5話:幼き少年の願望
謎の下級霊「手の霊」と共に、不気味な塔やどんどろとの死闘を乗り越えてきた輝一行。
新たな仲間、肖像画の霊「ベートーヴェン」との出会いも経て、
彼は少しずつ“呪霊操術者”としての道を歩み始めていた。
そして今回の舞台は――過去に忌まわしい出来事があったとされる、呪われた家。
そこに渦巻く哀しみと願いに、輝はどう向き合うのか。
【登場人物】
主人公:気道 輝
手の霊
ベートーヴェン
住職
キーホルダーをつけた謎のお姉さん
黒づくめの謎の人間
輝「んっ、こ……ここは?」
ベートーヴェン「寺だ……」
輝「寺……?」
輝が飛び起き、辺りを見回す。
輝「この寺……既視感が……」
──ガラガラ(襖の開く音)──
手の霊「ベートーヴェンさん! 住職さんが帰ってきたよ〜」
ベートーヴェン「帰ってきたか……」
住職「ただいま戻りましたよ〜。治療する方はどな……た……」
輝「師匠!!」
師匠「輝!!」
輝「やっぱり! 見慣れた部屋だと思ったよ……!」
ベートーヴェン「なんだ、お主ら顔見知りだったのか?」
手の霊「貴方が輝のお師匠様ですか!」
師匠「さよう、儂が輝の師匠である……! んで、輝。この手の霊と肖像画の霊を味方につけたのか」
輝「そうだよ! 出会って間もないけど大切な仲間なんだ……! ね、手の霊! ベトさん!」
ベートーヴェン「べ……ベトさん……?」
輝「え? ダメ? ベートーヴェンだと長くない? だからベトさんって呼んだらいいかな〜って」
ベトさん「……いや、気に入った」
手の霊「ベトさん……いいね! 呼びやすい……!」
──輝の治療が終わる──
輝「ありがとう、師匠!」
師匠「いいんじゃよ。ただ包帯巻いてるだけじゃから無理な動きはするでないぞ?」
輝「わーかってるよ」
ベトさん「さて、輝……本題に入りたい。その傷で連れ回すのは気が引けるから再度聞くが、輝は七不思議集め、やる気なのか?」
輝「当たり前じゃん! 着いていくよ……俺は」
手の霊「私も着いてくよ!」
師匠「ん? 何かあったのか?」
ベトさん「あぁ、住職殿は何も分かってないのか」
──輝が事情を説明する──
師匠「なるほど……七不思議の再集結か……儂、手伝ってやりたいのは山々なのじゃが、今は少し野暮用があってな。着いていけぬ」
輝「大丈夫だよ! 俺たちだけで頑張るよ!」
師匠「すまんな……」
手の霊「てか、どの霊を先に探すの?」
ベトさん「一番初めに進めるのは、人体模型の霊だな」
輝「人体模型?」
ベトさん「あぁ、学校にいた時からよく話していたんだ。事情を話せば着いてきてくれるはずだ」
師匠「各地に散らばってるのだろ? どうやって見つけるのじゃ。霊力を探るとかは流石にできぬぞ?」
ベトさん「問題はそこなんだよな……」
輝「……ネットで調べるのはどうかな?」
師匠「ネット……?」
輝「うん。『人体模型が動いてる!』とか、少しでも目撃情報が上がったとこに行けばいいんじゃないかな」
ベトさん「いいな、それ。やってみよう」
輝「じゃあ早速──」
手の霊「もう調べてるよ!」
輝「はやっ! ……ってそれ俺のスマホじゃん」
手の霊「私たちがスマホを持ってると思う? 持ってたら会話を紙に書いてするより、スマホ入力するよ」
輝「それもそうか……」
手の霊「あっ! あったよ! 人体模型の目撃情報!」
ベトさん「なに?! どこだ?」
手の霊「こっから大分近いね……えっと……金森町?」
師匠「まぁ……近いが……送迎ぐらいなら儂でもできるぞ」
輝「ほんと? お願いしてもいい?」
師匠「任せろ!」
