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霊業  作者: まんらび
2章
33/46

33話:暁、揺らぐ影

神宮寺、覚醒――

己の身を削る力“霊力”を発動した神宮寺は、圧倒的な力で妖怪を追い詰める。

しかし、その力は彼の命をも蝕んでいく。

水瀬、真鴉、輝――それぞれが見つめる「仲間の覚悟」の先に、何を見るのか。

戦いの終焉が静かに幕を開ける。

【登場人物】

主人公:気道 輝

真鴉 隼

水瀬 詩織

神宮寺 泰斗

天城 朔夜

森の奥深く――。

神宮寺が放った“光”が夜空を裂き、樹々の影を青白く染め上げていた。

その光景を、森の各地から三つの揺らぐ影がそれぞれ見上げていた。


一人目が、木の枝に腰を下ろしながら呟く。

???「……なんや、あの光。すんごい霊力やなぁ」

風が止まり、鳥の声すら遠ざかる。


二人目は、岩場の上で小型の妖を討伐した直後、ふと腕の計測器を見た。

???「さっき……急に跳ね上がった妖力が消えた。

 誰が倒したんだろ? 気になる……」

独り言のような声が、夜の静寂に溶けていく。


そして――三人目。

授業などそっちのけで、焚き火のそばに座り、獣の肉を焼いて貪る巨漢。

足元には、つい先ほどまで暴れていた妖怪の亡骸が転がっている。


???「うまぁっ……うまぁっ……」

油でぬらぬらと光る口元を拭いながら、男はふと空を仰ぐ。

???「ん?お腹ぁ、すいてきちゃったぁ」


にやり、と笑うその顔には、常人にはない“異様な気配”が滲んでいた。


神宮寺が放った光が森を包み込み、眩い閃光が一瞬で闇を切り裂いた。

その中心で、神宮寺は虚ろな目をして立っていた。


ぼんやりと視界に映るのは――核ごと真っ二つに裂け、崩れ落ちる妖怪の姿。

それを確認した神宮寺の唇が、かすかに吊り上がる。


神宮寺「……ふっ」


力なく笑い、彼の身体が地面へと崩れ落ちる。

その瞬間、手にしていた刀は光の粒となり、霧のように静かに消えた


地面に倒れた妖怪の身体が、じわじわと崩れていく。

黒い塵となって風に溶け、跡形もなく消えた。


輝はその様子を見ながら、地面に寝転んだまま腕を上げて――ぐっと、真鴉に親指を立てる。


輝「……やったぜぇ!」


息も絶え絶えに笑う輝に、真鴉は呆れたように鼻を鳴らした。

真鴉「バカが……死に急いだのかと思ったぞ」


一方、水瀬はすぐさま神宮寺のもとへ駆け寄る。

その身体は力なく横たわっており、呼吸も浅い。

水瀬は焦ったように両手を掲げ、念動力で神宮寺の身体を静かに浮かせる。


水瀬「……大丈夫、大丈夫だから……!」


涙をこらえるように震えながら、水瀬は必死に彼を支えた。


真鴉が輝の肩を支え、無言で立ち上がらせる。

輝は足を引きずりながらも、必死に前を向いた。


真鴉「立てるか」

輝「……あぁ、なんとか……」


その言葉に、真鴉は短く頷く。


水瀬「神宮寺さん、少し我慢してくださいね……」

水瀬は神宮寺の体を慎重に浮かせ、崩れぬよう支える。


そのとき――神宮寺の体を包んでいた青い炎が、

胸の中心へと吸い込まれるように消えていった。

まるで、燃え尽きた魂が静かに眠りへ戻るように。


焼けた土の匂い、血の跡、砕け散った枝――その全てが、さっきまでの激闘を物語っていた。


誰も口を開かないまま、四人はゆっくりと歩き出す。

重たい足取りで、それでも確かに前へ。


やがて木々の向こうに、見慣れた校門が姿を現した。

夜明けの光が差し込み、疲れ切った彼らを静かに迎える。


ーーーー


白いシーツ、無機質な天井。

神宮寺はベッドの上で静かに眠っていた。包帯が巻かれた胸が、ゆっくりと上下している。

その傍らで、落ち着いた声が響いた。


???「霊力を使えるようになった人間は、使えなかった時の二倍は強くなる……。神宮寺様は他の1年生に大分差をつけて、強くなられましたよ」


静寂の中、微かに神宮寺の眉が動いた。

まぶたがゆっくりと開かれる。ぼやけた視界の中で、電話を耳に当てて話す天城の姿が映る。


天城「ええ、順調です。……はい、今は休ませていますが、すぐにまた動けるでしょう」


彼の口調はいつも通り穏やかで、しかしどこか芝居がかった静けさを含んでいた。

電話の相手に対して丁寧に頭を下げる天城の姿を、神宮寺はぼんやりと見つめ続ける。


天城「ご安心ください。神宮寺様は、間違いなく――貴方の誇りとなります」


受話器の向こうで、かすかに年配の男の声が聞こえた。

神宮寺は目を細め、息を吐く。


青い霊力の残滓が、まだ神宮寺の胸の奥で静かに揺れていた


天城が最後の言葉を言い終えたその時――。

微かな息の音が、室内に響いた。


天城の目が細くなる。

ゆっくりと振り返ると、神宮寺がぼんやりとこちらを見ていた。


天城は電話を耳から外し、静かに通話を切った。

受話器を置く音すら丁寧に響く。


天城「……起きましたか。

