最強のアホ二人
式の準備。
アルバードの喧騒もようやく落ち着き、屋敷の中では慌ただしくも華やかな準備が進められていた。
それは――リアノとリアナを迎えるための「祝福の儀」の支度だった。
レイズは鏡の前で燕尾服のような礼装を整えながら、深いため息をついた。
「……二人同時って、神様はどう思うんだろうな……?」
罪悪感と緊張が入り混じったような表情。
その背中にクリスが胸を張って言い放つ。
「祝福されるに決まっています!」
「ま、まぁ……クリスならそう言うと思ったけどな!」
ディアナが微笑みながら口を添える。
「いいえ、レイズ様。クリスだけではありません。私も……皆、そう思っています。」
そこへイザベルがひょいと顔を出し、にやりと笑った。
「そうよねー。だって二人同時に迎えるどころか、妻が目の前にいるのに新しく迎えるんだもの。――もう、絶対に祝福されるに決まってるじゃない♪」
「や、やめろぉ!! 一気に怖くなってきた!!!」
レイズは顔を引きつらせ、手をわたわたさせる。
イザベルは肩をすくめて笑った。
「どうするの? “迎えない”って選択はないでしょ?」
「……ない。」
「なら、まっすぐ迎えてあげなさい。リアノもリアナも、そのくらい真っ直ぐな気持ちで迎えられたほうが幸せよ。」
レイズはぐっと拳を握る。
「そうだな! よし、決めた! 形式なんて関係ない!! みんなの前で、俺は――リアノとリアナを抱き締めて、大回転してやる!!!」
「おおっ!!!」
クリスが即座に拳を掲げる。
「それはあまりにも神々しい宣言であります!!!」
「だろう! 見てろよ!!!」
レイズは何も持たずに腕を広げ、くるくるとその場で回り出した。
イザベルは腹を抱えて笑う。
「ほんとバカなんだから!!」
ディアナは冷静に呟く。
「……みんなの前で回る必要、ないでしょ……」
「そうねぇ、大回転よりも――キスでもしなさいよ。」
イザベルの言葉も虚しく、レイズは止まらない。
クリスが興奮した声で叫ぶ。
「レイズ様! 今の回転は……まるで輪廻を司る真理そのものです!!!」
「ハッハッハ!! そうだろう!!!」
レイズはさらに速度を上げ――目が回り、そのままへたり込んだ。
「レ、レイズ様ぁ!? どうされましたか!!」
駆け寄るクリスに、レイズはふらふらと手を伸ばす。
「き……気持ち悪い……」
「レ、レイズさまぁぁぁぁぁ!!!」
屋敷中に響くクリスの絶叫。
イザベルは涙を流して笑い転げ、ディアナは額を押さえる。
「まったく……でも、あれがレイズなのよね。」
ディアナは真顔で言った。
「……あとでクリスを叱っておきます。」
「ほどほどにね?」
イザベルは苦笑しながら肩をすくめた。
そして――。
レイズとクリス。二人が揃えば、やはり“最強のアホ”であった。




