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霊業  作者: まんらび
2章
34/46

34話:波乱万丈

前回までの死闘が嘘みたいに、今日はちょっと肩の力を抜いたお話です。

神宮寺も真鴉も輝も水瀬も、それぞれ疲れがまだ抜けてないはずなのに、日常ってやつは普通に流れていく。


寮での新しい生活、変なルール、変な設備、変な住人。

気がつけば、戦いよりも面倒くさいことが多いかもしれない。


怪我人はまだ寝ぼけてるし、元気なやつは相変わらず騒がしいし、

神宮寺は初めての“寮暮らし”にどう反応するのか──そこも見どころ。


普段の呼吸を取り戻すような小休止。

緩くて、ちょっと笑えて、でもどこか続きが不穏な日常編です。

【登場人物】

主人公:気道 輝

真鴉 隼

神宮寺 泰斗

天城 朔夜

ドアが閉まった瞬間、ぱっと室内の灯りが点いた。

眩しさに思わず目を細めながら、全員が無言で周囲を見回す。白い壁、静かな空気、妙に広い共有スペース──まるで新品の箱の中に閉じ込められたような感覚だった。


その場の中心で、天城が軽く手を叩く。


天城「では、まず部屋割りを行います」


そう言って、天城は一人ひとりに紙を手渡していく。

受け取った紙を開くと、それぞれ数字だけが書かれた簡素なものだった。


天城「その紙に記された番号の部屋が、あなたの部屋です。

荷物を置いたら、もう一度ここに集合してください」


淡々と告げる天城の声が、寮の静けさに吸い込まれていった。


荷物を抱え、それぞれが自分の部屋へと向かう。


輝は指定された部屋の前に立ち、少し緊張した面持ちでドアノブへ手を伸ばした。


──その瞬間、

カチ、と同じタイミングで別の手がノブに触れる。


輝「……え?」


真鴉「……は?」


2人の視線がぶつかった。

お互い、まるで鏡を覗き込んだかのように同じ表情で固まる。


一拍置いて、同時に叫んだ。


「なんでお前なんだよ!!」


廊下にその声が響き渡った。


隣の部屋の前で鍵を差し込もうとしていた神宮寺が、盛大な叫び声に眉をひそめた。


神宮寺「ああもう……隣、お前らかよ。」


ドアノブの上で手を止め、肩を落とす。


真鴉「……なんか文句あんのかよぉ!」


神宮寺「文句しかねぇよ。うるせぇ。壁薄かったら殺すぞ。」


輝「えぇぇ!? 物騒すぎるだろ!」


神宮寺はため息をひとつつくと、自分の部屋のドアを開けながらぼそりと漏らす。


神宮寺「……頼むから静かに寝ろよ。俺まで眠れなくなる。」


そう言い捨てて部屋へと消えていった。


2人は神宮寺の背中が見えなくなるまで無言で見送り、そのまま自分たちのドアを開けた。


部屋の灯りがつき、思ったより広い空間が現れる。

輝は安堵の息をつきながら荷物をベッド脇に置いた。


その横で真鴉がニヤッと笑い、肩をすくめる。

真鴉「……ご愁傷さま。

俺と同室はな、けっこうキツいぞ?」


輝は振り向き、まじまじと真鴉の顔を見る。


輝「お前が何言ってんだよ!? 寝相悪いとかイビキかくとか、そういうやつか?」