 回復の術を使ったので、治りは早いですが今日1日は安静にしておいてくださいね」


神宮寺は喉の奥で微かに唸るように声を出した。

かすれた声で言葉を絞り出す。


神宮寺「じゅ……授業は……?」


その問いに、天城はくすりと笑いながら、椅子に腰を下ろす。


天城「ありませんよ。もともと今日は一限だけにしていましたからね。

 ……私が放った妖怪、“ぬらりひょん”がもっと暴れてくれると思っていたので」


神宮寺の瞳が細められ、ベッドの端で拳を握る。


神宮寺「……お前が……放った……?」


かすれた声。それでも、はっきりとした敵意が込められていた。


天城は一瞬だけ目を細めたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。

紅茶をひと口含み、まるで雑談のように――。


天城「ええ。そうですよ」


悪びれる様子など、欠片もない。

その声は、淡々と、事実を語るようなものだった。


神宮寺の拳がシーツを握り締める。

その布が軋み、血の滲むほどに力がこもる。


神宮寺「……俺が……仲間が……死ぬかもしれなかった……」


天城はわずかに笑みを深める。

その笑みには冷たさすら宿っていた。


天城「ふふ……神宮寺様。

 ご自身の強さのためなら、仲間などどうでもいいと――

 そう仰っていたのは、あなたではありませんでしたか?」


神宮寺の瞳が見開かれる。


天城「“死ぬため”ではなく、“生きるため”戦ったのでしょう?

 それこそが、強者の資格です」


神宮寺の歯が軋む音が、静かな部屋に響いた。

天城は立ち上がり、淡々とした口調で続ける。


天城「生徒たちには、死と隣り合わせの現実を知ってもらわねばなりません。

 ……この世界では、“生き残る”ことこそが才能ですからね」


天城は、軽やかに背を向けた。

その姿を、神宮寺はただ、怒りと悔しさを滲ませながら見つめていた。


部屋を後にした。

扉が閉まる音が、やけに長く響く。


神宮寺はしばらく、その音の余韻を聞いていた。

やがて、息を吐き、ゆっくりと天井を見上げる。


――自分は、本当に“そう”だったのか。


問いが胸の奥で渦巻く。

だが、答えを出す間もなく、窓の外に一瞬の影が走った。


神宮寺の瞳が鋭く細まる。

反射的にベッドから飛び起き、構える。


次の瞬間――。


真鴉「お、おいおい! 人が見舞いに来たのにその反応はねぇだろ!」


ガラリと窓が開き、真鴉が顔を出した。

その背後では、輝が困ったように手を振っている。


輝「ちょっ……! 真鴉!ドアから入ろうよ!」


神宮寺は一瞬、呆然と二人を見つめ――次いで小さく息を吐いた。


神宮寺「……お前ら、どこから入ってきてんだよ……」


それでも、口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。


真鴉と輝が部屋に入り込むと、神宮寺はまだ構えた姿勢のまま、ふっと表情を緩めた。


神宮寺「……お前ら、怪我は?」


真鴉は肩を軽く回しながら鼻で笑う。


真鴉「俺もこいつも、かすり傷程度だよ。大したことねぇ。」


隣で輝がこくりと頷く。

そして、真っ直ぐな眼差しで神宮寺を見つめた。


輝「……神宮寺が守ってくれたお陰だ。ほんとに、ありがとう。」


その一言に、神宮寺の眉がピクリと動く。

無言のまま顔をそらし、視線を窓の方へ逃がした。


神宮寺「べ、別に……俺はただ、戦っただけだ。礼なんていらねぇ。」


そんな神宮寺の反応に、真鴉はいやらしく口角を上げる。


真鴉「ははっ、感謝されるってのはいいもんだろ? お前、照れてんじゃねぇか。」


神宮寺「照れてねぇ!!」


真鴉が腹を抱えて笑い、輝もつられて笑った。


神宮寺はまだ赤みの残る顔でそっぽを向きながら、

その声を聞き、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。


真鴉はまだ笑みを引っ込めず、窓際に腰をかけながら息をついた。


真鴉「……俺もさ、最初は神宮寺みてぇに思ってたんだよ。」


神宮寺「は? 俺みたいに?」


真鴉は肩をすくめ、輝の頭を軽く小突く。


真鴉「自分が強けりゃそれでいい。他はどうでもいい――そう思ってた。

 でもよ、気道みたいなバカを近くで見てるとさ……」


輝「バカって言うなよ!」


真鴉は無視し、軽く笑って続ける。


真鴉「俺もバカやってみてもいいのかなって、そんな気がしてくんだよ。」


神宮寺は一瞬、言葉を失う。

真鴉がそんなことを口にするとは思っていなかった。


そして真鴉は神宮寺をまっすぐ見て、にやりと笑う。


真鴉「だからよ、神宮寺。

 お前もそんな堅ぇ顔ばっかしてねぇで――ちょっとくらいバカしてみりゃいいんじゃねぇか?」


神宮寺はむっとした顔で返す。


神宮寺「……俺はバカじゃねぇ。」


だが、その声音にはほんの少しだけ、硬さがゆるんでいた。


勢いよく――バンッ!