ベトさん「じゃあ早速行きますか」
──車で移動すること約15分──
師匠「ほれ、着いたぞ」
輝「ありがと〜。終わったら連絡するね」
ベトさん「……いる」
輝「まじ!? どこどこ!」
ベトさん「正確な場所は分からねぇが、この町にいることは確実だろうな」
手の霊「人に聞いてみたらどう?」
輝「そうだな! 俺から聞いてみるよ。2人は町の探索をお願い」
手の霊「了解!」
ベトさん「分かった」
輝「さて、聞いていきますか!」
──ポロッ……カチャ──
輝「ん? キーホルダー?」
???「あぁ! すみません! 私のです!」
──輝がキーホルダーを拾い、女性に手渡す──
輝「どうぞ! ちょっと傷ついちゃってますけど……」
お姉さん「大丈夫ですよ……元から付いてるので」
輝「可愛いですね! なんのキーホルダーなんですか?」
お姉さん「あっ……えっと……」
輝「? どうかしました?」
お姉さん「あっ! いえ、何も……このキーホルダーは父から貰ったもので、なんでも私には歳が少し離れた兄がいたみたいで、その兄の形見みたいなんです」
輝「形見……お亡くなりになってるんですね……」
お姉さん「はい……私も会ったことないんですけどね、ふふっ」
お姉さん「あっ、じゃあ私、用事があるので……」
輝「すみません! 引き止めちゃって」
──お互い軽く会釈を交わし、女性はその場を後にした──
──数時間後──
輝「ダメだぁ〜、全然情報掴めねぇ……」
手の霊「輝〜!」
輝「ん? 手の霊? どうした?」
手の霊「さっきそこで拾ったんだけどこの新聞見て!」
輝「ん? 少年虐殺事件?」
手の霊「そう! それがここ金森町で起こった事件なんだよ!」
ベトさん「それって……」
輝「あっ……! ベトさん!」
ベトさん「俺にそれを見せてくれ……」
──ベトさんが新聞を読み始める──
輝「どうしたの……?」
ベトさん「これ……人体模型の生前時に起きた事件だ……」
輝「!? なんで……?」
ベトさん「昔聞いたんだ。生前、酷い目に遭わされた話を……生きたまま皮を剥がされ、痛みのあまり死んじゃったんだって……」
輝「な……嘘だろ……」
手の霊「酷すぎる……」
ベトさん「そこから俺は、人体模型に気をかけてたんだ……」
輝「そう……だったんだ……」
手の霊「じゃあこの家に行けば、なにか分かるかもしれない……?」
ベトさん「あぁ、分かるだろうな。生前の記憶を辿りに、その家に復讐しに行ってる可能性もあるからな……」
──その時、少し行った先から凄まじい霊力が──
輝「ん……?」
ベトさん「感じたか、輝……」
輝「うん……なにか強い霊力が……」
ベトさん「あの感じ……人体模型だ……」
手の霊「嘘ッ! じゃあ早く行かないと!」
──3人は急いで強い霊力を感じた場所に向かった──
ベトさんが、目の前の古びた家をじっと見上げた。
ベトさん「……ここか」
手の霊が横から覗き込み、小さく頷く。
手の霊『写真に写っていた家と、ほぼ一致してるね』
輝は喉を鳴らし、不安げに扉へ視線を向けた。
輝「は、入ってもいいのか……?」
ベトさんは一度だけ振り返り、鋭い眼差しで言い放つ。
ベトさん「背に腹はかえられぬ……入るぞ」
輝「捕まるのは俺だけなんだが……」
三人はゆっくりと家の中へ足を踏み入れた。
その様子を、家の外から黒づくめの謎の人物が静かに見つめていた。
???「……あいつ。学校にもいたな。さて、どれほどの実力か……見定めようではないか」
ベトさん「この家全体が……呪いになってるな」
手の霊『みんな! ここ、隠し通路になってる!』
