表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悪役転生 レイズの過去をしる】続編のプロットができたので章を更新します。  作者: くりょ
新たな始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

607/634

二度目の渇き。

レイズが転生して、二日目の朝。

まだ空気に夜の名残が残る早朝、その身体はすでに屋敷の外に立っていた。


「――ぬぉおおっ……!」


情けない叫び声とともに、木刀が持ち上げられる。

いや、正確には、持ち上げようとしているだけだった。

(……おい)

意識の奥で、本来のレイズが呆れたように呟く。

(こんな朝っぱらから、外に出て何してやがる)


木刀はぷるぷると震え、数瞬後には力尽きる。

そのたびに身体の主は大きく息を吐き、また構え直した。

(……本気でやめてくれ。

木刀を持ち上げただけで、何を得意になってる)


本来のレイズにとって、それは耐え難い光景だった。


こんな情けない鍛練など、誰にも見せたことはない。


見せるくらいなら、最初からやらない。

――だが。

「……すごい……」

静かな声が、朝の空気を揺らした。


り返ると、リアナが立っている。


その瞳には疑いも嘲りもなく、ただ純粋な感心だけが宿っていた。

(……は?)

(演技も大概にしろよ。

どうせ内心じゃ、俺のことを見下してるんだろ)

だがリアナは、そんな気配を一切見せない。

むしろ、どこか誇らしげに微笑んでいた。


その直後だった。

「……朝から励んでいるな」

いつの間にか、ヴィルがそこに立っていた。

彼は淡々と今日の予定を告げる。

「昼食後はイザベルに魔法を教わりなさい。」

(……は?)

本来のレイズの意識が跳ね上がる。

(正気か……?

イザベルだぞ……あいつは……)


記憶の中のイザベルは、冷たかった。

再会してから、一言も言葉を交わさない。

視線すら、向けてくれなかった。


嫌われているのだと、ずっと思っていた。

それが誤解だったことを、本来のレイズはまだ知らない。


昼食の時間。

卓に並んだのは、豪快な豚の丸焼き。

そして、申し訳程度に添えられたサラダ。

(……おい)

(まさか……それを……?)

身体の主は何の迷いもなくフォークを伸ばし、サラダを口に運ぶ。

咀嚼し、飲み込む。

(……は?)

(やりやがった……)


本来のレイズの驚きなど、この身体には届かない。


食堂を出ると、リアノが立っていた。

心配そうな表情でこちらを見ている。

身体の主はなぜか腕に力を込め、意味不明な言葉を口にした。


「……是非もなし」


(やめろ……ほんとに……

頼むから、これ以上恥をかかせるな……)


意識の奥で、レイズは顔を覆いたくなる。

大書庫へ向かう途中、リアナに同行を命じるが、当然のように断られる。


(……当たり前だ)

(本来なら、俺と一秒だって一緒にいたくないはずだ)


そう思いながら書庫に入ると、そこにはイザベルがいた。


身体の主は緊張した様子で声をかける。


イザベルは嫌悪の色ひとつ見せず、自然に応対した。

(……なんでだ)

(なんで、こいつとは普通に話してるんだ)


理解できなかった。


(ヴィル爺の差し金か……?

俺とは話すなって、言われてたのか……?)


誤解だけが、胸の中で積み重なっていく。

やがて二人は草原へ出る。

交わされる会話の一つ一つが、本来のレイズの心を削っていった。


(ふざけるな……)

(俺の身体で……

イザベルと、そんなふうに……)


だがイザベルは気づいていた。

目の前のレイズが、レイズではないことを。

事情が語られる。

痩せたいこと。


そして、レイズを救いたいこと。


(……俺を……救う?)


意味がわからなかった。


(かっこつけたいだけじゃないのか……)


嫉妬に似た怒りが、意識の奥で渦巻く。

屋敷へ戻り、入浴の場にはクリスの姿まであった。

(……クリス)

(俺とは、まともに会話すらしなかったくせに……)

なぜ、こんなにも世界は変わってしまったのか。

木刀を振り、情けない姿を晒しながら、それでも受け入れられていく今のレイズ。

かつての自分は、誰からも目を合わせてもらえなかった。


――理由は、わかってしまった。


能力でも、容姿でもない。

自分の在り方、そのものが、間違っていたのだ。


部屋に戻ると、綺麗に整えられた室内が広がっていた。

そして――

(……ない)

(……絵が……)

(メルェの……絵が……)


激しく意識が叫ぶ。


(返せ……!

あれだけは……あれだけは……!)


だが身体は、何事もなかったかのように横になり、眠りに落ちる。

必死の抵抗が続く。


そのたびに、あの渇きが、再び身体を蝕み始めた。


水を求め、這い出す身体。


限界を迎える。


そこへリアノが駆け寄る。

再び口に手を突っ込まれ、水が流し込まれる。

抱き上げられ、ベッドに横たえられる。

(……リアノ)

(おまえも……わかってるだろ……

あの絵が……)


だが、その意思は届かない。

こうしてレイズは、二度目の「死にかけた渇き」を、味わうことになるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