永遠の誓い、氷と風の祝福
祭壇の鐘が鳴り響く中、レイズはゆっくりと歩を進めた。
左手にはリアノの手。右手にはリアナの手。
互いの指先がかすかに震え、けれどその温もりは確かな絆を宿していた。
その姿に、参列していた人々は息を呑む。
――男一人に、花嫁が二人。
かつて前例のない光景。だが、その歩みは不思議なほど自然だった。
まるで初めから、この三人が並んで歩く未来が定められていたかのように。
白い花弁が舞い、光が差し込む。
やがて三人は祭壇の前――神父のもとへと導かれる。
神父は微笑みながら静かに言葉を紡ぐ。
「それでは、誓いの儀を始めましょう。」
レイズの胸に静かな緊張が走る。
かつて幾千の戦場を渡り、死をも恐れなかった男が、
この瞬間ばかりは足がすくむほどに胸が高鳴っていた。
「レイズ=アルバード。
あなたはこの二人を、永遠に愛し、支え、共に歩むことを誓いますか?」
レイズはゆっくりと頷き、低く、しかし確かな声で答える。
「……誓います。」
その言葉に、リアノとリアナが顔を見合わせ、微笑む。
神父が頷き、続けて二人にも同じ誓いを問う。
リアノは静かに息を吸い込み、柔らかく言葉を紡ぐ。
「はい、誓います。」
リアナは涙をこらえながら、笑顔で答える。
「わたしも……誓います。」
会場の空気が柔らかく包まれ、花の香りが広がる。
やがて神父が差し出した小箱から、二つの指輪が取り出された。
レイズはその箱を受け取り、慎重に開く。
ひとつは深い青の宝石をはめた指輪。
もうひとつは緑の光を帯びた指輪。
「……リアノには、静かな海のような青を。
リアナには、春の風のような緑を。」
そう呟きながら、レイズは一人ずつの指にゆっくりと指輪をはめていった。
リアノの瞳に涙が浮かび、リアナは頬を染めながら微笑む。
その光景を見届けた神父が、穏やかに頷いた。
「では、レイズ=アルバード。
あなたの誓いを証すために――“誓いの口づけ”を。」
静寂。
レイズは二人の顔を交互に見つめ、ふと気づく。
――そういえば、この三人で“口づけ”を交わしたことは一度もなかった。
どうすればいいのか、頭の中が真っ白になる。
頬に汗が伝い、場の空気が妙に重くなる。
「……え、えっと……」
困惑しているレイズを見て、リアナが我慢できなくなった。
「もうっ……レイズ様ったら!」
そう言うや否や、勢いよく飛び込んできて、レイズの唇を奪った。
「ちょ、リア……!?」
会場に笑いが広がる。
レイズは目を見開いたまま固まっていたが、
やがて小さく笑い、彼女を優しく抱き寄せた。
その光景を見ていたリアノが、そわそわと視線を泳がせる。
彼女の頬は真っ赤に染まり、唇を噛んでいる。
レイズはその姿を見て、静かに近づいた。
「……リアノ、今度は俺からだ。」
彼はそっと彼女の頬に手を添え、ゆっくりと口づけを交わした。
リアノは瞳を閉じ、震える唇でそれを受け止める。
短く、けれど確かな温もりが交わされた。
参列者たちの間に拍手と歓声が湧き上がる。
イザベルが呆れたようにため息をつきながら、微笑んだ。
「……まったく。式の前に一回くらい練習しておきなさいよね。」
ディアナは隣で苦笑する。
「ほんと……段階がいつもおかしいんです。
でも――すごく、素敵ですね。」
その隣で、クリスがなぜか泣いていた。
そして頭には、こぶが一つ。
きっとディアナに叩かれたのだろう。
だが、泣いている理由は痛みではなかった。
彼女たちが、どれほど長い時を越えてこの瞬間に辿り着いたか、
誰よりも知っていたからだ。
「リアノ……リアナ……本当に……おめでとうございます。」
彼は小さく呟き、静かに涙をぬぐった。
そのとき、会場の隅で突如として歓声が上がった。
「おい……グレサスが……!!」
視線が一斉に向く。
そこでは、グレサス=グレイオンが堂々とエルビスに――キスをしていた。
「ちょ、ちょっと!? グレサス!? なにを――っ」
顔を真っ赤にしたエルビスが叫ぶ。
グレサスは豪快に笑いながら答える。
「なに、あんな不器用なキスを見ていられなくてな。
お手本を見せてやっただけだ!」
「おまえのそれはただの――不埒だ!!!」
クリスが全力でツッコミを入れる。
「式の最中に何をしているんですかっ!」
「はっはっは、硬いことを言うな若造!」
そう言ってグレサスは豪快に笑い、周囲からまた笑いが起こる。
祝福の鐘が高らかに鳴り響き、
花弁が舞い上がる中、レイズたち三人は静かに見つめ合った。
戦いの果てに見つけた、穏やかな未来。
誰もが待ち望んだ、永遠の誓いの瞬間だった。
氷と風が交わり、祝福の光が降り注ぐ。
この日、アルバードの国に――新たな時代の鐘が鳴り響いた。




