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霊業  作者: まんらび
2章
41/46

41話:緊迫の遭遇戦

島の空気が、確実に何かおかしい。

妖怪騒ぎの裏で蠢いていた“黒い影”がついに姿を現し、状況は一気に緊迫へと傾き始めた。

天城が遭遇した外冠死業の手下はまだ三人のうち一人——残る二人は、生徒たちの近くへ向かった可能性が高い。


妖怪調査は思わぬ形で幕を開け、そして予想以上の脅威が少年少女たちの前に迫ろうとしていた。

緊張と危機が交錯する中、それぞれの班がどんな選択をし、どんな戦いを迎えるのか——。


次の瞬間、島は本当の意味で牙をむく。

【登場人物】

主人公:気道 輝

真鴉 隼

神宮寺 泰斗

水瀬 詩織

大熊 健二

白川 理人

福留 満

黒瀬 翠馬

黒瀬 雷牙

猿渡 九郎

大熊と福留は旅館の前に立ち、女将が入口に佇んでいるのを見つけた。


大熊「女将さん!いま島が危険なんです!外に出ない方が—」


その言葉を聞いた女将は、顔を強張らせると慌てて旅館の中へ駆け戻っていった。


福留「どうする大熊さん…!みんながどこにいるか分かんないから、伝えようがないですよ!」


大熊も歯噛みしながら空を見上げる。


大熊「くそっ…!スマホも圏外だし、走って探すにも範囲が広すぎる!」


そのとき、トントンと階段を降りる足音。


振り向くと、古文書を抱えた白川が現れた。


白川「あの…状況はわかんないですけど、町の放送とかは? こういう島なら、防災スピーカーか何かがあるんじゃ…?」


大熊と福留が顔を見合わせる。


福留「確かに…!放送で島全域に知らせれば…!」


大熊「よしっ!それだ女将さん!案内してくれ!」


女将さんは頷き、四人は急いで旅館を飛び出し、防災放送の設備がある役場へと走り出した——。


大熊&福留&白川&女将さんは急ぎ足で役場へ辿り着いた。

しかし正面シャッターは固く閉ざされ、明かり一つ点いていない。


福留「ど、どうしよう大熊さん!入れませんよこれ!」


大熊「落ち着け福留。……下がってろ」


その声音に白川も思わず息を呑み、二歩ほど後ろへ下がる。


大熊はゆっくりと前へ進み出ると、拳を握りしめた。


大熊「霊力解放ッ! 一段階目——霊装。」


ぼう、と大熊の全身を橙の炎が包み込む。

瞬間、炎は腕へ凝縮し、分厚い手甲のような“力の形”へと変わった。


白川「す、すご……」


福留「い、いつ見ても迫力ヤバい……!」


大熊は無言でシャッターの隙間へ手をねじ込み――


大熊「ふんッ!!」


金属が悲鳴を上げた。

ぎしぎしと歪む音と共に、シャッターは段々と持ち上がっていく。


炎の手甲がさらに輝き、大熊の腕の筋が盛り上がる。


メキメキッ、バキィッ!


