歴史に残るあまりにも下らない戦い。
「グレサス、聞いたか!!
貴様のせいで……すべてが台無しだ!!」
怒号を上げたのはクリスだった。
普段の冷静さはどこにもなく、剥き出しの感情がその声に混じっている。
「ふざけるな!!」
即座に応じるグレサスの声もまた荒い。
「お前が無様にやられるのを防いでやったのだぞ!!
礼を言われこそすれ、責められる筋合いはない!!」
「私が――」
クリスは歯を食いしばり、睨み返す。
「私が、レイズ様以外に負けるなど……それこそ、ありえない!!」
その言葉と同時に、クリスは再び構えを取る。
すでにレイズ、ガイルと立て続けに戦い、そのままグレサスへと矛先を向ける三連戦。
さすがの彼も、肩で息をし始めていた。
「クハハハ!!」
それを見て、ガイルが腹を抱えて笑う。
「おいグレサス!!
そのまま、そのバカを沈めてやれ!!」
「……何か勘違いしているようだな?」
グレサスは冷ややかに視線をガイルへ向ける。
「ウラトスの次は――貴様だ」
「おい!!」
ガイルが眉をひそめる。
「俺は戦うつもりなんてねぇぞ!!」
「ふん」
クリスは鼻で笑った。
「レイズ様との一戦はともかく……
貴様らとの戦いなど、取るに足らない」
その一言が、火に油を注いだ。
こうして、
クリス・グレサス・ガイル
三者が互いに引くことなく、三つ巴の戦いへと突入していく。
魔力がぶつかり合い、地面が震え、空気が悲鳴を上げる。
その余波はあまりにも激しく、周囲にいる者たちを否応なく巻き込もうとしていた。
「ちょっと!!
いい加減にしなさい!!」
イザベルの声が張り上がる。
「子供たちに、なにかあったらどうするの!!」
だが、その叫びは誰の耳にも届かない。
「クリス!!
もうやめなさい!!」
ディアナの声も虚しく掻き消される。
「パパ、やめてぇぇ!!」
クリアナの悲鳴。
「パパだ!!
パパを呼ばなくちゃ!!」
レイナが走り出す。
「私も呼んできます!!」
リアノもそれに続いた。
「ちょっと!!ガイル!!」
今度はルルが必死に叫ぶ。
「あなたはレイズさんに会いに来たんでしょう!!」
「ぁあ!?」
ガイルは苛立ったように振り返る。
「んなこと言っても、こいつらが――!!」
その瞬間。
「――やめよ!!!!」
場を切り裂くような、威厳ある声が響き渡った。
「その戦いを、止めに来た!!」
王国の王――リオネルの声だった。
「こ、国王様!?」 「え!? なんでリオネル陛下が!?」
民衆がざわめく。
「ほら!!」
システィーが声を張る。
「みなさん、陛下の命令に背くおつもりですか!?」
「やめてください!!」
ルイスも前に出た。
「師匠!!
それに、クリスさんも!!」
そうしてルイスは戦いの中へ飛び込む。
神聖属性を全力で解放し、グレサスの剣を弾き、クリスの攻撃を受け流し――
そして、ガイルの腕を掴んだ。
「お、おい!!」
ガイルが叫ぶ。
「俺を掴むな!!
掴む相手、間違えてんだろうが!!」
「ほぉ……」
グレサスは目を細める。
「私の攻撃を弾くとは……
また一段と成長したな、ルイス!!」
その言葉に、グレサスの闘志はさらに燃え上がる。
「よろしい……」
クリスが不敵に笑った。
「ここまで来たら、誰が最も強いのか――
知らしめてやるとしましょう」
リオネルの存在すら、もはや歯止めにならない。
「最強など下らない!!」
リオネルは静かに、しかし強く言い放つ。
「いまの世に、最強などという称号に価値はないというのに!!」
――だが、その言葉も届かない。
「パパ!!
大変だよ!!」
走り込んできたレイナが叫ぶ。
続いてリアノも続く。
「クリスさんが!!
魔王と、王国の騎士さんと……
すごいことになってるんだから!!」
「レイズくん!!お願いみんなを、とめてください!!!」
「……はぁ!?」
レイズは唖然とした。
「なにしてんの!?」
即座に外へ飛び出す。
そこに広がっていたのは、もはや収拾のつかない大混乱。
「なんでだ!!
グレサス!!
ガイル!!
やめろ!!」
「それになんでルイスまでいるんだ!!」
その瞬間。
グレサスが剣に黄金の魔力を重ね、巨大な剣の形を宿した魔力を振りかぶる。
対するクリスは、魔力で巨大な腕を形成し、拳を固め、その剣へ叩きつける。
「てめぇらまとめて!!
吹き飛べやぁぁぁ!!」
ガイルもまた、腕を交差し、新たな極大魔法を放とうとする。
「ちょっと!!
子供が!!
みんなが巻き込まれちゃう!!」
あまりにも膨大な魔力同士の衝突。
凄まじい風圧が渦を巻き、空間そのものが悲鳴を上げる。
その中心へ――
ルイスは神聖のバリアを全力で展開。
そして。
レイズも飛び込んだ。
腕をかざし、死属性を使おうとして――
「……しまった!!
俺、魔法使えないんだった!!」
「や、やばい!!
マジで死ぬ!!?」
だが。
次の瞬間。
すべての魔力が、一点に収束し――
跡形もなく、消え去った。
「な……!?」 「こ、これは……!!」
「レイズ様ぁぁぁ!!」
クリスが叫ぶ。
だが、レイズは――無傷で立っていた。
「なんだ……?
おまえ……は……?」
グレサスが目を見開く。
「よぉ、レイズ。
元気にしてたかよ?」
ガイルが笑う。
だが。
レイズの前に、白い影が立ちはだかる。
白い小動物。
大きく口を開け、魔力を吸い込むように――
すべてを平らげてしまった存在。
「……ゲフゥ……」
膨大な魔力を食べたせいか、腹はぱんぱんに膨れ、まんまるになっている。
「……こ、こいつは……?」
レイズが呟く。
「レイズ様、ご無事で!?」
駆け寄ろうとするクリスに――
「おまえ!!
なにしてんだよ!!」
レイズの拳が炸裂した。
ドゴォォン!!
地面に沈むクリス。
「クハハハ!!」
ガイルが大笑いする。
「ざまぁねぇなぁ!!」
「ほぉ……」
グレサスが感心したように呟く。
「ウラトスを一撃で沈めるか……」
「遅すぎるのよ……バカ!!」
イザベルが怒鳴る。
ディアナは倒れたクリスを抱きかかえ、容赦なく叱りつける。
「ほら!!クリス!!
今回ばかりは……許しませんよ!!」
「ぱぱ……?
だいじょうぶなの……?」
クリアナの声。
だが、誰もがすぐに気づく。
視線が、一斉に集まる。
――まんまるに膨らんだ、愛らしい小動物へ。
小動物は、こてん、と横になった。
「……なんなんだ、こいつ……?」
レイズは目を細める。
「おまえ……まさか……
レアリス……いや、違う……」
そして。
白い小動物は、ただ静かに――
じっと、レイズを見つめていた。




