32話:連携
突如として現れた強大な妖怪。
輝、神宮寺、水瀬、真鴉――それぞれが全力を尽くすも、その圧倒的な力の前に歯が立たない。
絶望が迫る中、戦況を変えたのは、輝が手にした一本の“ただの木の棒”だった。
何の変哲もないはずのそれが、四人の運命を大きく動かしていく――。
【登場人物】
主人公:気道 輝
真鴉 隼
神宮寺 泰斗
水瀬 詩織
天城 朔夜
黒瀬 雷牙
黒瀬 翠馬
禍津学園の校庭。
風が穏やかに吹き、机の上には紅茶の湯気が揺れている。天城と黒瀬兄弟が向き合って座っていた。
雷牙がカップを手に眉を寄せる。
雷牙「この妖力……天城先生、どこでこんなの捕まえてきたんですか?」
天城は静かに紅茶を啜り、わずかに笑って答えた。
天城「――捕まえた? 違いますよ。作ったんです。」
その一言で場が凍る。雷牙はカップを置き、勢いよく立ち上がる。
雷牙「……作った!? あんな化け物を、天城先生がか!?」
天城は落ち着いた声で続ける。
天城「正確には“私”ではありません。理論を組み、術式を整えたのは私です。ですが、あれをそこまで“育てた”のは私ではないのです。」
雷牙「どういうことだ……?」
天城の目が細まる。微笑の奥に冷たい光が宿る。
天城「“成長する妖怪”です。」
雷牙「そんなのいるのか?」
天城「雷牙さんは知っているでしょう。霊は、霊を喰えば強くなる、と。」
雷牙「それは知っている。だが妖怪と何の関係が……まさか、妖怪同士も共喰いするのか?」
翠馬が声をあげる。
翠馬「!?」
天城は静かに頷く。
天城「ご名答。私は“霊と妖怪の違い”を考えました。霊は元は人間です。死した者が霊となり留まる。ですが少数、元が人間でない“霊”の存在も確認されています。」
翠馬「それが……何か関係あるのですか?」
雷牙「妖怪だって同じようなもんだろ。人が妖怪になることもあるし、元から妖怪の奴もいる。」
天城「その通りです。霊も妖怪も構造だけでみれば一緒なのです。」
雷牙「一緒...」
天城「人間が妖力を増やすために用いるものは何か、教えた事覚えていますか?」
雷牙「妖怪の糞だよな……」
※妖怪の糞とは、妖怪は定期的に妖力を体外に放出するために球状の妖力の塊を生成する、それを一般的に妖怪の糞と呼んでいる
天城は淡々と続ける。
天城「なら霊と構造が同じ妖怪に妖力を摂取させれば強化可能と考え妖怪の糞を食べさせました、すると妖力は爆発的に増え強化されたのです」
雷牙「じゃあ妖怪を育てたのは天城先生……」
天城「基盤は私が作りました。ですが、その後、森へ放った結果、その個体はより多くの妖力を求め、他の妖怪を喰い始めました。」
翠馬「なるほど、それであれだけ強くなったんですね……」
天城はにやりと笑う。
天城「強い妖怪で経験を積ませれば、強い妖力使いや霊能力者が生まれる。禍津学園の戦力補填、それが狙いです。」
雷牙「戦力補填...俺らが一年のときも、そんな話を聞いた気がするな」
天城「一限目を生き残った者たちには、正式に説明しますよ、あなた達にもいつかは話します」
雷牙が呟く。
雷牙「神宮寺財閥の跡継ぎもいるが……あいつがもし死んだら、天城先生、とんでもない罰が下りそうだが大丈夫か?」
天城は紅茶をもう一口含み、淡々と答える。
天城「大丈夫とは言い切れません。ですが、ここで死ぬような者は、この先も同じでしょう。私は妥協を許さないのです。」
雷牙は遠くを見据える。森の向こう側でなお戦いの光が瞬いている。
――同じ頃。
禍津学園から離れた深い森。
血と焦げた匂いが混ざり合う戦場に、光が差し込む。
立ち上る煙の中で、4人の影がゆらりと動く。
神宮寺が刀を支えにし、荒い息を吐く。
真鴉は壊れたスナイパーの銃身を見つめながら舌打ちし、
水瀬は手を震わせながらも、必死に念動力で瓦礫をどかしていた。
先ほどまでの妖怪とは比べものにならない異形。
皮膚は灰色に変色し、全身の筋肉が脈動している。
妖怪は自らの手を眺め、ゆっくりと指の動きを確かめるように握り、開く。そして、首をぐきりと鳴らすと、口から「プシュー」と白い息を吐き出した。
その瞬間、空気が一変した。
森全体が静まり返る。風すら止まったかのように。
妖怪が一歩、地を踏みしめた。
――ガッ。
四人が同時に構える。
神宮寺は腰を低く落とし、刀をわずかに傾ける。
水瀬は両手を前に出し、念動力の流れを整える。
真鴉はスナイパーライフルを再び具現化し、銃口を妖怪の眉間へ。
そして――輝は腰を抜かして、その場にへたり込んだ。
妖怪は、濁った瞳をぎょろりと動かした。
まるで自分の居場所を確かめるように、ゆっくりと周囲を見渡す。