保健室のドアが弾けるように開いた。


水瀬「神宮寺さん――っ!……って、あ、他の二人もいるね! ちょうどいいや!」


息を切らしながら、きょろきょろと3人の顔を確認する。


水瀬「3人とも、教室集合! 天城先生が呼んでる!

 “一限目を生き残った人たちに説明することがある”って!」


輝「い、今すぐ!?」


真鴉「神宮寺、歩けそうか?」


神宮寺は布団を払って立ち上がる。


神宮寺「問題ない……行くぞ。」


水瀬はホッとし、すぐに踵を返して廊下へ駆け出していった。


3人は顔を見合わせ、無言のまま後を追う。

教室に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


ざわつきも、笑い声も、何もない。

ただ、静かだった。


教室にはクラスメイトが並んでいた……だが、その数は明らかに足りない。


真鴉が眉をひそめて、周囲を見回す。


真鴉「……え? 少なくないか? 俺ら含めて、もっといたよな?」


神宮寺は一歩前に出て、淡々と答える。


神宮寺「一人は……死んだのを確認した。」


教室の空気が一段重くなる。


神宮寺は目を伏せることもなく、続けた。


神宮寺「もう一人は……知らん。戻ってきていない。」


真鴉は唇を噛む。

輝は拳を握りしめ、目を伏せる。

水瀬は小さく息を飲んだ。


その重い沈黙を破るように――

教壇の扉が「コツ、コツ」と叩かれた。


天城が姿を見せる。


教室の全員の視線が、ひとりに集まった。


重苦しい空気の中、天城はゆっくりと前に歩み出た。

その顔は相変わらずの柔らかな笑み――けれど、その言葉は空気をさらに凍らせる。


天城「いやぁ……二人も亡くなってしまって、本当に悲しいですねぇ……」


声色は穏やかだが、どこか他人事のようで、誰も返事をしない。


天城は手を軽く叩き、雰囲気を切り替えるように明るい調子を作った。


天城「さて──本題に行きましょうか。そこにある四人席に座ってください。」


天城が指差す。

真鴉、輝、神宮寺、気道の4人に向けた指示だ。


天城「真鴉さんは……気道さんの前の席ですね。」


真鴉は少し驚いたように気道を見て、肩をすくめた。


真鴉「……了解。」


椅子を引く音が教室に響き、4人がそれぞれ席につく。


満足げに頷いた。

天城は教卓へ歩み、静かに立った。

薄暗い教室の空気を掌握するように、ゆっくりと7人を見渡す。


その視線は一人ひとりを的確に刺していくようで、誰もが無意識に背筋を伸ばした。


そして──

聞こえるか聞こえないかの小さな声で、天城がぽつりと呟いた。


天城(小声)「……やっぱり豊作……いいですねぇ。」


誰にも届かないほどの音量。

ただ、その口元に浮かんだ微かな笑みだけが、不気味な余韻を残す。


天城はすぐにいつもの丁寧な口調へ戻り、淡々と話し始めた。


天城「さて、今日は一旦ここまでで授業はありません。色々ありましたし、もう夜も更けていますからね。」


教室の空気が少し緩む。


天城「次回の授業は──夜23時から。

それまで、皆さんは自由行動で構いません。」


その声は静かだが、拒否を許さぬ絶対的な響きを持っていた。


天城が「では、寮の場所へと案内します」と言い、7人を連れて校舎裏へ向かう。

夜風が吹き抜ける薄暗い裏手には、いつの間に建てられたのか分からないほど静かに佇む寮があった。


天城はその前で立ち止まり、ゆっくり扉に手を掛ける。


天城「さぁ、どうぞ」


扉が開いた瞬間、古い木造の建て付けとは思えないほど真新しい空気が流れ出した。

了解しました先生、いつもの“先生の作品について語るタイプ”のあとがきにします。

テンション・語り口もこれまでの流れに合わせて修正しました。



---


【あとがき】


ここまで読んでいただきありがとうございます。33話では、神宮寺の覚醒と、その裏で天城が仕掛けていた企みがついに姿を見せる回となりました。


神宮寺は本来、他者を省みず“強さだけ”を求めていた人物ですが、真鴉や輝と出会い、少しずつ変わりつつあります。

今回、仲間に感謝されて照れたり、真鴉の言葉に揺さぶられたりと、彼の人間味がようやく顔をのぞかせてきました。


一方で天城は、読者が想像していた以上に冷酷で、そして何より“何かを試している”ような気配が濃くなりました。クラスメイトが二人欠け、残る七人がどう動くのか──ここからさらに物語は加速していく予定です。


そして次回、寮に移動した彼らがどんな夜を過ごすのか。

日常なのか、地獄の前触れなのか、それは……書きながらのお楽しみということで。


次回34話ーー:波乱万丈

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