8話:向かうべき場所
新たなる敵――牛鬼。
一難去ってまた一難、休む暇もない輝たちに安息は訪れるのか…。
輝が進むその道の先に待ち受けるものとは、一体何なのか。
物語は、再び動き出す。
【登場人物】
主人公:気道 輝
手の霊
ベートーヴェン
じんた
花子さん
師匠
牛鬼
師匠の車内。
道路の振動と、かすかなエンジン音が車内に満ちている。
師匠「……輝や」
輝「ん? どうした?」
師匠「今日、儂は別の七不思議を探しておったのじゃが……」
輝「そうなんだ。どの霊なの?」
師匠「落ち武者の霊じゃ」
後部座席からベトさんが顔を出す。
ベトさん「どうだ? 見つかったのか?」
師匠「いや……もう目撃情報があった場所には居なかった」
輝「そうかぁ……」
師匠は少し表情を曇らせた。
師匠「ただ一つ、不可解なことがあるんじゃ。墓なのにも関わらず、霊が異常に少なかったのじゃ……いるのは消滅しかけている霊ぐらいじゃ」
輝「それって……どんどろの時みたいだね」
ベトさん「落ち武者の霊が食べてるのか……?」
師匠「やもしれん……」
ブレーキ音と共に車が停まり、ドアが開く。
キィー……ガチャ。学校に到着した。
じんた「……! 花子さんの霊力が弱くなってる……!」
輝「急ごう……!」
――30分前。
花子さんは、ひとり学校の敷地に足を踏み入れていた。
花子さん「懐かしい感じする〜。早速、部屋に帰ろ!」
(部屋=トイレの個室)
その背後で、何かが静かに動く。しかし花子さんは気づかない。
花子さん「すごい静かだね……やっぱりいないんだね、他のみんな……」
天井の奥で、何かが這う音。
花子さん「え? 今、何か通った?」
振り返る。しかし誰もいない。
花子さん「気のせい……?」
前を向いた瞬間、視界いっぱいに牛鬼の目が現れた。
牛鬼「ギョロ」
花子さん「きゃあっ!」
――
輝「こっちにはいない!」
ベトさん「職員室にもいない!」
じんた「一階にはいないね。次は二階だね……二手に分かれて探す? 僕、三階いくよ」
輝「俺たちは二階探しとく」
ベトさん「気をつけて行けよ、じんた!」
――
花子さんは、ボロボロの姿で床に横たわり、必死にうずくまっていた。
花子さん「や……やめ……」
牛鬼が怪しく笑う。
牛鬼「キャシャシャシャ……」
花子さん「いや……! やめて! 来ないで!」
牛鬼「ギョロ……キシャ……」
大きな手が振り上げられ、花子さんめがけて振り下ろされる――。
花子さん「きゃ……!」
その瞬間、じんたが牛鬼の横を駆け抜けた。
彼の体がぐん、と膨れ上がり――
ドゴッ!
鈍い衝撃音が響き、校舎がわずかに揺れる。
――
輝「?! 揺れた?」
ベトさん「上だな」
手の霊「私、窓から行く!」
輝「頼む! やばそうだったらすぐ逃げてこいよ!」
ーー
3階の廊下には埃が舞い、瓦礫が散乱していた。
花子さん「ん……?」
ゆっくりと目を開けると、そこには牛鬼の鋭い爪を腕で受け止めているじんたの姿があった。
花子さん「じ……人体模型くん!? なにその姿……」
じんた「……ごめん、遅れて……花子さんは……だいじょ……」
スッ――ドンッ、ドンッ、ドンッッ!!