鴉は腕を組み、得意げに顎を上げた。


真鴉「半分正解だ」

輝「やめろよ! 地獄の同室じゃん!」


そんなやり取りがしばらく続き、2人ともようやく荷物の整理に取りかかった。

さっきまでの戦闘の緊張が嘘のように、部屋にはほどよい騒がしさと笑いが満ち始めていた


全員が荷物を置き終え、ぞろぞろと寮の共用スペース──“ホーム”へ戻ってくる。

足音が重なり、ざわつきが起き始めたその中心には、すでにソファーで腰をかけている天城と、関西訛りの大柄な男がいた。


2人は何やら真剣な表情で話している。


天城「……つまり、霊力というのは鍛錬でどうにかなるものではなく、素質と覚悟の兼ね合いで──」


関西弁の男は腕を組みながら、興味深そうにうなずく。


???「なるほどなぁ。せやけどウチかて霊力くらい──」


その瞬間、彼は口を途中で止めた。

視線の先――ほかのクラスメイトたちが続々と集まってくるのが見えたからだ。


関西の男はニッと笑い、手をひらひらと振ってから一歩、二歩と後ろへ下がる。


天城は涼しい顔でソファーに姿勢を正し、集まった7人をゆっくり見渡した。


場の空気には、霊力の話を途中で切った男の“引っかかる笑み”が薄く残ったまま、微妙な緊張が流れ始めた。


天城が話を切り出そうとした、その瞬間だった。


太った男「飯は!? 飯の時間はいつなんですか!! もう腹減って死にそうなんですけど!!」


いきなりの大声に、その場の空気が止まる。

天城は一度だけ瞬きをし、男へ視線を向けた。


天城「……まず説明を聞いてください。食事は規定の時間に──」


太った男「いやいやいや! 食べないと無理ですって! さっきの森でイノシシ食ったけど、あれじゃ足りないんですよ!」


周囲の全員が「イノシシ……?」とざわつく。


天城は淡々と確認するように問い返す。


天城「……そのイノシシを、倒れた妖怪の亡骸を椅子にしながら焼いて食べていた、あの行為のことですか?」


全員の視線がゆっくり太った男へ向く。


太った男「……はい。椅子として優秀だったので……」


輝「いや優秀とかじゃねぇよ……!」


真鴉は目を細め、肩を震わせながら

真鴉「妖怪を……椅子に……?」

と呟き、ツボに入りかけている。


天城はため息をひとつ落とし、冷ややかに告げた。


天城「説明が終われば勝手に食べてください。では──話を続けます。」


あまりにマイペースすぎる“胃袋の怪物”の登場に、ホームの空気は妙な方向へとざわつきながら、天城の説明が再開された。


天城はテーブルの前に立ち、落ち着いた声で説明を再開した。


天城「まず、ここ──ホームを中心として説明します。

こちらから見て左手に食堂があります。食事は基本そこで取ってください。


右手には、先ほど皆さんに見てもらった各自の部屋が並んでいます。

一番奥には浴場とトイレがあり、男女でしっかり分かれていますので安心してください。


それから──二階には我々教師陣の部屋があります。ですが、普段会うことはあまりありません。授業のときくらいでしょうね。何せ曲者揃いですから。授業を通して、ゆっくり理解していってもらえればと思います。」