ついにシャッターは枠ごと押し上げられ、斜めに折れたまま固定された。


大熊「……ほら、入れ」


福留「すげぇ……!」


シャッターが壊れた衝撃音に、中にいた役員たちが一斉にこちらを振り返る。驚きで目を見開き、誰もが言葉を失っていた。


女将さん「す、すみません! 驚かせてしまって……。急ぎで!、島が危険みたいなんです!」


震えた声で状況をまくし立てると、役員たちは顔を見合わせ、ただならぬ事態であることを悟った。


役員「と、とにかく……こちらへ!」


緊迫した空気の中、女将に続いて役場の奥へと走る。大熊と福留も後に続き、階段を駆け上がる。


役員

「放送室なら二階です! こちら!」


案内された小部屋には古びた機材が並び、中央のマイクだけが緊急用に整備されているようだった。部屋に入った瞬間、大熊と福留の緊張が一気に高まる。


福留

「ここから……島中に伝えられるんですね!」


役員

「ええ。内容を教えてください。すぐに準備します!」


大熊が役員の肩をがしっと掴む。


大熊「俺が言う。マイク、貸してくれ」


役員が無言で頷き、放送の準備を整える。

赤いランプが点くのを確認し、大熊は肺いっぱいに空気を吸い込んだ。


大熊(マイク越しに)「おい! 禍津学園の生徒ども!!」


その声は島中に響き渡る。


――その頃、別の場所。


真鴉「うわ、ちょ…大熊!? お前、なんで放送してんの?」


輝「声デカすぎるって…!」


神宮寺「なんだ、騒がしい」


放送は続く。


大熊(放送)「超・超・ちょーーう緊急事態だ!! この島に外冠死業が来てるんや! 黒いローブを着てるのがそいつらの証拠!!」


島中の生徒が息を呑む。


大熊(放送)「町の人を守りつつ討伐しろ! これは天城先生からの通達や!! 以上!!」


放送が終わると、場に重苦しい沈黙が落ちた。


真鴉「緊急事態かぁ」


輝「やっぱ黒いローブは敵なんだね」


真鴉「あぁ、そうみたいだな」


真鴉は静かに息を整え、指先から妖力を滲ませる。青白い光が集まり、長銃の形を象りながら実体へと変わっていく。

妖力製のスナイパーライフルが完成すると、輝は思わず目を丸くした。


輝「え? まだ早くね? 見つけてからの方が……」


真鴉「向こうから来てくださったぞ」


真鴉の目線を追うと、少し離れた石垣の上。

風に揺れる黒いローブ――その人物が、まるでこちらを見下ろすように静かに立っていた。


輝は息を呑む。


輝「……来たね」


真鴉はライフルを肩に構え、片目だけで標準を覗く。


真鴉「さて、一発目は挨拶だ」


パァンッ―― 島の空気を裂く銃声が、戦いの火蓋を切った。


神宮寺と水瀬は、石畳の道を全力で駆けながら周囲を探る。


水瀬「ほんとにこっちにいるんですか?」


神宮寺「分からん。……適当だ。」


水瀬「ええぇ!? 適当って!」


焦る水瀬を横目に、神宮寺はまるで散歩でもしているかのような速度で走り続ける。


そのとき――


ドォンッ!!


