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――世界が見た、帰還の朝 (最終回)



 ――その知らせは、瞬く間に世界を駆け巡った。


 レイズが戻ってきた。


 誰かの叫びが、祈りが、風に乗って伝わるたびに、

 遠く離れた国々の人々が顔を上げ、息を呑んだ。


 


 帝国では、ルイスとシスティーヌが最初に立ち上がった。

 「アルバードへ向かう。」

 その言葉を聞き、幼い息子――カイルもまた父母の手を握った。


 王国では、リオネルが即座に馬を走らせ、

 隣にはグレサス。そしてなぜかその手を握るエルビスの姿があった。

 「落ち着いてください!リオネル陛下!」

 「うるさい、今だけは子供に戻らせてくください!」

 笑いと涙が混ざるような、そんな再会の旅路だった。


 世界樹の麓からは、フェリルと――レイズの祖母、レイ。

 彼女は震える手を握りしめながら、

 「もう一度、あの子に……触れたい」と呟いた。


 イザベルの父、ガルシアもまた馬を駆る。

 ――この世界の誰もが、ひとりの男の名を呼びながら、

 アルバードを目指していた。


 

 だが、その知らせを知らぬ者たちもいた。

 それがガイルとルル。

 二人はもう戦うことをやめ、世界を旅していた。

 戦のない穏やかな地を探しながら、

 ただ空と海と風を見て笑っていた。

 それもまた、レイズが望んだ“平和”の形のひとつだった。


 

 そして、アルバードの屋敷。


 最初に到着したのは、レイだった。

 息を切らし、涙で顔を濡らしながら、

 彼女はベッドに横たわるレイズを抱きしめた。


 「レイズ……レイズ……レイズ……!」


 嗚咽をこらえず、その名を何度も呼ぶ。

 「う……苦しいよ、おばあちゃん……」

 かすれた声に、レイは再び涙を溢れさせる。


 「……夢じゃ、ないんだね……」



 その後を追うように、フェリルが入ってくる。

 「本当に……良かった……」

 彼女の頬もまた、涙に濡れていた。


 レイズはまだベッドの上から動けない。

 それでも、その眼差しは確かに生きていた。


 

 そして、扉が勢いよく開く。


 「レイズ様ああああああああ!!!」

 リオネルだった。

 堂々たる王の装いに身を包み、

 それでも昔と変わらぬ少年のように泣きじゃくりながら。


 「っ……お前……王様のくせに……泣き虫になったな……」

 レイズが微笑むと、リオネルはさらに涙をこぼした。


 その背後には――年を重ね、髭を生やしたグレサス。

 「ハハハハッ!! まさか戻ってくるとはな、貴様!」

 そう言いながらレイズの手を掴むと、

 背後からエルビスが怒鳴った。

 「あなた! 力を入れすぎです!」

 その胸には、小さな子供が眠っていた。


 「お前……まさか……!」

 「ハハ、そうだ。父親になったんだ、レイズ。」

 その笑顔に、レイズも思わず涙をにじませた。


 

 次に訪れたのは、帝国の使節団。

 ルイスとシスティーヌ、そしてその間に立つ幼い少年。


 「レイズ様……本当に……待っていました。」

 ルイスの声は震えていた。

 システィーヌはもう言葉にならず、ただレイズの手を握りしめて泣いていた。


 「父上、母上……この人は……?」

 カイルが小さな声で問う。

 その瞳には、どこか不思議な光があった。


 ルイスは静かに答える。

 「この方は――誰よりも偉大な人だ。カイル、挨拶をしなさい。」


 「……カイルと申します! レイズ様にお会いできて……光栄です!」


 レイズは、まるで過去と未来が交差するような感覚に包まれた。

 ――チュートリアルで自分を殺した“カイル”。

 あの少年が、今はルイスとシスティーヌの子として、

 この世界で笑っている。


 「……カイル、っていうのか……いい名前だな。」

 そう言って、レイズは小さく笑い、

 その髪を優しく撫でた。


 「……ルイス。カイルにしたんだな?」

 「はい。私とシスティーヌの名を重ねた、大切な名です。」


 「そうか……」

 その笑顔には、涙とともに深い安堵が滲んでいた。


 

 次々と訪れる面々。

 部屋はやがて、再会を祝う“温もりの光”で満たされていった。


 リアノが困ったように微笑む。

 「レイズくん……まだ、無理しないで……」


 レイズは穏やかに首を振り、

 「ははは……是非もなし。」と呟いた。


 その懐かしい口調に、皆が息を呑んだ。

 “本当に戻ってきた”――その言葉が、誰の胸にも確信として落ちた瞬間だった。


 


 レイズはしばらく静かに周りを見渡し、

 ゆっくりと語りかける。


 「リアノ……リアナ……今でも俺のこと、愛してくれてるか?」


 リアノもリアナも、泣きながら頷く。

 「もちろんです……!」

 「ずっと……信じてました……!」


 レイズは、少し照れたように微笑み、

 「それじゃあ……本当に待たせてしまったけど……迎えてもいいか?」と囁く。


 リアノとリアナは、その場に泣き崩れた。

 その姿を見た者は、誰も声を出すことができなかった。


 

 ――すべてが報われたのだ。


 この日、世界は静かに祝福した。

 数多の命が繋がり、幾千の願いが実った日。


 レイズはもう一度、この世界で生きる。

 愛し、笑い、涙しながら――

 誰もが願った、**真の“ハッピーエンド”**の形として。


 

 アルバードの空は、

 あの日と同じ光に包まれていた。

 鳥たちが歌い、風が草原を撫でる。


 その光景の中で、レイズは小さく笑った。


  「本当にさ……笑えるだろ?」


 ――そして物語は、静かに幕を下ろした。


【作者より】


 ――長い旅路の果てに、物語はついに幕を下ろしました。


 ここまでこの世界を共に歩んでくださった皆様へ、

 心からの感謝を申し上げます。


 レイズという名の一人の男を通して、

 苦しみも、希望も、そして愛も描くことができたのは、

 読んでくださった皆様がいたからこそです。


 この物語は終わりを迎えました。

 けれど、終わりは――始まりでもあります。


 私はまた、筆を取り、新しい世界を描きます。

 次に生まれる物語でも、きっと誰かが涙し、笑い、愛するでしょう。


 どうか、その瞬間にもまた、あなたがいてくれますように。


 心からのありがとうを込めて。

 ――作者より。


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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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