木々、倒れた岩、立ち尽くす人間たち――一つひとつを観察するように視線が動く。
そして、その目が神宮寺で止まった。
妖怪は首を傾げた。
カクン、と異様な角度で。
次の瞬間、口の端が裂けるように吊り上がり
「……ニタァァ〜……」
不気味な笑みを浮かべた。
空気が、凍る。
神宮寺の目が見開かれた。
神宮寺「――っ!!」
刀が風を切る音。
神宮寺は反射的に地を蹴り、疾風のように妖怪へと飛びかかった。
地を抉る一閃。
戦闘の再開を告げる、雷鳴のような衝突だった。
神宮寺が何度も斬撃を放つ。
刃が閃光のように走り、風圧が木々を裂く。
だが――妖怪は微動だにしない。
その腕が、ゆらりと動いた。
まるで赤子をあやすかのような、柔らかくも不気味な動きで、神宮寺の一撃一撃を“受け流す”。
金属のような音とともに、刀が弾かれる。
火花が散り、神宮寺の腕が痺れた。
神宮寺「……なっ……!」
その異様な光景に、真鴉が息を呑む。
呆然としていた彼は、ハッと我に返った。
真鴉「チッ……くそ、やるしかねぇな!」
スナイパーライフルを構え、照準を定めようとする。
だが――妖怪の動きは速すぎる。
視界の中で、影が滲むように揺れ、標準が定まらない。
真鴉「くっ……!」
視界の中で、妖怪の姿が滲む。標準がまるで定まらない。
焦燥の中、水瀬の声が飛んだ。
水瀬「真鴉さん!! 撃ってください!!」
真鴉「標準が定まんねぇんだよ!」
水瀬が必死に叫ぶ
水瀬「私の力で弾道を変えます!」
真鴉「……はぁ!? できるのか、そんなこと!!」
水瀬は一瞬だけ真鴉を見た。
その瞳は恐怖を押し殺したまま、まっすぐだった。
水瀬「一か八かです! 私の念動力を信じて――やってみます!!」
風が唸る。
水瀬の掌に、目には見えぬ“力”が集まっていく。
空気が軋み、銃口の先に見えない渦が生まれた。
真鴉は舌打ちし、息を止める。
真鴉「……くそ、信じるぞ!」
引き金が引かれる。
火花が閃き、弾丸が空を裂いた。
弾丸が放たれた瞬間、水瀬の体がびくりと震えた。
空気を裂く一発――それを“掴み”、動かそうとする。
だが、あんな速度のものを操ったことなど一度もない。
水瀬「――くっ、う……!」
全身の血管が浮き上がる。
脳裏が焼けるように熱く、視界がぐにゃりと歪む。
それでも歯を食いしばり、力の限り“念”を放つ。
弾丸が、ほんのわずか――数センチ。
確かに軌道を逸れた。
真鴉「……動いた!? 今、確かに!」
水瀬は肩で息をしながら、額から汗を流す。
水瀬「はぁ……はぁっ……! も、もう少し……いける……!」
真鴉の声が、森のざわめきを裂いて届く。
真鴉「気道! てめぇの木の棒、何の力か分かんねぇが……あいつを倒す鍵かもしれねぇ! タイミングを見て、一気に叩き込め!」
その指示に、輝は半泣きで跳ね返すように叫んだ。
輝「はあ!? 俺があれの間合いに入れると思ってんのかよ! 無理だよ、だって俺――!」
だが真鴉の瞳は鋭い。水瀬の方を見ると、彼女はまだ呻きながらも額の汗を拭い、必死に念を練っている。
神宮寺が斬りかかる。しかし、刃は皮膚に弾かれ、切れない。刀を低く構え、神宮寺は妖怪の視線を自分へ引きつける。
神宮寺「早くしろ! 俺が持たねぇ! お前らを信用するのは不本意だが、今はどうでもいい! 何か策があるなら、早くしてくれ!」
水瀬「真鴉さん! 打つタイミングを言います! それまで待機で!」
真鴉「あぁ!」
輝が歯を食いしばり、震える手で木の棒を握りしめる。
次の瞬間――彼は狂ったように叫びながら駆け出した。
輝「うおおおおおおッ!!」
真鴉「おいバカ! 待て気道!!」
神宮寺と対峙していた妖怪の視線が、一瞬だけ輝に向く。
その刹那、妖怪の腕が唸りを上げて振り下ろされた――だが、奇跡のような軌道でそれを紙一重で回避する輝。
泥を蹴り上げ、一直線に踏み込む。
その目は恐怖に濁りながらも、確かに“覚悟”が宿っていた。
輝「これで……終われぇぇぇッ!!」
木の棒が妖怪の胸へ叩きつけられた瞬間――
ズドンッ、と鈍い破裂音が響く。
妖怪の胸部が内側から弾け飛び、黒い液体が雨のように散る。
その場にいた全員が一瞬、息を呑んだ。
妖怪は苦悶に満ちた叫びを上げ、身体をのたうたせる。
破裂の余波が収まると同時に、
水瀬が息を呑んだ。
水瀬「……見える……! あれ、胸の奥に……核!」
その言葉を聞いた瞬間、神宮寺の体が反応する。
地を蹴り、残像を残して妖怪の懐へ――。
神宮寺「今度こそ、仕留めるッ!!」
刀が風を裂き、まっすぐ核へと向かう。
だが、刃が届く寸前。
――ガシィッ!!