2人の目の前に黒いローブの影が、空から叩きつけられるように着地した。砂煙が一気に広がる。


神宮寺「……お出ましか。」


水瀬が息をのむ。


ローブのフードの奥から、異様な霊力が溢れ出していた。


神宮寺は静かに息を吐き、手の中に妖力を凝縮させる。青白い刃が形を取り、刀となって現れた。

隣では水瀬が両手を前に突き出し、念動力を使う準備を整える。


黒いローブの男はゆっくりと立ち上がり、地面へ拳を叩きつけた。

その衝撃で土煙が一気に舞い上がり、視界を奪う。


神宮寺「額に傷…あいつか」


水瀬「これが狙い!」


一気に白い霧のような砂埃が周囲を覆い、視界は完全に塞がれた。


神宮寺は目を閉じ、五感を最大まで研ぎ澄ませる。

神宮寺「……後ろ!」


振り向きざまに刀を振り抜く。手応え――ただし軽い。

刃を通ったのは、フードの布だけだった。


神宮寺「なっ……!」


次の瞬間、砂埃の下から跳ね上がるように影が迫り、

神宮寺の腹部に強烈なアッパーが入る。


神宮寺「っぐ!」


吹き飛び、地面に転がる。


視界が塞がれている水瀬は、その気配に気づけないまま構えていた。

だが男は容赦なく踏み込み、水瀬の横腹へ一撃を叩き込む。


水瀬「う、あっ!」


同時に二人が地面へ崩れ落ちる。

砂埃の中、額に傷を持つ男が静かに姿を現し、薄く笑った。


傷の男「頭を使え、馬鹿か」


その一言で神宮寺の気配が変わる。

ゆらりと立ち上がり、額の砂を払うと、静かに男を睨みつけた。


神宮寺「……今、俺に“馬鹿”っつったか?」


低く押し殺した声。

次の瞬間、爆ぜるように霊力が吹き上がる。


青い炎が身体の輪郭を包み、足元の砂利が熱で弾け飛んだ。


神宮寺「霊力解放──一段階目《霊装》ッ!!」


青炎の鎧のような霊装が形成され、地面がきしむ。


水瀬はその圧に思わず後退る。


傷の男は口角を歪めながらも、ほんの僅かに警戒の色を宿した。


傷の男「霊力使い同士の戦い──一度やってみたかったんだよ」


そう呟くと、男の全身から紫色の炎がボウッと噴き上がった。神宮寺の青い炎とは明らかに“質”が違う。重く、濃く、まるで怨念を燃やしているかのような禍々しい色。


傷の男「霊力解放ォ!! 一段階目──霊装!!」


大地が震え、男の足元から焦げ跡が蜘蛛の巣状に広がっていく。


神宮寺「…なるほど。言ってくれるじゃねぇか」


青炎がさらに勢いを増す。砂埃の中、2つの光がぶつかり合う瞬間を待っているかのように揺らめいた。


紫炎と青炎、ふたつの霊装が対峙し、空気そのものが唸りを上げ始める。


水瀬「わ、私あしでまといだ!どうしよう、どうしよう…!」


霊力同士の激突を前に、膝が震えて地面を見つめるしかできない。

紫炎をまとった傷の男が、水瀬に冷たい視線を向けた。


傷の男「もう一人は雑魚か。邪魔だなぁ?」


男が一歩踏み込んだだけで、砂利が弾け飛び、水瀬の呼吸が止まる。

圧が重く、身体がロックされたように動かない。


神宮寺「水瀬!」


青炎の中で、神宮寺の声だけが強く響く。

刀を構え、傷の男へと半身を切り返す。


神宮寺「下がってろ。あとは俺がやる」


水瀬「で、でも——」


神宮寺「いいから下がれっ!」


怒鳴る声ではなく、仲間を守るための決意の声。

水瀬は唇を噛みしめながら後退った。


水瀬(私…本当に何もできないの…?)


目の前で、青炎と紫炎がぶつかり合う音が轟く。

水瀬の胸の中には、恐怖と焦りと、そして悔しさだけが募っていった


神宮寺が地面を蹴り、一瞬で間合いを詰める。

青い残光が軌跡を描き、刀が一直線に傷の男へ――。


キィン!!


傷の男は片手で刃を受け止めていた。


傷の男「速ぇな……けど、“軽い”」


神宮寺が歯を食いしばり、気合と共に炎を勢いよく放つ。


神宮寺「軽いわけねぇだろッ!」


衝撃波が辺りに弾け、砂利と風が巻き上がる。

だが、傷の男は押し負けない。むしろ、軽く腕をひねっただけで神宮寺の刀の軌道を逸らした。


傷の男「悪ぃな、霊力量の“質”が違うんだわ」


くるりと体を回転させ、紫炎の蹴りを放つ。


ドゴォッ!!!


神宮寺のガードごと吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。


水瀬が悲鳴をあげる。


水瀬「神宮寺さん!!」


神宮寺は咳き込みつつ立ち上がる。だが足取りは重い。

青炎も先ほどより揺らぎ、安定していない。


神宮寺「……まだだ……!」


ふらつきながらも突っ込む神宮寺。

対して傷の男は余裕の歩調で迎え撃つ。


傷の男「根性は認める」


神宮寺の横薙ぎを紙一重で避け、腹へ拳を撃ち込む。


バッ!!


空気が抜ける音。神宮寺の体がくの字に折れた。


傷の男「でもな――届かねぇよ、お前の霊力じゃ」


ドサッ…


神宮寺が地面に倒れ込む。

青炎がしゅう…と消え、霊力が強制解除された。


水瀬は震えながら後退る。


水瀬「……神宮寺さん……!」


傷の男は水瀬の存在を思い出し、ゆっくり顔を向ける。


傷の男「次は……お前だ」


紫炎が、獲物を見定めるようにゆらりと揺れた。


パンッ!


