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 白き森の行進 ― 死の加護を携えて



 空気が重く沈み、風が止んだ。

 ジュラの森の奥――誰もが、その異変を感じ取っていた。


 レイズは一歩前に出ると、懐から小さな金属の輪を取り出した。

 淡い黒の光を帯びたアンクレット。ひとつひとつが、禍々しくも神聖な輝きを放つ。


 「……これを、みんなつけてくれ」


 静かな声に、全員の視線が集中する。


 「死属性の加護を付与したアンクレットだ。

  魔力に携わる攻撃なら――すべて無効にできる」


 その言葉に、場の空気が震えた。


 ガイルが大声を上げ、驚きの表情を見せる。

 「おいおいっ! いいのかよ、こんなもん渡してよぉ!?」


 グレサスはアンクレットを指で撫でながら、低く呟く。

 「……これが貴様らが使っていた、あの“魔法を無効化する力”か」


 ルイスは慎重に手に取りながら尋ねた。

 「これは……どのように使えば?」


 レイズは短く息を吐き、落ち着いた声で答える。

 「魔力を込めれば、死属性の魔法が発動する。

   ただし――注意しろ。

   ディアもレアリスにも、おそらく魔法は一切通用しない。

   むしろ……力を与えるだけになる可能性のが高い。」


 リオネルが険しい表情で口を開く。

 「では……物理攻撃に頼るしかないのですか?」


 「いや、正確に言えば――」

 レイズは視線を上げ、空を見据える。

 「“死属性をまとった攻撃”でしか、彼女たちに傷を与えられない」


 その場にいた誰もが、言葉を失った。


 ニトだけが静かにアンクレットを見つめ、かすかに笑った。

 「これ……僕は触らない方がいいね」


 「ぁあ」レイズはうなずく。

 「ニトにとっては“呪具”そのものになるな。

   ここに残って、見守ってくれ。

   合図したら転移してこい」


 「……了解。僕は見守るよ。

  戦うのは、君たちだ…」


 その言葉に、空気が引き締まる。


 ――と、そのとき。


 フェイフィアが上空から滑空し、白い光をまとって着地した。

 「ジュラの森上空に……出ました! 白い……人の形をした女性が!!」


 その報告に、全員の顔色が変わる。


 「……ディア、なのか?」

 レイズの声が震える。


 グレサスは、どこか懐かしむように笑った。

 「白いもふもふが……随分と成長したものだな」


 クリスがすぐに前へ進み出る。

 「それでは、まず私が様子を見てきます」


 レイズは即座に頷く。

 「ぁあ。グレサス、クリス。二人で行け。

   だが、くれぐれも突っ込みすぎるな。

   “ヤバい”と思ったらすぐに引け」


 ガイルが不満げに手を挙げた。

 「おい、俺はどうすんだ?」


 レイズは即答する。

 「俺と一緒に行く。ルイス、リオネルも同行してくれ。

   ――デュラン、お前は後方支援だ」


 「わたしがサポート……? 具体的には?」

 困惑するデュランに、レイズは静かに言う。


 「誰かが負傷して動けなくなったら、すぐに回収して撤退させてくれ。

   それが、デュランの役目だ」


 デュランは小さく笑い、首を振った。

 「……やれやれ。私ですら前線に立てない戦いがあるとは…」


 レイズは苦笑しながら言葉を返す。

 「グレサスとクリスがどこまでやれるか……それも未知数だ。

   全員で突っ込むのは、愚策だ」


 ガイルが肩をすくめ、ため息をつく。

 「魔法が使えねぇ戦いなんて、つまんねーな」


 レイズは首を横に振る。

 「ガイル、お前には“囮”を頼みたい。

   強力な魔力を放って、白い連中を引きつけてくれ。

   あいつらは大きな魔力を求めて襲ってくる」


 ガイルは不満げに笑う。

 「この俺が囮かよ。……まあ、悪くねぇ。派手に暴れてやるぜ」


 レイズもまた、真剣な眼差しを向けた。

 「頼んだ。――この戦いは、“まとも”にはできない」


 静寂の中で、全員がそれぞれの武器を構えた。


 そして、ジュラの森上空。


 レアリス=ディアは白い光の中に立っていた。

 その瞳が、遥か遠く――こちらに向かってくる複数の強大な魔力を捉える。


 「……濃い。とても濃いわ。

  でも……汚いね。

  綺麗に、しなくちゃ…」


 その指がゆっくりと天を指す。


 ――瞬間。


 ジュラの森が鳴動した。

 大地を這うような音と共に、白い影が次々と姿を現す。


 鹿のような白い魔物。

 天使の姿を模した者。

 祈りの姿勢で歩く人型。

 悪魔の角を持つ者。


 どれもが顔を持たず、ただ光に包まれた白き存在。


 それらは――かつてレアリスが生み落とした“失敗作”。

 だが今は、ディアの力を得て、完全に覚醒していた。


 レアリスの意思を継ぐ者として。

 白の軍勢が、音もなく走り出す。


 その一歩ごとに、森が軋む。

 そして、戦端が――静かに、確実に開かれた。




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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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