妖怪の腕が神宮寺の刀を掴み取った。
筋肉が蠢き、鉄のように硬化した掌が刃を押さえつける。
ギリギリギリ……ッ
鋼と骨が軋むような音が、耳を裂いた。
神宮寺の腕に力がこもる。
歯を食いしばりながら、低く唸る。
神宮寺「くっ……放せ……ッ!!」
妖怪の手から黒い煙が立ち昇り、刀身を侵食していく。
その黒が神宮寺の腕に迫る中、彼の視線は一点――
核から逸れなかった。
水瀬が、震える声で叫んだ。
水瀬「――今ですっ!!」
真鴉の指が即座に引き金を引く。
銃声が轟き、閃光の弾丸が空を裂いた。
同時に――水瀬の瞳が光る。
水瀬「……掴めたっ!」
声が震える。
そのまま彼女は息を詰め、全身の力を込めた。
水瀬「――ふんッ!!」
弾丸が軌道を変える。
音の壁を破り、神宮寺の刀に激突した瞬間――
バァンッ!!
衝撃波が走り、妖怪の手が弾け飛ぶ。
神宮寺の刀が自由を取り戻し、そのまま核へと一直線に突き刺さる――
誰もが、勝利を確信した。
だが次の瞬間。
ズズズ……ッ
妖怪の肉が蠢き、再生が始まる。
崩れた皮膚が渦を巻くように刀を包み込み、呑み込もうとした。
神宮寺「……なっ――!」
刀が消える――その瞬間、
神宮寺の瞳が燃え上がる。
神宮寺「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
雄叫びとともに、刀を握る腕に雷鳴のような力が走る。
妖怪と神宮寺の力が拮抗し、地面が裂けた。
神宮寺の内側から、何かが込み上げてくる――。
魂の奥底で燃え上がる“衝動”。
真鴉「……な、なんだ!?神宮寺が発火した!?」
その声と同時に、神宮寺の鼻から血が一筋垂れる。
胸の奥で青い光が灯り、まるで心臓が燃え始めたように揺らめいた。
次の瞬間――全身を青白い霊炎が包み込む。
スゥ――
一呼吸。森から音が消える。
葉擦れも、息遣いも、風すらも止まり、ただ静寂だけが支配する。
炎が膨らむ。
血管が浮き上がり、皮膚が裂け、血が滲む。
神宮寺の体が壊れかけている。それでも、構えは崩さない。
神宮寺「――霊装ッッ!《れいそう》滅閃・久遠」
空間が震えるほどの声で叫ぶ
次に見えたのは、妖怪の核をめがけて放たれる、一筋の蒼い閃光。
まるで流星のように、静かで、鋭く、美しい――。
そして――斬撃。
光と衝撃が森を裂き、青い炎が一瞬、夜を昼に変えた。
四人が初めて「本気で」背中を預けた戦いでした。
水瀬の判断、真鴉の射撃、輝の無謀、そして神宮寺の覚醒。
誰一人として完璧じゃないのに、噛み合った瞬間だけは奇跡のように強い。
そんな“チーム”を描きたかったんです。
そして、神宮寺が放った霊装。
これは彼にとって“力”じゃなく“罰”でもあります。
自分の体を削ってでも勝つ――それは誇りであり、呪いでもある。
輝が今後、どうこの姿を見て、どう変わっていくのか。
その答えは、きっと次の章で明らかになるでしょう。
次回33話ーー暁、揺らぐ影