乾いた破裂音が島中に響き、真鴉と輝の戦場へと視点が戻る。


霧のような砂埃がゆっくり晴れていく――

その中に伏す二つの影。


真鴉は腹部を深く裂かれ、スナイパーライフルは地面に崩れるように散っている。

輝は腕が不自然な方向に折れ、肩から胸元まで血が滴り落ちていた。


二人とも意識は朧げ。立ち上がるどころではない。


その前に立つのは――黒いローブの女。

フードの下から覗く瞳は、底の見えない氷のように冷えている。

肩から首にかけては、黒い鞭が蛇のように巻き付いたままだ。


女は鞭を振り下ろし、**地面をビシャッ!**と叩きつける。


鞭の女「これが“脅威”だって? 笑わせないでよ。

 弱すぎて拍子抜けするわ」


その声音には、戦意すらない。

ただ、獲物を弄ぶ捕食者の余裕だけがあった。


倒れている真鴉の手がわずかに震え、輝が呻き声を漏らすが、

女は一瞥もくれない。


鞭の女「さて……次は誰を殺そうかしら」


淡々と――まるで日常作業のように。


鞭が、ゆらりと持ち上がった。


真鴉「手も足も出なかった……。撃った瞬間──弾が届くよりも先に、あいつの鞭が俺の腹を……」


地面に伏したまま、真鴉の声はか細く震えていた。腹部には深々とした鞭痕が刻まれ、血がじわりと地面に広がっていく。


輝も同じく倒れており、腕と脚に無数の切り傷。力を入れようとしても体が言うことを聞かず、ただ呼吸を整えるだけで精一杯だった。


鞭の女はゆっくりと鞭を巻き取り、不敵に笑う。


鞭の女「ほんっっとに本当に笑わせないでよ。あくびが出るほど弱いわ」


その言葉は挑発ではなく、純粋な感想に聞こえるほど軽かった。


真鴉は歯を噛みしめ、血の味を感じながらも目だけで輝を見る。


真鴉「……輝、ごめん。俺が外した……」


輝「ちが……う……真鴉が悪いわけ……じゃ……」


言い終わる前に、輝の呼吸が乱れ、咳とともに血がこぼれた。


女はその様子を見下し、退屈そうに鞭を肩に担ぐ。


鞭の女「さあ──次はどっちからトドメ刺されたい?」


島のどこかで、他の戦闘音が風に乗ってこだまする。


真鴉は倒れたまま、震える指でライフルを握り直す。


真鴉「……まだ……終わって……ねぇ……」


しかし女は鼻で笑った。


鞭の女「その気力、嫌いじゃないけど……無駄よ?」


冷たい声が、逃げ場のない現実を突きつけた。


神宮寺と真鴉――それぞれ別の場所で倒れ伏し、意識が揺らぐ中、漏れた言葉は奇しくも同じだった。


神宮寺(血を吐きながら)「禍津学園には……まだ……二年が残ってるぞ……!」


真鴉(地面を見据えたまま震える声で)「……俺ら1年だけじゃねぇ、二年が……残ってんだ……」


二人の声が島の風にかき消えるのと同時、

戦いはすでに“次の段階”へ向かい始めていた。


神宮寺がプライドを噛み砕くようにして叫んだ言葉は、額に傷のある男に鼻で笑われた。


傷の男「ハッ、情けねぇなぁ。プライドははねぇのかよ!仲間に助けてくれと懇願するなんてよぉ!」


その嘲笑に、神宮寺は悔しさで歯をきしませる。拳に力が入るが、足はもうまともに踏ん張れない。

砂埃の中、額の汗と血が混じり合い、息だけが荒く続く。


そのとき――。


ドン、ドン、ドン……!


