沈黙の祈り ― レアリスの残響
――再び、独りの時間が流れる。
誰の声も、足音も、風の音すらも、もう届かない。
ただ、時だけが淡く、ゆっくりと積もっていく。
レイズは、その中で理解していった。
言葉を交わすことの重さを。
誰かに想いを伝えるという奇跡の尊さを。
それはきっと――レアリスも、同じだったのだ。
彼女もまた、世界を愛しながら、
誰にも届かぬ想いを抱きしめて、祈り続けていたのだろう。
「……そうか、レアリス。」
心の中で、彼は静かに語りかけた。
「お前が見ていた光景は……きっと、こんな感じだったんだな。」
返事はない。
だが、どこかで彼女が微笑んでいるような気がした。
レアリスはもう、この世界のあちこちに息づいている。
風にも、光にも、祈りにも。
きっと彼女は、この世界をまだ歩いているのだろう。
レイズは、胸の奥で確信した。
――これは罰ではない。
――けれど、赦しでもない。
ただ、生きることを願った者たちの“残響”なのだと。
「……こんなの、耐えられるわけがないよな。」
誰にも届かない呟きが、静かに心の中で消える。
「……こんなの、幸せなんて呼べない。」
瞼が、ゆっくりと閉じていく。
視界は闇に沈み、世界が遠ざかる。
――けれど、その闇の中に、微かな光が差した。
それは、瞼の裏を透かすような淡い光。
まるで、誰かが「まだここにいるよ」と囁いているかのようだった。
自由に見ることも、触れることも、
語ることすらできないこの体。
それでも、確かに“在る”ことを感じた。
レイズは、そっと心の中で微笑む。
そして、もう一度――静かに瞼を閉じた。
長い夢のような眠りの中へ。
レアリスが歩いたあの世界を、
少しでも近くで感じられるようにと願いながら。
――そして、足音。
やわらかく、床を撫でるような音。
誰かが部屋を出ていく。
次いで、カーテンの閉まる音が響く。
布が揺れ、外の光がゆっくりと遮られていく。
その一つひとつが、俺にはたまらなく愛おしかった。
歩く音も、風の音も、
光の届く気配さえも――
すべてが、もう二度と自分の手には届かない“世界の証”のようで。
俺は、狂ってしまいそうだった。
どれほどその音を、
その気配を、
この命が求めているのかを、
今になって思い知らされていた。
この静けさが、
こんなにも痛いほどの“生”の音で満ちていることを。
――レアリス。
お前もきっと、
この孤独の中で、同じように世界を愛していたんだな。
俺は胸の奥でそう呟きながら、
静かな闇の中に身をゆだねた。
愛おしい音に包まれながら、
ただ、誰かの名を心で呼び続けた。
レイズ…この体でもお前は、この世界で、満足していたのか…?と




