表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊業  作者: まんらび
2章
31/46

31話:以心伝心

闇夜に響く咆哮。

幾度倒しても立ち上がる異形の影。


それぞれが別の場所で戦ってきた四人――

神宮寺、真鴉、輝、水瀬。


偶然か、それとも運命か。

彼らの道は今、ひとつに交わる。


だが、共闘の始まりは、決して美しい連携ではなかった。

混乱、失敗、そして痛み。


それでも彼らは――

「誰かを救いたい」という思いだけで、再び立ち上がる。


集いし四人。

試されるのは力ではなく、連携だった。

【登場人物】

主人公:気道 輝

真鴉 隼

神宮寺 泰斗

水瀬 詩織

天城 朔夜

黒瀬 雷牙

妖怪が地面に崩れ落ち、ズゥゥン……と鈍い音を響かせた。

真鴉がスナイパーライフルを下ろし、肩で息をしながら呟く。


真鴉「……え、あっけな……?」


その声に神宮寺が眉をひそめ、冷たく言い放つ。


神宮寺「油断するな。――雑魚が。」


真鴉「え!? いいすぎ!いいすぎぃ!!」


緊張が抜け、輝がホッとしたように笑って妖怪の方を指差す。


輝「でも……動いてないよな?ほら、完全に――」


その瞬間だった。

妖怪の飛び散った血が、まるで意思を持つかのように地面を這い、亡骸へと集まっていく。


ズズズ……ッ!


輝「え、な、なんだこれ……!」


崩れた肉体が蠢き、黒い霧を吐きながら形を取り戻す。

裂けた口が再び開き、血のような液体を垂らしながら立ち上がった。


真鴉「う、うそだろ……!? まだ生きてんのかよ!」


神宮寺は刀を抜き直し、チッと舌を打つ。


神宮寺「言っただろ……“雑魚”ってな。」


真鴉「泣くぞ俺!?マジで泣くからな!?」


その間禍津学園では――。


校庭の一角に置かれた机の上で、湯気の立つティーカップが微かに揺れた。

天城が優雅に紅茶を口に運び、向かいに座る黒瀬兄弟がその様子を眺めている。


雷牙「……なあ、天城先生。

あんた、助けるって言ってたけど……最初から助ける気なんてなかったんじゃねえのか?」


天城は薄く笑い、カップをソーサーに戻した。

風に乗って金色の髪が揺れる。


天城「ふふ。――これくらいでへこたれてもらっては困るんだよ。

これから始まる“戦い”について来れないだろう?」


雷牙は短く息を吐き、遠くの空を見上げた。

その視線の先には、遥か遠くで揺れる黒煙。

そして――かすかに響く、戦いの音。


雷牙「……確かにな。」


ティーカップの底で、波紋がひとつ、静かに揺れた。


場面は再び戦場へ――。


吹き荒れる風、地を裂く衝撃波。

神宮寺の刀が閃き、真鴉の銃声が響き、水瀬の念動が空気を揺らす。


その中で――輝は。


輝「うわっ! ちょ、待てって!!」


地面を転がり、岩陰に飛び込み、ぎりぎりで妖怪の爪を避ける。

砂煙の中を走り抜けながら、必死に叫んだ。


輝「お前ら攻撃しすぎだってぇ! 俺が死ぬってぇ!!?」


神宮寺が短く吐き捨てる。

神宮寺「なら避けろ、巻き添えになるな。」


真鴉「ははっ、避け方のクセがすげぇな気道ォ! ダンスでもしてんのか!?」


輝「無駄口叩いてる場合か!!!」


水瀬は息を荒げながらも、周囲を冷静に見ていた。

彼女の瞳が細められる――輝の動き、真鴉の射線、神宮寺の間合い、すべてを読み取る。


水瀬(……次で決める。全員の動きを合わせて――!)


神宮寺が一歩踏み込み、妖怪の懐へと飛び込む。

刃が唸り、空気が裂けた。


水瀬はその光景を見つめながら、必死に次の手を考えていた。

どう動けばいい? どこで支える? どうすれば――。


その瞬間だった。


足元の根に引っかかり――


水瀬「きゃっ!!?」


派手に顔から転倒。

飛び散った泥が、真鴉の顔面を直撃した。


真鴉「うわっ!?目ぇ!目ぇぇぇ!!」


狙いが狂い、銃口がわずかに逸れる。

次の瞬間――


ドンッ!!


放たれた弾丸は、まったく違う方向へ。

弾丸の反動で真鴉の身体が吹き飛んだ。


真鴉「ってぇ!? あばばばばっ!!!」


――ドガァンッ!!


その勢いのまま、真鴉の体は後方の木に激突。

そこには運悪く、隠れていた輝がいた。


輝「ぐえっ!?!?!?」


真鴉「おまっ……なんでそんなとこに居んだよぉぉっ!!!」

輝「息、息できねぇ……!!」


もがく二人。

混乱の中、弾丸は偶然にも神宮寺の刀をかすめ――


カァンッ!!