森の奥から低く響く太鼓の音が伝わってきた。

一定のリズムで近づいてくるその気配に、傷の男が怪訝そうに眉をひそめる。


???「ありゃりゃ〜? これはこれは、禍津学園1年・神宮寺どのではありませぬかぁ!」


太鼓の音とともに、派手な羽織を揺らしながらひょいっと姿を現した男がいた。

三味線でも持っていいほど古風な格好をしているが、喋りはどこか芝居じみていて妙に軽い。


???「それがしの可愛い可愛い“後輩”をォォ〜……痛い目に遭わせてくれたのはぁ、あなた様でござんしょ?」


神宮寺「……後輩?」


傷の男はうんざりした顔で睨んだ。


傷の男「……エセすぎだろ、お前の喋り方」


派手男は扇子をパチンと開き、肩をすくめて笑った。


???「エセとは心外でござる〜。だが、まぁどうでもよし。この場は拙者が相手仕る!」


太鼓の音が一段大きく鳴り響き、周囲の空気がビリリと震えた。


神宮寺も傷の男も、思わずそちらへ視線を向けるほどの“気配”。


新たな戦力が、戦局を大きく変えようとしていた。


輝が血に染まった腕を震わせながら、倒れた真鴉へと手を伸ばす。

 痛みと恐怖で足元はふらついているのに、それでも必死に庇おうとするその手は、小刻みに震えていた。


 その手が、ふいに包み込まれた。

 温かく、しっかりとした掌。


翠馬「遅れてごめん……。痛そうだね……後は先輩に任せて」


 驚いて顔を上げた輝の視線の先、翠馬が静かに微笑んでいた。


 そしてもう一人、豪快な足音と共に影が落ちる。


雷牙「なんて顔してんだ」


 真鴉の横にしゃがんだ雷牙は、薄く笑って言った。


真鴉「……遅いんだよ」


雷牙「いやぁ、これでも全力で走った方だって」


 軽口を叩きながら顔を上げ立ち上がり、翠馬と肩を並べる。

 視線の先には、鞭をぶら下げてこちらを見下ろすローブの女。


雷牙「神宮寺の方には、あのエセ時代劇人間送っといたからよ。ま、あっちはなんとかなるだろ」


 翠馬が小さく息を吐き、雷牙と前に一歩出る。


 倒れ伏した一年達の前に、二人の二年生が立ちはだかった。


――そして、ほぼ同じタイミングで、二つの戦場に響いた声。


「後は先輩に任せろ!」



傷の男は眉をひそめ、神宮寺の背後から現れた影を睨みつける。

周囲の空気がピシリと張り詰め、紫炎を纏った男の霊力がわずかに揺らぐ。


傷の男「……また増えたよ。なんなんだあんたらは……」


ふと、男の表情が変わる。

まじまじとその助っ人を見つめ、そしてハッと目を見開いた。


傷の男「ん? この妖力……あぁ――あんたか!」

指をさし、苛立ちと興奮が入り混じった声で吠える。

傷の男「森の方からしてた異様な妖力、あれはテメェのもんだったのか!!」


???「あっしは霊力ってぇより――妖力に力を入れてるんでごさんず」

そう言うと、肩を回しながらひょいと羽織を脱ぎ、近くの枝に引っ掛けた。


傷の男「……お前、一人称変わってんじゃん」


???「気にすんな」


飄々と微笑むその男の体から、地面を震わせるような妖気が立ち昇る。

さっきまでの軽さが嘘のように、空気が一瞬で重くなる。


神宮寺(……なんだこの圧力。二年はこのレベルなのか?)