説明の最後で、天城は僅かに意味深な笑みを浮かべた。

その表情を見た瞬間、全員の背筋がひやりと冷える。


まるで「これからもっと面白いことになる」とでも言いたげな、そんな笑みだった。


天城は静かに指を組み、視線をゆっくり全員へ向けた。


天城「それから──もう一つ大事なことがあります。

たまに二年生の“やんちゃ”な連中が様子見に来ることがあります。ちょっかいをかけてくる者もいますが……限度を超えていれば我々が止めます。


ですが、基本的な対処は自分たちでお願いしたい。

この学園は“自立”が第一ですからね。」


そこまで言うと、天城の目が楽しげに細まる。

そして、皆が密かに不安に思っていた話題へと触れた。


天城「さて──皆様が特に気になっているであろう“三年生”の存在についてですが……」


室内の空気が、急にひんやりと重くなった。

真鴉が眉をひそめ、輝はごくりと喉を鳴らす。

誰もが“その話だけは聞きたくない気がする”と直感する。


天城は淡々と続けた。


天城「三年生は……一言で言えば“別格”です。

私たち教師陣ですら、彼らには手を焼きます...」


その言葉に、全員の心臓がわずかに跳ねた。


天城は椅子の背にもたれ、薄く笑う。


天城「とはいえ、皆さんが遭遇することは滅多にありません。

もっとも──遭遇してしまったなら、その時は……」


沈黙。


天城の微笑だけが、妙に深い意味を帯びていた。


真鴉が手を挙げ、少し眉をひそめながら口を開く。


真鴉「なぁ天城さん。……2年と3年の人数ってどれくらいなんだ? そこ、大事じゃね?」


天城は腕を組んだまま視線だけを真鴉へ向け、静かに答える。


天城「2年生は三名。そして三年生は二名です」


淡々とした声に、周囲の数人が小さく息を呑んだ。

数字だけなのに、どこか重みがある。


天城は続けて言う。


天城「どちらも問題児揃いですので、関わる際は十分にお気をつけて」


天城は少し咳払いし、全員の視線が自分に向いたのを確認してから静かに告げた。


天城「――とりあえず、本日は以上です。

疑問があれば、二階へ上がってすぐの部屋が私の居住地なので、質問しに来ていただいてもかまいません」


淡々とした口調だが、“自分から来い”という姿勢は相変わらずだ。

ホームにいた面々は顔を見合わせ、少し気まずい空気が流れる。


天城は軽く一礼し、ソファから立ち上がると、そのまま踵を返して階段の方へと歩き出した。

途中、振り返ることもなく階段を上っていく。


教師の気配が完全に消えると、残された生徒たちにようやく緩んだ空気が戻り始める――。


ホーム内が静まっていく。

全員の顔に疲労の色が濃く滲んでいた。


それを見て、誰からともなく「……寝よ」と小さく漏れ、自然と流れができる。

生徒たちは重たい足取りで、それぞれ割り当てられた部屋へと戻っていった。


部屋に戻った真鴉と輝は、ベッドを見た瞬間に限界を悟る。


輝「……無理、寝る……」

輝が言いかけた言葉は、最後まで形になる前に消えた。


真鴉も同じく、布団に倒れ込んだ瞬間に意識が落ちる。

会話など挟む余裕すらなく、2人はまさに“気絶するように”眠りへと沈んでいった。


寮の廊下には、部屋ごとに扉が閉まる音だけが順々に響き――

次第に静けさが支配していった。


寮が完全に静まり返ってから、およそ二時間後のことだった。


暗い部屋の中、真鴉のベッドがわずかに揺れ始める。寝返りにしては不自然なほど大きく、断続的だ。


隣のベッドで眠っていた輝は、その振動で目を覚ました。薄暗い中、真鴉の方へ目を向ける。


真鴉はシーツを握りしめ、肩を震わせながらうなだれていた。


輝「……真鴉? おい、起きてるのか?」


返事はない。


呼びかけようと身を起こした瞬間――


真鴉「やめろッ!!!」


部屋が揺れるほどの叫び。

輝は息を呑んだ。


真鴉「俺から……全部奪うな……ッ!!」


真鴉の声は怒号というより、悲鳴に近かった。押しつぶされるような苦痛がにじんでいる。


続けて、途切れ途切れの声が漏れた。


真鴉「……殺しちまって……ほんと……すまねぇ……」


涙が頬を伝い、枕へと落ちる。


輝は呆然とその光景を見つめながら、自分の喉がきつく締め付けられるのを感じた。


輝「……真鴉。大丈夫だ、起きろ。ここにいるのは俺だ。お前はひとりじゃねぇ」


声をかけても、悪夢の底へ沈んだ真鴉の意識には届かない。


真鴉の荒い息がようやく落ち着くのを確認し、輝はふぅと小さく息を吐いて布団へ戻った。


真鴉はもう苦しそうではなかった。

輝はそのまま眠気に引きずられるようにして再び目を閉じた。


──そして、次に目を覚ました時。


真鴉の布団は乱れたまま、空っぽだった。

輝「……いない」


ぼんやりした頭で時計を見ると、短針はきっちり 12時 を指していた。


寝癖を手で押さえながら輝は洗面台で歯を磨こうと部屋を出る。

すると──廊下の先、食堂方向から何やらざわざわと人の声が響いていた。


ガヤ……ガタッ……「ちょ、やめろって!」

どう聞いても穏やかではない。


輝(なんだ……? この時間に騒ぎ?)


