風に包まれた誓いの墓前
式の最中――。
鐘の音が遠くで鳴り響く中、レイズはふと足を止めた。
胸の奥で小さく脈打つ“もう一つの誓い”が、彼を導く。
「……少しだけ、寄っていこう。」
その言葉に、リアノとリアナ、イザベル、そしてレイナが静かに頷く。
四人は祭壇をあとにし、陽の差す丘の奥へと歩き出した。
白い花々が咲き乱れるその先――そこに、四つの墓が並んでいた。
ヴィルの墓。
メルェの墓。
セバスの墓。
リリアナの墓。
いずれも静かな眠りの中にありながら、まるで今日という日を見届けるために微かに光を帯びているようだった。
リアノは膝をつき、両手を胸の前で合わせた。
墓碑に刻まれた「メルェ」の名を指先でなぞり、震える声で囁く。
「メルェ……。私はね、あなたがいたから、今ここに立てています。
あなたが……レイズくんと私を繋いでくれて…導いてくれたから……私は彼と結ばれることができました。」
声がかすれ、涙がこぼれそうになる。
「……ごめんなさい。本当は、あなたもレイズくんのことを……」
言葉を続けようとした瞬間、柔らかな風が吹いた。
髪が揺れ、花が舞い、まるで“いいよ!”と語りかけるようにリアノの頬を撫でた。
リアノは目を閉じ、静かに微笑む。
その風は、どこか懐かしく優しい――まるで、メルェの手のようだった。
隣では、リアナがヴィルの墓の前に立っていた。
真っすぐに刻まれた名前の前で、彼女は深く頭を下げる。
「……ヴィル様。」
声が震えていた。
「私が……レイズくんと結ばれることを……どうか、お許しください。
あなたが守ってくれた“未来”を、私は決して無駄にはしません。
あなたの意思を、ちゃんと引き継ぎます。」
風が木々を揺らす。
枝葉の隙間から光が差し、ヴィルの墓を包み込んだ。
まるで、穏やかな笑顔で“よくやったな”と彼が見守っているように。
リアナは涙を拭い、小さく笑った。
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その隣で、イザベルは静かに目を閉じた。
彼女の前には、かつてこの屋敷を見守った老人――セバスの墓。
「おじいさま。……あなたなら、きっともう分かっているんでしょうね。」
優しく墓石に触れながら、彼女は微笑む。
「今日、レイズくんがやっと幸せを手に入れました。
ね? おじいさま。……あなたも、認めてくれますよね。」
微かに風鈴のような音が鳴り、墓前の花が揺れる。
それは、まるで“あぁ、もちろんだ”と笑っているようだった。
その横で、レイナが墓を見上げながら不思議そうに首をかしげる。
「ねぇ、パパ。セバスさんとリリアナさんって、どんな人だったの?」
レイズは少し驚き、それから優しく笑った。
「そうだな……。
セバスは、誰よりもかっこいい執事だった。
どんなときも冷静で、誰よりも人を支えるのが上手な人だ。
クリスが彼に憧れて剣を磨いたほどなんだ。」
「へぇ~……すごい人なんだね。」
レイナはぱっと笑顔を見せ、隣の墓を指さした。
「じゃあ、このリリアナさんは?」
レイズは一瞬、言葉を詰まらせた。
墓石に刻まれた名を指でなぞりながら、静かに語る。
「リリアナは……俺を育ててくれた。血は繋がっていないけど、俺にとっては母さんそのものだ。
とても優しくて……とても綺麗な人だった。
俺が迷っていたとき、いつも隣で笑ってくれてたんだ。」
その声には、懐かしさと感謝が滲んでいた。
レイナはぱぁっと顔を輝かせて言う。
「じゃあ……リリアナさんは、わたしのおばあちゃんだね! おばあちゃん、ありがとうっ!」
彼女の明るい声が、墓地に響く。
その瞬間、風がまた吹いた。
暖かく、包み込むような風。
まるで四つの墓から優しさが流れ出してくるようだった。
イザベルがそっと目を細める。
「……感じるね。
みんな、ちゃんと見てくれてる。」
レイズは空を見上げ、小さく頷く。
「……あぁ。
この風は、きっと――あいつらの祝福だ。」
リアノとリアナは手を取り合い、微笑んだ。
そしてレイナがくるりと回って、笑顔で叫ぶ。
「みんな! 見ててね! パパたち、ちゃんと幸せになるから!」
その声に、丘の上の花々が一斉に揺れた。
柔らかな陽光と共に、風が彼らの頭を優しく撫でていく。
それは、過去と未来を繋ぐ――穏やかな“再会”の風だった。