傷の男は紫炎を揺らしながら、楽しげに肩を震わせた。


傷の男「面白ぇ……さっきまでの一年より、よっぽど“殺し甲斐がある”」


エセ時代劇男が、すっと一歩踏み込み――

空気がまた一段階、重く沈んだ。


???「――若い衆を痛めつけた分、きっちり返させてもらうぜぇ?」


戦場の温度が、一気に跳ね上がった。


そのやり取りに、倒れかけの神宮寺が叫ぶ。

神宮寺「おい! お前の名前は!?」


九郎は涼しい顔で振り返り、胸を張る。

???「某?」


傷の男「いやまた変わってんじゃねぇか」


九郎は指を一本立てて名乗った。

猿渡「某は──猿渡さるわたり 九郎くろうでござんす」


傷の男「早くやろうぜぇ猿渡!」


猿渡は肩をすくめ、ゆったりとした口調で返す。


猿渡「焦りなさんな、そんな急かさんでも……」


その瞬間、ドォンと空気そのものが沈み込むような圧が周囲に広がった。地面の砂利が震え、木々の葉がざわつく。


傷の男「おぉ……! なんだよこれ……!」


猿渡は静かに一歩前へ出る。

すっと息を吸い、上着を脱ぎ捨てると、背中から溢れ出す妖力が黒紫の靄となって周囲を揺らした。


猿渡「さぁ――鼓舞してけぇ」


右手を上に掲げた瞬間、妖力で唐傘が生成される。

歌舞伎のように腰を落とし、傘をクルクルと回し始めた。


猿渡「よ〜〜〜ぉ……!」


ビン、と空気が震える。


次の瞬間。


ドンッ!


大地を踏み鳴らした足が地面を揺らし、周囲の土煙が弾け飛んだ。


水瀬「ひゃっ……!」


神宮寺「この妖力……桁が違う……!」


猿渡はあくまで余裕の笑みのまま、傘を肩に担いで言った。


猿渡「さてぇ――後輩に手ぇ出した落とし前。つけてもらうぜぇ?」


傷の男「来いよォ!!」


猿渡は傘を肩に担ぎ、わざとらしくため息をつく。


傘をクルッと一度回した瞬間、空気が弾けた。


パァンッ!!


次の瞬間、猿渡の姿がふっと掻き消える。


傷の男「は!?どこ——」


背後。


猿渡「遅いでやんす」


ドゴォッ!!!


背中に妖力を乗せた踵が突き刺さり、傷の男が地面へ吹っ飛ぶ。大木に激突し、木の表面が蜘蛛の巣状に割れた。


傷の男「ぐっ…!てめぇ……!」


よろめきながら立ち上がると、その目の前に猿渡がすでに立っていた。


猿渡「ほれほれ、踏ん張れやぁ?」


傘が軽く振られるたび、地面の砂利が渦を巻き、妖力が槍のように飛ぶ。


傷の男は必死に霊力で防御するが、剛力の差が明らか。


猿渡「あんたぁ“霊力使い同士”とか言ってたけんど、あっしは妖力側やでなぁ。霊力使って某に力負けするとはなぁ...」


猿渡が膝を沈めた。


ズシンッ!!


地面がへこむ。


傷の男「……は?」


猿渡「終いや」


瞬間、猿渡の姿が前後左右にぶれ、三方向から殴打が飛び込む幻影のような連撃が叩き込まれた。


バキッ!ゴッ!ドガァ!!


傷の男は最後の一撃で空中に浮き、そのまま地面に叩き落とされる。


ドシャァン!!


完全に失神。


猿渡は傘を開き、クルッと回して肩に乗せる。


猿渡「おつかれさんどした。……ほな一丁上がりや」


神宮寺が驚愕しながら立ち上がる。


神宮寺「つ…つえぇ……」


猿渡は軽く手を挙げて笑う。


猿渡「後は先輩に任せとけって言うたやろ?」


神宮寺の肩が、悔しさと敗北感でわずかに震えていた。

そこに、ふっと影が差す。


猿渡「神宮寺くん」


神宮寺の目の前で猿渡がゆっくり腰を落とし、真正面から覗き込む。


猿渡「……くすぶっとんねぇ」


神宮寺「え?」


猿渡は微笑でも嘲りでもない、ただ静かな事実だけを告げる声で続けた。


猿渡「霊力解放できたことで満足してないか?

