落ち込むレイズ
そうして、次々と集結していく中――
最初にアルバードへ到着したのは、空を裂くように舞い降りたスカイドラゴンと、その背に跨るガイルとルルだった。
本来であれば、アルバードの面々は礼を尽くして迎えるはずだった。
魔王であり、同盟者であり、そして何より――レイズの旧友であるガイルを。
だが。
その瞬間、クリスが一歩前に出て、静かに告げる。
「皆様、お下がりください」
その一言で、動こうとしていた使用人たちの足が、ぴたりと止まった。
空気が張り詰める。
ディアナの腕に、ぎゅっとしがみつく小さな影。
クリアナだった。
「ママ……ドラゴン……?
だいじょうぶなの……?」
不安げに尋ねる娘に、ディアナは肩をすくめ、呆れたように答える。
「ええ。パパがいる限りは……大丈夫よ」
その頃、スカイドラゴンの背で、ガイルが大きく手を振る。
「よぉー!!
レイズに会いに来たぜ!!」
続いて、少し慌てた様子でルルが頭を下げる。
「み、みなさん……すみません……
こんなに目立つつもりは、なかったのですが……」
――返事はなかった。
次の瞬間。
ヒュッ、と風を切る音。
クリスは無言で、木刀をガイルへと投げつけていた。
「おわっ!? おまえ!!
……って、これ……重木じゃねぇか!!
何のつもりだぁ!?」
ガイルは反射的に、片手でそれを掴み取る。
その瞬間、スカイドラゴンの体勢がわずかに沈んだ。
ただの木刀ではない。
常人なら、受け取るだけで命に関わるほどの異常な重量。
ガイルは舌打ちしながら、スカイドラゴンから地面へと飛び降りる。
着地と同時に、地面がわずかにめり込んだ。
「はぁ……元気そうでなによりだ。
で? これはどんな挨拶だよ」
クリスは微笑むように答える。
「受け取りましたね。
では――やることは一つです」
ガイルは即座に木刀を放り投げ、手放した。
「やるかっての!!
それより、レイズはどこだ!
せっかく会いに来たってのに、まだ寝込んでんのか?」
探索魔法を放ったはずだった。
確かに“何か”は捉えていた。
だが、ガイルは気づいていない。
今のレイズには、魔力そのものが存在しないという事実を。
クリスは一歩踏み出す。
「レイズ様に会いたければ――
私と戦え!!」
「はぁ!?
なんでそうなんだよ!?
別に何かするつもりなんてねぇだろ!!」
そう言いながら、ガイルは屋敷へ向かって歩き出す。
「隙あり!!」
次の瞬間、クリスが飛びかかった。
「ちょ!! てめぇ!!」
――こうして、始まってしまった。
クリス VS ガイル。
ディアナは頭を抱える。
(……なぜ、さっきレイズ様にやられた不意打ちを、そのままガイルにやってるのよ……)
クリアナが小声で尋ねる。
「ママ……これって……」
「あとで、パパをしっかり叱りましょうね」
冷静な声だった。
カイルが戸惑いながら叫ぶ。
「父様……なぜ……
クリス様は、あんなことを……」
ルイスは、即答する。
「わかりません」
システィーは微笑んで、子どもたちを促した。
「気にしなくていいのよ、カイル。
ほら、あっちでレイナちゃんやクリアナちゃんと遊んでおいで。」
「えっ……でも……」
その時。
「た、大変です!!」
門番の騎士が駆け込んでくる。
「住民たちが……
見物をしたいと、門に押し寄せています!!」
リアナが、楽しそうに言った。
「面白そうだから、入れてあげてください」
「リ、リアナ!?
そんな勝手なことを――」
リアナは笑いながら肩をすくめる。
「大丈夫よ。
一番怒られる人は、もう決まってるもの」
――誰が叱られるか。
全員、理解していた。
「おらぁぁ!!」
ガイルの蹴りが飛ぶ。
拾い上げた重木を構え、吼える。
「いい加減にしろよ!!
なんで戦わなきゃならねぇんだ!!」
クリスは冷静に言い放つ。
「貴様は魔王だろう!!
魔王である以上、戦いは避けられない!!」
「ぁあ!?
魔王って……いつの話してやがんだよ!!」
いつの間にか、声援が飛び交い始める。
「ガイル様ぁぁ!!」
「負けないでぇぇ!!」
完全に火に油だった。
「おまえらぁぁ!!
俺はレイズに会いに来ただけだっつってんだろぉぉ!!」
アルバードの屋敷の外は、もはや祭り騒ぎだった。
――その頃。
レイズは自室で、静かに沈んでいた。
先ほどの模擬戦で見せた、自身の醜態を反省するかのように。
「まったく……レイズくん。
ガイルさんが、来たみたいよ?」
「……今は、そっとしておいてほしいんだ」
「そうじゃ……なくて……もう!」
イザベルは溜息をつき、外へ向かう。
レイナは振り返り、そっと言った。
「パパ……かっこよかったよ?」
慰めるような声とともに、去っていく。
レイズは、まだ気づいていない。
――この騒動を止められるのが、
今、この場で唯一レイズだけであることを。
そして、ガイルとクリスの戦いは、さらに激しさを増していくのだった。