まだ半分寝ぼけた頭が一気に覚醒する。


輝は歯ブラシを握ったまま、音のする食堂へと足を向けた──。


食堂へ向かった輝が目にしたのは、喧騒の中心で掴み合い寸前の真鴉と神宮寺だった。


真鴉が神宮寺のトレイに手を伸ばし、パンをつまみ取ろうとしている。


神宮寺「おい真鴉! それ俺のだって言ってんだろ、自分の食えよ!」


神宮寺が怒鳴る


しかし真鴉も負けていない。


真鴉「いいじゃねぇかよ! 足りねぇんだよ俺は! 朝から腹減って仕方ねぇんだよ!」


神宮寺「知らんわ! だったら追加で取れって!」


真鴉「もうねぇんだよバカ!」


食堂の生徒たちがざわつく中、天城がゆっくりとコーヒーを啜りながら二人を眺めていた。


天城「……あの二人、朝から元気ですねぇ。まぁ、止めるのは輝くんに任せましょうか。」


完全に職務放棄だ。


輝はため息をつきながら2人の間に割って入った。


輝「はいストップ! 真鴉、神宮寺の昼飯奪うとかやめろ。神宮寺、お前も売り言葉に買い言葉すんなって。」


2人は輝を挟んで睨み合うが、そのうち神宮寺がぷいっと顔をそらす。


神宮寺「……ったく、朝から面倒くせぇんだよ。」


真鴉は真鴉で、奪いかけたパンを渋々トレイに戻しながら、


真鴉「腹減ってんだよ……。昨日は色々ありすぎて腹も減るだろ……」


とぼそっとこぼす。


すると厨房の奥から職員の女性が顔を出した。


女性「追加の分、今ちょうど焼けましたよ〜。喧嘩しないで食べてくださいね〜」


真鴉の顔が一瞬で明るくなる。


神宮寺が呆れつつも笑う。


神宮寺「……単純だなお前。」


輝が味噌汁とご飯を受け取り、空いた席へ腰を下ろしたちょうどその横で、真鴉はまだ食堂中に響く声量で文句を言っていた。


真鴉「肉はねぇのか!? 肉! さっきあのデブ全部食って早々に部屋帰りやがったんだよ!」


配膳していた女性が苦笑しながら肩をすくめる。


女性「今日はパンとスープがメインなんですよ。お肉は夜に出しますから我慢してくださいね」


真鴉「我慢できるかよ! 俺ぁ育ち盛りなんだぞ!」


神宮寺「年下の気道の方が落ち着いてんな」と突っ込みつつ、皿を死守したまま椅子に座り直す。


輝は味噌汁をすすりながら横目でそのやり取りを見て、ため息をひとつ落とした。


輝(朝っぱらから元気すぎるんだよ、こいつら……)


しかし、真鴉はようやくパンを確保すると満足そうに席へ向かった。その途中で輝を見つけ横に座る


真鴉「おう!気道 おはよう!」


輝「……おはよ」


真鴉「元気ねぇな気道」


輝「そうか?」


真鴉は鼻を鳴らし、パンをがぶりと噛んだ。


食堂には、遅れて起きてきた一年生たちの気だるい空気と、慣れない環境に漂う微妙な緊張感が入り混じっていた。


その中で真鴉と神宮寺の喧嘩だけが、無駄に朝の活気を作り出している。


輝は再び味噌汁に口をつけながら、ふと今朝の夢――いや、真鴉のうなされ声を思い返した。


輝(……あれ、夢じゃないよな)


けれど、聞くタイミングではないと悟って言葉を飲む。


代わりに、日常の調子のまま真鴉へ声をかけた。


輝「……で、夜飯は肉出るらしいぞ。楽しみにしとけよ」


真鴉はパンをもぐもぐしながら、妙に嬉しそうににやりとした。


真鴉「最っ高の一日になりそうだな!」


輝はその能天気さに、少しだけ救われる気がした。

今回は、訓練校での生活が本格的に始まった回でしたね。

命のやり取りをくぐり抜けてきたメンバーが、「部屋割り」「食堂」「寮の説明」といった日常へ放り込まれた瞬間、まるで別世界に来たような空気になったのが印象的でした。


真鴉と輝の同室コンビは相変わらず騒がしく、神宮寺との距離感も安定のツッコミ合い。

そして食堂では、昨日の死線が嘘のようにパンを巡って喧嘩が始まり、誰かが全部食べる問題が発生し、食欲は戦闘より熾烈ということを証明してくれました。


しかしそんな中でも、真鴉の深夜の悪夢が静かに影を落とし、彼の抱えるものが “ただの騒がしさ” ではないことを示す回でもありました。

仲間たちが騒がしく日常を過ごす裏で、彼だけが別の痛みを抱えている――その対比が次の波乱を予感させています。


次回は、日常の裏に潜む不穏さがより明らかになっていくことでしょう。

平穏のようで平穏でない、そんな“嵐の前の静けさ”を楽しんでいただければ幸いです。


次回35話ーー霊力

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