表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悪役転生 レイズの過去をしる】続編のプロットができたので章を更新します。  作者: くりょ
新たな始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

615/642

グレイオンの血について。

アルバードの屋敷から、少し離れた丘道。

乾いた砂利を踏みしめながら、グレサスは振り向くことなく歩いていた。


その背を、クリスが黙って追う。

「……もう、いいでしょう」

沈黙に耐えきれず、クリスが口を開く。

「グレサス。それで……話とは?」


グレサスは立ち止まらない。

ただ、いつもの覇気を欠いた声で、思い出をなぞるように言った。

「ウラトス。お前が王国を出たのは……十三の頃だったな」

「そうだ」


即答だった。

「だが、今さらグレイオンに戻るつもりなどありません。

いまの私は――」


言い切る前に、言葉は遮られた。

「十五だ」


低く、淡々と。

「十五になれば……本来なら、父上から教わるはずだった」


一拍。


「だが父は、ヴィル・アルバードに殺された。

戦いと呼ぶのも馬鹿らしいほど、一瞬でな。

……雑兵が切り捨てられるようにだ」


クリスは眉をひそめる。


「それほど、ヴィル様は強かった。

そして私は、父を倒したヴィル様を恨んだことなどありません」


グレサスは、乾いた笑みを浮かべた。


「馬鹿を言うな。

私も、父を殺されたことを恨んだことなど一度もない」


「……では、なぜ?」

「喜びだ」

静かに、はっきりと。

「目指す目的を得た、その事実だけがあった」


クリスは言葉を失う。

「……それで、なぜ今、その話を?」


グレサスはようやく足を止め、腰を下ろした。

指で地面を示し、クリスに座るよう促す。


「長くなる」


一呼吸。


「ウラトス。

不思議に思わなかったか?」

「何を、です?」

「なぜグレイオンの者は、死を除くすべての属性を扱えるのか」

「それなら、あの魔王も――」

「違う」


グレサスは笑った。


「あれは別枠だ。

我らの父よりも、ヴィルよりも長く生きている。

実際は……爺さんだ」


「中身は子供ですがね」


「だからこそ、だ」


グレサスは指を立てる。


「この世界に、全属性を扱える者が何人いると思う?」


クリスは記憶を辿る。

――グレサス、クリス、ガイル。

それ以上は、思い浮かばない。


「四人だ」

四本の指。

「そして、その一人は――母だ」

「……母?」

「覚えているか?」

「いいえ。

物心ついた時には、もう……」


グレサスは、躊躇なく言った。


「名は、ルティ・グレイオン」

一瞬の沈黙。

「魔女の一人だ」


空気が凍る。


「……魔女?」

「そうだ」


低く笑う。


「その事実を知っているのは、今では俺とお前だけだ」

クリスは、自分の血を見つめるように手を握る。

「私の……半分は、魔女……」


だが、恐怖はなかった。

アルバードで過ごす日々において、魔女など考える暇はない。

王国と魔族――それだけが、世界のすべてだった。

「なぜ……十五まで教えてもらえなかったのです?」

「父の話だ」

「魔女の血は、十五を境に性質を変える。

魔力の質、身体能力……そして」


声が低く沈む。


「普通の者には見えぬものが、見えるようになる」

「……私は、ありません」


クリスは首を振る。


「鍛錬はしてきましたが、急激な変化の記憶もない」


グレサスは、わずかに息を吐いた。


「そうか……なら、まだいい」


だが、次の言葉は冷酷だった。


「もし、何かが見え始めたら――


その時は、俺もお前も、死を選べ」

「……なぜです?」

「愛する者がいるからだ」

「妻、子……」

「魔女の血は、近くの女を依り代に選ぶ」

名が挙がる。

「エルビス。ディアナ。クリアナ」


「……守ればいい」

クリスは強く言った。

「愛する者が魔女になっても、愛し続ければ――」

「違う」

即答だった。


「魔女になるのが問題ではない。

“誰か”に肉体を奪われる」

「名乗るのは、魔女の名。

だがその時、その身体にいた人格と名前は――死ぬ」


沈黙。


「前兆が出れば、どこに逃げても発動する」

「父は言っていた。

俺たちが男で良かった、と」

「母は……きっと、心配していた」

「そんなもの……レイズ様に相談すれば!」


クリスの声が、震える。


「レイズ様なら、死属性で――」


言葉が止まる。

――いまのレイズは、魔力すら使えない。


グレサスは、それを知った上で言った。

「言えば、あいつは必ず抗う」


「だが失敗すれば――

俺ならエルビスが。

お前なら、ディアナとクリアナが……あるいは両方だ」


クリスは、初めて言葉を失った。


「この話は、誰にもするな」

「前兆が出たら……迷わず死ね」


それは、命令ではない。


覚悟の共有だった。


ゲームの世界では、

グレサスもウラトスも独身だった。


だが、今の世界では違う。

妻がいて、子がいる。


だからこそ――

この世界には、悲劇が生まれる。

そしてこの真実は、

レイズですら、知る由もない。


沈黙を破るように、クリスはさらに問いを投げた。

「……なぜ、父は」


言葉を選ぶように、一拍置く。


「なぜあれほど魔族を毛嫌いし、

ましてや魔女を忌み嫌っていた父が――

その魔女を、妻に選んだのですか?」


グレサスは、思い出話でもするように笑った。

「父は王国騎士だ。

そしてな……実際の序列では、三位だった」


指を二本、三本と折りながら続ける。


「一位は、ヴィル・アルバード。

二位は、ヴィズ・アルバード」

「……父が、自分より上がいることを、

認めると思うか?」


クリスは、はっとする。

先ほどの戦い。

グレサスの言葉。


そして、幼い頃から叩き込まれてきた価値観。

――最強は、誰か。

その一点に対する異様な執着。


それは確かに、父から受け継いだものだった。

いや、グレイオンという血筋そのものが持つ、呪いに近い気質。

誇りであり、

目標であり、

そして絶対の信条。

誰よりも強く。

誰よりも最強であること。

それこそが、

グレイオンが最も愛し、

最も大切にしてきた言葉だった。


だが――

アルバード家の誕生によって、

その信仰は、無残にも打ち砕かれた。

「だからだ」


グレサスは、淡々と言う。


「普通の女と子を成したところで、

アルバードを越えられるとは……父は思わなかった」

「故に」

声が、低く沈む。


「父メイガスは、魔女を選んだ」

「愛があったかどうかは……分からん」

「だが、魔女との子であれば――

アルバードを越える存在を、

グレイオンから生み出せると信じたのだろう」


クリスは、鼻で笑った。


「魔女の血……

そんなものがあったところで」

一瞬、言い直す。

「……ヴィル様を。

いえ、レイズ様を越えるなど、到底無理です」


グレサスは、笑った。

そして――

珍しく、その言葉を否定しなかった。

「……そうだな」


短い一言。

そこに、悔しさも誇りも、もうなかった。

グレサスがここまで丸くなった理由は、

言うまでもない。

愛する妻がいる。

そして、守るべき息子がいる。

本来のグレサスであれば、

この話をクリスにすることなど、決してなかった。


だが――

グレサスは愛を知った。

家族を知った。

守るべきものの、重さを知ってしまった。

だからこそ。

「……伝える必要があった」

心の中で、そう結論づけたのだろう。

自身に残された、唯一の弟へ。


それは、

兄として初めて向けた――

不器用で、遅すぎる優しさだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