけで身につくものではない。
何度も、何度も、
命を賭けて向き合い、
理解し、
ようやく辿り着く境地だ。
だが、そんなはずはない。
なぜなら――
この技を“何度も受けた者”は、存在しないのだから。
それを、一度も受けていない相手が、
しかも初見で、ここまで完璧に対処する。
導き出される答えは、一つしかなかった。
これは、経験ではない。
熟練された“知識”だ。
クリスの思考は、完全に混乱していた。
だが、ヴィルは穏やかに続ける。
「クリス。
あの技を使うことは、もうないでしょう」
クリスは、言葉もなく、ただ頷いた。
「……はい。
レイズ様が……このまま成長なされたなら……
私など、もはや出る幕は……」
だが、ヴィルは首を振る。
「違います」
はっきりとした否定。
「クリス。
おまえにしかできないことがある」
その言葉に、クリスは顔を上げる。
「おまえがいるから、レイズは強くなる。
そして、レイズがいるから――
おまえも、必ず強くなる」
穏やかな声音で、だが確信をもって。
「成長とは、そうやって生まれるものです」
その言葉は、
クリスの胸の奥に、深く、静かに染み込んだ。
尊敬する師が。
誰よりも敬愛する存在が。
自分が仕えるべき相手として、
レイズを認めている。
それが、
なによりも――嬉しかった。
クリスは、拳を静かに握りしめる。
(……ならば)
この剣は、
この忠誠は、
すべてを――レイズ様のために。
彼は、そう心に誓った。