 “到達した”気になっちまったんじゃねぇのか?」


図星だった。

神宮寺の拳が自然と握り締められる。


神宮寺「それは……」


猿渡「霊力も妖力も、両輪じゃ。片方だけ鍛えても歪む。

 妖力も磨きゃ、道はもっと先まで開かれるだろうよ」


その声音はあくまで優しいのに、胸の奥を真正面から刺す。

神宮寺は奥歯を噛み、真剣にその言葉に耳を傾けた。


猿渡の目は、まるで「まだ伸びるぞ」と告げるように暖かかった。



雷牙は、血塗れで倒れている真鴉と輝から少し離れ、女の前に立つ。

鞭を構えた女は、薄ら笑いを浮かべた。


雷牙「翠馬は一年坊の護衛しとけ」


翠馬「うん。」


翠馬はすぐ後ろに下がり、まだ息の荒い輝をかばうように身を寄せた。


鞭の女が、雷牙を嘲るように顎を上げる。


鞭の女「一人で相手できると、おもいで?」


雷牙は鼻で笑った。


雷牙「いや、できなきゃ困るんだよ。

 アイツらの前で情けぇ姿晒すわけにいかねぇからな」


女が鞭を握り直し、雷牙の気配が一瞬で剣呑に変わる。


緊張の糸が、ピン、と張り詰めた。


鞭の女が舌打ちし、地面を裂く勢いで鞭を振り抜く。

雷牙は一歩も動かない。ただ、ゆっくりと息を吸い込み、拳を握り、目を伏せた。


輝は真鴉に肩を貸しながら震える声でつぶやく。

輝「ら、雷牙先輩……どっちが勝つの……?」


その問いに答えるように、周囲の空気が「ピシッ」と音を立てた。


小さな火花。

砂利の上を這う微細な静電気。

空気中の埃さえ帯電して青白く光り始める。


翠馬が息を呑む。

翠馬「……出る。雷牙の三段階目が」


雷牙が鞭の女を真正面から見据え、静かに口を開く。


雷牙「霊力解放──三段階目」


瞬間、雷牙の全身が閃光に包まれた。


バチィィィンッッ!!!


髪が逆立ち、肌を走る青い稲光。

地面に落ちた砂が一瞬で弾け飛び、周囲の空気が焼けるように揺らぐ。


その姿はまるで、雷そのものを纏った戦士。


雷牙「“雷纏らいてん”」


鞭の女の額に汗が伝う。


鞭の女「三段階目……!?バカな、あんたみたいな化け物が、一年坊の護衛なんかしてるなんて……!」


雷牙は肩を回しながら言った。


雷牙「言ったろ、一年を守るのは“先輩”の仕事だって」


次の瞬間──消えた。


女「は……?」


稲光が走る。


ドガァアアアアアアッ!!!


雷牙の突進一撃で、女の身体が吹き飛び、石垣に叩きつけられ地面に転がる。

鞭を使う暇すら与えられなかった。


輝が声を失いながら呟く。


輝「……な、なにあれ……あれが……三段階目……?」


真鴉も痛む腹を押さえながら笑う。


真鴉「雷牙……反則級だろ……」


女は立ち上がろうとするが、脚が震えている。


雷牙は一歩ずつ近づき、低い声で告げる。


雷牙「外冠死業がどうだろうと関係ねぇ。“後輩を傷つけた奴”は俺がぶっ飛ばす。それだけだ」


そして――


雷牙の拳に、さらに大きな雷が集まった。


雷牙「終わりだ」


バチィィィィィッ!!!


鞭の女は地面に崩れ落ち、完全に意識を手放した……かと思われたその瞬間。


ビキィッ!