牛鬼がじんたを掴んだまま、何度も床へ叩きつける。
じんた「……カハッ」
その体は徐々に縮んでいき、白目を剥いて動かなくなった。
花子さん「いや!! 人体模型くん!!」
その時、窓が開き、手の霊が駆けつける。
手の霊「じんた!!」
じんたはか細い声で手の霊に指示を出す。
じんた「……早く……花子さんを……」
花子さん「そんな……嫌よ! 人体模型くんも一緒に……!」
手の霊は花子の服を掴み、窓の外へ引きずり出した。
花子さん「いや!!! 離して! 人体模型くんが!! 人体模型がァァァッ!!」
牛鬼が腕を振り、じんたを壁に向かって投げ飛ばす。
じんた「……くっ」
その瞬間、輝が現れ、じんたを受け止めた。
輝「ベトさん! 牛鬼の動き止められる!?」
牛鬼の背後では、既にベートーヴェンが指揮棒を構えていた。
ベトさん「……ごめん、じんた。俺が守るって言っておきながら…交響曲第二番《魂響ノ陣》!」
ドンッ――ジャンッ!!
ベートーヴェンの足元に、淡く光る円形の譜面が浮かび上がる。
輝「なんだその技!!!」
ベトさん「この技は、きいた――」
スッ……バンッ!!
言葉を遮るように牛鬼の一撃が直撃し、ベートーヴェンが壁に叩き込まれる。
ベトさん「ぐあっ……」
輝「嘘だろ……! 喋ってんのに!反則じゃねぇか!」
避ける間もなく輝も攻撃を受け、床へ叩きつけられる。
バコンッ――!
辺りは牛鬼の荒い鼻息と輝の息遣いが響く。
輝「はぁ……はぁ……」
ベトさん「……」
じんた「……」
緊迫した空気に、輝の肌がピリつく。
ジリ……牛鬼が一歩踏み出し、輝は構えを取る。
輝「クソッ……目に血が……」
左目に流れ込んだ血で視界が塞がれる。
輝「……これは、本当にやばいかも……」
その時――
手の霊「やぁーー!!」
花子を下に降ろして戻ってきた手の霊が突撃してきた。
輝「あぶない!!」
前に出た瞬間、牛鬼の拳が顎を直撃する。
輝「……あっ……モロに……くらっ……」
ドサッ――
視界が揺れ、意識が遠のく。
輝「……頭が……クラクラする……」
鼻や目から血が流れ落ちる。
輝「あー……これ……だめかも……」
手の霊「輝!! てる! ダメ、死んじゃダメ!!」
揺さぶられる中、手の霊が紙に何か書いて見せた。
輝「……え? 名前をつけろ? 手の霊に……?」
手の霊「やばいのは分かってる! でも……行くなら私に名前付けてからにして!」
輝「あぁ……お前はそれ目当てだったんだな……」
手の霊「ち、違う!!」
輝「……いいよ、最期に名前だけ……つけてやる……」
手の霊「ダメだ……意識が混濁してる……」
輝が最後の力を振り絞って立ち上がる。
輝「……手の霊……お前の名は……パ……パドだ!!」
その瞬間、輝は意識を失った。
手の霊「パド……いい! いいよ、いいよ!! 良すぎる!! 私はこれからパドだ!!!」
パドの全身に、あの“塔”の時と同じ光が纏い始める。
パド「……力が……漲ってくる!! 全盛期の私が……戻ってくる……!」
光が牛鬼を包み込む。
牛鬼「ギョ!? ギョロ!!」
???「お前の業を列拳する!
一つ――学校という聖域に踏み込んだ罪!
二つ――善なる魂に危害を加えた罪!
そして最後に……! わたくしの仲間を踏みにじった大罪!!
この大罪は地獄行き……いや、それでは生ぬるい!!
大罪人が向かうべき場所は煉獄……牛鬼、お前は煉獄行きだッ!! 千年……いや、万年をもって償えッ!!」
その声が遠ざかると同時に、光は薄れ――牛鬼の姿はもう、そこにはなかった
8話「牛鬼襲来」お読みいただき、ありがとうございました。
今回は、牛と蜘蛛が融合した妖怪・牛鬼が輝たちを急襲。
激しい戦いの中、仲間たちは満身創痍となり、そして“手の霊”に名前が与えられるという大きな転機を迎えました。
「パド」として蘇った彼女の真の力、そして牛鬼の行方は…。
戦いの後に訪れる静けさと、新たな予兆――物語はさらに加速していきます。
次回、第9話「休息」をお楽しみに!