【おまけ】ガイルとルルのその後
風が裂け、雲を抜ける。
青空を背に、スカイドラゴンが悠然と羽ばたいていた。
その背に乗るのは、黒髪を風になびかせるガイルと、
その背にしがみつくルルの姿。
「ガイル……?」
ルルが、そっと問いかける。
彼女の髪が風に揺れ、瞳はどこか切なげだった。
「ん? なんだ?」
「まさか……二人で、こんなに世界を見てまわれるなんて思ってなかった。
……どうして、私を連れてきてくれたのかなって。」
ガイルはふっと笑った。
「ルル、それを言わせんのかよ。」
「だって……ちゃんと、言われてないから。」
ルルは微笑む。その笑顔に、どこか期待が混じっていた。
ガイルは小さくため息をつく。
そして、少し恥ずかしそうに顔をそらす。
「ルル……俺はな。
お前が死ぬかもしれねぇって思ったとき、真っ先に頭に浮かんだのは……自分の命じゃなくて、お前だったんだ。」
ルルの目が輝く。
その瞳に、ガイルの姿が映り込む。
「……それでな。気づいたんだよ。
もし俺が一人だったら、こんなふうに世界を旅しようなんて思わなかった。」
「ほんとかなぁ?」
ルルが笑う。ガイルは肩をすくめながら、真っ直ぐに言葉を続ける。
「本気だ。
俺はルルがいるから、この世界を見て回りたいって思ったんだ。」
「つまり……一人だと寂しいから?」
ルルがいたずらっぽく笑う。
ガイルは顔をしかめて、
「わかってて言ってんだろ?」と返す。
ルルはその表情を見て、嬉しそうに頷く。
「はい。でも……ちゃんと聞きたかったんです。」
「……ぁあ。」
ガイルは、少しだけ声を落とした。
風の音が止まり、空が二人を包み込む。
「俺は、ルルを愛してる。
だから……ルルじゃなきゃダメなんだよ。」
その言葉に、ルルの目からぽろりと涙がこぼれた。
けれどその涙は、悲しみではなく、幸福のしるしだった。
「はい……私も。ガイル様を愛しています。知ってましたか?」
ガイルは照れ隠しに豪快に笑う。
「んなもん、とっくに知ってるぜ! クハハハ!」
二人の笑い声が、青空に響いた。
ルルはふと、遠くの空を見上げて呟く。
「これも、すべて……レイズさんのおかげなんですよね。」
「ああ……」
ガイルは真剣な眼差しで空を見上げた。
どこまでも高く、どこまでも遠くへ。
「だがな、ルル。俺は思ってる。
あいつとは、また会えるってな。」
ルルは頷き、涙をぬぐう。
「……はい。私も信じます。」
「よし、じゃあ決まりだ!」
ガイルは空を見上げ、拳を突き上げる。
「次に会ったときは、
この旅で見てきたすべての景色を、あいつに語ってやろうぜ!」
「はい!!」
ルルは笑顔で答える。
スカイドラゴンが翼を大きく広げ、
太陽へ向かってゆっくりと上昇していく。
空の果てへ、ふたりの姿はやがて溶けていった。
――そして、ガイルの直感は正しかった。
レイズは、確かにこの世界へ帰ってきていた。
その事実をガイルとルルが知るのは、
それからさらに数年後のこととなる。