女の鞭が、まるで生き物のように跳ね上がる。


雷牙「はっ!? 」


宙でねじれ、形を変え──

細い糸が絡むように輪郭を形づくり、光が収束していく。


翠馬「……な、なんだこれ……?」


次の瞬間、鞭は完全に人の姿となって立っていた。

さっきまで倒れていた女そのものがそこにいた。


女「ふぅっ……びっくりしたじゃないの。まさかあんたが“三段階目”を使えるなんてね!」


雷牙「おい……ふざけんな。倒しただろお前……どういう仕組みだよ!」


女は手首をくるりと回し、笑いながら言う。


女「ワタシの能力は“変質”。

肉体を鞭に変えて、ダメージを逃がせるのよ。倒したつもりになられても困るわ〜?」


翠馬「……反則だろ、それ……」


雷牙は肩で息をしながらも、背後の輝と真鴉を気にするように横目を向ける。


輝「雷牙先輩……あれが……三段階目なんですか……?」


真鴉「……冗談じゃねぇ……。あんな質量の電気、見たことねぇ……」


雷牙はちらりと彼らを見て、軽く笑う。


雷牙「三段階目は“才能の本質”が表に出る形だ。

オレの場合──“周囲の電気を吸い上げる”体質が極限まで強化されるだけの話だよ。」


女「だけって言い方じゃないわよ!こっちは全然笑えないんですけど!」


雷牙は足元からバチッと火花を散らし、構えを低くする。


雷牙「でも……三段階目だからこそ言える。

──もうお前には負けねぇ。」


女「……っ!来なさいよ、切り刻んでやらァ!!」


周囲に散っていた静電気が一気に雷牙へ吸い寄せられ、

空気そのものが震える。


輝と真鴉は立ち上がれずに見ているしかない。

それでも二人の目は驚愕と確信で揺れていた。


輝「……これが……三段階目……!」


真鴉「2年の本気……やっぱ反則級だわ……」


鞭の女がしなるようなモーションで腕を振る。

放たれた鞭は宙で形を歪め、空気が裂ける音とともに“女”の姿へ変化する――まるで影が本体になったかのように。


鞭の女(本体)「こういう時は弱い方から攻めるのよォ!」


狙いは――翠馬。


雷牙「あっ!待て!! 翠馬には近づくな! 死ぬぞ!!」


鞭の女「え?……まさか、“弱いと思ってた奴が実は強いパターン”!?」


真鴉「えっ!? まさか翠馬さんが……!」


その瞬間、翠馬の周囲の空気がビリビリと震えはじめた。

砂埃すら寄せ付けないような圧が、周囲を押し返す。


輝「さっきまでと違う……なんか、すごい圧力が……!」


雷牙が即座に翠馬めがけて駆ける。

地面を蹴る度に雷光が走った。


雷牙「止まれ馬鹿!!」


焦った鞭の女が動揺して叫ぶ。


鞭の女「しまったッ!!」


――その刹那。


翠馬「ひ、ひぃぎゃあああ!!」


パニック全開で後ろにひっくり返り、その拍子に鞭の女の突進を紙一重で回避。

避けたというより、転んで勝手に避けた形だ。


ズザァッと地面に着地した鞭の女が、ぽかんと翠馬を見つめる。


鞭の女「……え?」


雷牙は翠馬の肩をバシバシ叩きながら大きく息を吐いた。


雷牙「あ〜〜良かったぁ……翠馬は覚醒なんてしねぇよ。

ただ単に“弱すぎて焦ってただけ”だ。」


沈黙――のち、


真鴉「なんだそれぇぇぇ!!!」


輝は呆れ、鞭の女ですら「意味わかんない」と顔をひねった。

ーーこうして島全体を巻き込んだ外冠死業との激突は、一気に混迷を極めていく。


神宮寺は初めて味わう“実戦の敗北”に打ちのめされながらも、猿渡の言葉によって新たな成長の道を示された。

真鴉と輝は圧倒的な力を前に無力さを知ったが、雷牙と翠馬の乱入により、状況は一変する。


そして雷牙の“三段階目・霊装”という未知の領域の披露。

その圧倒的力に驚愕する輝たちと、予想外の翠馬の挙動で翻弄される鞭の女…戦場は混乱と緊張、そして僅かな笑いが交錯する。


戦いの幕は開いたばかりーー

それぞれが己の限界を知り、そして超えるための第一歩を踏み出した


次回42話ーー「混沌」

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