輝「ん? ただの壁だけど……」
ベトさん「壁の奥から、人体模型の霊力が感じられる」
輝「え……? 壊すの……?」
ベトさん「やむを得ん!」
輝「ま、待って!」
手の霊『おりゃ!』
バリバリッ――乾いた音とともに、壁が粉々に崩れた。
輝「あぁぁっ、やりやがった!」
ベトさん「先に進むぞ」
輝「えぇ〜? 俺は無視っすか……」
落ち込む輝の肩を、手の霊が軽く叩く。
手の霊『どんまい』
輝「どんまいって……」
階段を降りていくと、ベトさんが足を止めた。
ベトさん「……居た、人体模型」
輝「え? いたの?」
そこには、バラバラに解体された人体模型と、ミイラ化した皮膚が壁に飾られていた。
輝「この壁の……これ、そう……だよな?」
ベトさん「あぁ……皮、だろうな」
手の霊『惨すぎる……』
その瞬間、バラバラの人体模型がふわりと宙に浮き上がる。
輝「?!」
ベトさん「人体模型!」
輝「なんか……様子、おかしくない?!」
手の霊『悪霊になってるじゃない!』
ベトさん「なんでだ……そんなやつじゃなかったはずだろ……」
輝「危ない!!」
巨体化した悪霊の拳が、唸りを上げて振り下ろされる。
ベトさん「クッ……!」
間一髪で避けたベトさんが叫ぶ。
ベトさん「人体模型! 俺だ! 肖像画の霊だ! 聞こえるだろ……?」
人体模型「がぁぁぁぁ!」
輝「ダメだ! 正気を失ってる!」
人体模型「……とう……」
手の霊『なにか言ってる!』
人体模型「……さん……父さんッッ!!!」
その叫びと共に、拳が床を砕いた。
ベトさん「やはり……自分をこんな目に合わせた父親を狙っているか」
輝「父親を連れてこないと、収まらないんじゃ……」
手の霊『ここは狭すぎる。一旦、地上に戻った方がいいんじゃ……』
輝「そうだな! ベトさん、上に行くぞ!」
ベトさん「あぁ……」
三人は階段を駆け上がり、それを追って人体模型が迫る。
ドアを飛び出した瞬間、先ほどの若い女性が目の前に立っていた。
輝「お姉さん?!」
お姉さん「え?! さっきの人! どうして私の家から……?」
輝「いや、待って! 怪しいもんじゃないんです!!! いやっ……信じてもらえないかもしれないけど、本当に違うんです!」
人体模型「がぁぁぁぁ!」
お姉さん「きゃぁぁぁあ! なに?! あれ!」
輝「?! お姉さんにも見えてる?! 手の霊とベトさんは見えてないっぽいのに……」
ベトさん「霊力が強すぎて、一般人にも見えるようになっているんだろう……」
その時、人体模型の手から何かがポロリと落ち、地面を転がった。
カランッ……
輝&お姉さん「……あっ、あれは……!」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第5話では、いよいよ人体模型との直接対決が始まりました。
ベトさんたちの前に立ちはだかったのは、ただの悪霊化ではなく、“父親”という過去に縛られた存在。彼の叫びには、恨みだけでなく、どうしようもない悲しみも混じっていたのかもしれません。
執筆中は人体模型の描写にかなり悩みました。ホラーとグロの境界線をどう描くか、そしてキャラクター同士の掛け合いでどう緊張感を保つか──。
この辺は今後も試行錯誤しつつ、テンポを崩さないよう意識していきたいところです。
6話では落ちた“アレ”の正体と、黒づくめの人物の動きが明らかになります。
少しずつ、この物語全体を覆う“呪いの構造”にも触れていく予定ですので、引き続きお付き合いください。
次回6話父親と少年...です!お楽しみに!