勇者ルイス
大地が鳴動し、空が裂けた。
――今度は、ただの魔力の塊ではない。
山だった。
山そのものが、ねじ切られ、握り潰され、
無数の岩石と砂利と木々を巻き込みながら、濁流のようにレイズたちのもとへ迫ってくる。
「やべぇ!! あれは魔力とかじゃねぇ!!」
レイズが叫ぶ。
「――山を投げやがった!!!」
スカイドラゴンが急旋回するが、追いつかない。
天から降り注ぐのは、地そのもの。
ガイルは口角を吊り上げる。
「ははっ、上等だな……! “ディアブロス”!!!」
黒炎が再び顕現した。
だが、あまりにも広い。
岩は焼け砕かれるが、それでも止まらない。
「ちっ……! まだくる!!」
その瞬間、ルイスが前に出た。
掌を掲げ、静かに祈りの言葉を紡ぐ。
「――光よ、世界を照らせ。
《ディヴァイン・バリア》!!」
眩い光が弾けた。
神聖属性の結界が展開され、飛来する岩と濁流をはじき返す。
山が空中で砕け、粉塵となって四散した。
爆風のなかで、レイズは笑っていた。
「……ルイス、ガイル。
俺たち、相性がいいのかもな。」
ガイルが怒鳴る。
「言ってる場合かよ!! あいつ、なんでもやりやがるぞ!!」
ルイスは微笑みを返した。
「私たち三人なら――勝てます!!」
レイズは笑いながら拳を突き上げる。
「ああ!! 最強すぎるパーティーだ!!!」
その声は、空に轟いた。
死と炎と光。
三つの異なる力が、同じ方向を向いていた。
バルハラの地
ニトの顔が蒼白になっていた。
「……神聖属性!?!? なんで……!?
勇者が、勇者がいるよ!!?」
ジェーンが叫ぶ。
「死属性だけじゃなくて、魔王、そして勇者ですって!?!?」
グレンも顔をゆがめる。
「なんですか、その出鱈目な組み合わせは!!」
ハルバルドは膝をついた。
「勇者……? ルイスが……勇者だと……? 弟が……」
その呟きをよそに、ニトは笑い出した。
「だめだ……これ、負けるかも……」
その一言で、全員の動きが止まる。
「な……にを……?」
グレンが震える声で問う。
ニトはくすくすと笑い、杖をくるくると回した。
「消滅しちゃうね、僕たち。」
「そんな……」
ジェーンが絶句する。
「私も戦うよ!!」
ジェーンが立ち上がる。
「えぇ!? ニト様!! 行きますか!?」
グレンも続く。
だが、ニトは静かに首を振った。
「無理だよ。君たちじゃ、どう逆立ちしたって勝てない。」
その言葉は残酷なほどに淡々としていた。
次の瞬間、ニトの身体が光に包まれた。
空気が弾け、轟音とともに彼の姿が消える。
「っ!? ニト!!」
ジェーンの声が虚空に吸い込まれる。
グレンは膝をつき、声を震わせた。
「そ、そ、そんな……」
ハルバルドは天を仰ぐ。
「ルイス……。おまえが……勇者……だなんて……」
聖国の地は、静まり返っていた。
神が動いた。
その瞬間、誰もが悟る。
これから始まるのは――歴史ではない。
“伝説”だ。