金属音と共に刀が弾かれ、光を残して霧のように溶けて消えた。


神宮寺「……っ!」


その隙を逃さず、妖怪の腕が唸りを上げて振り下ろされる。

鋭い爪が神宮寺の肩を裂き、鮮血が飛んだ。


神宮寺「ぐっ……!!」


水瀬「神宮寺さんっ!!!」


真鴉「ま、待て……今のは……俺じゃ……いや俺だわ……」


輝「(息できねぇ……視界がチカチカする……)」


場の空気が一瞬凍りつく。

妖怪の咆哮が森を震わせる中、水瀬は震える手で立ち上がった。


水瀬(……私のせい、だ……!)


木の棒に体を預け、

まるで産まれたての子鹿のように震えながら立ち上がる輝。


その横で、真鴉は霧のような妖力から再びスナイパーライフルを創り出し、

それを杖代わりに地を支え、荒く息を吐く。


少し離れた場所――

神宮寺は血を流しながらも未だ立てず、刀の代わりに片膝を地につけ、

妖怪の動きをじっと見据えていた。


一方の水瀬は、震える指先で宙に浮かぶ小石を操り、

いつ飛びかかってくるか分からない化け物に対して、

辛うじて“間合い”を保つよう牽制を続けている。


――誰もが限界に近かった。

けれど、まだ終わらせるわけにはいかない。


硬直した戦場。


神宮寺「……チッ、足手まといが三人もいて勝てるかよ」


低く吐き捨てた声に、空気が凍る。

血を流しながらも刀を支えるその手は、怒りで震えていた。


真鴉「な、なんだよそれ……!」

神宮寺「俺が傷を負ったのはお前らのせいだ。

 狙いも定まらねぇ、立つこともままならねぇ……この程度で“戦い”だと?」


水瀬が言葉を詰まらせ、輝が思わず一歩下がる。


神宮寺「強くなる覚悟もねぇのに前に立つな。

 足を引っ張るくらいなら、最初からいらねぇ」


真鴉「テメェ……言いすぎだろ!」

神宮寺「事実だ。」


神宮寺の眼が静かに妖怪を見据える。

怒鳴りもせず、冷たい声で続けた。


神宮寺「俺は“守るため”に戦ってるわけじゃない。

 ただ――勝つために、斬るだけだ。」


静かに息を吐き、再び刀を構える神宮寺。

その背は仲間と共にあるはずなのに、どこか孤独で、絶望的に遠かった。


神宮寺「……っ、げほっ――」

血が唇から滴り、地面に落ちる。


輝「じ、神宮寺!? おい、大丈夫かよ!」

神宮寺「騒ぐな。鬱陶しい。」


そう吐き捨てると同時に、神宮寺は腰を低く落とし、刀を構えた。

足元の土を抉りながら、一瞬で妖怪との距離を詰める。


だが――

ギィンッ!


金属を叩くような音。

その刃は、妖怪の分厚い腕で止められた。


神宮寺「……ッ、チィ!」

妖怪の口が裂け、嘲笑うように声を上げる。

次の瞬間、その鋭い爪が弧を描いて神宮寺の頭を狙う――!


バキィッ!!


木が軋む音とともに、神宮寺の身体が横に弾かれた。

寸前のところで、巨大な丸太が彼を押し飛ばしていた。


神宮寺「ぐっ……!」

地面を転がりながら体勢を立て直す神宮寺。

息を荒げた水瀬が、手を突き出したまま叫ぶ。


水瀬「ご、ごめんなさいっ! 手荒でっ……でも、間に合ってよかった……!」


神宮寺は少しだけ驚いたように彼女を見たが、すぐに視線を妖怪へ戻す。

唇の端から血を拭いながら、ぼそりと呟いた。


神宮寺「……悪くねぇ判断だ。」


吐き捨てるように言いながらも、その声は微かに掠れていた。

刀を構え直そうとした瞬間――ぐらり、と視界が揺れる。


神宮寺「……っ!?」


目の前の景色が滲む。

地面が遠のき、光がチカチカと明滅する。

視界の端で、妖怪の輪郭が二重に見えた。


神宮寺(――なんだ、これは……)


脳裏に鈍い警鐘が鳴る。

息を――していない。


神宮寺「……酸欠、だと……?」


呼吸の仕方を、忘れていた。

極限の集中で、戦闘中ずっと息を止めていたのだ。


胸が焼けるように熱い。

酸素を求める身体が悲鳴を上げ、膝が崩れ落ちる。


水瀬「か、神宮寺!?」

真鴉「おい、マジかよ……!」


神宮寺は荒く息を吐き出しながら、ぐっと刀を地面に突き立てて体を支える。

歯を食いしばり、額に汗を滲ませた。


神宮寺「……クソ……俺としたことが……!」


その隙を狙い、妖怪がゆっくりと立ち上がる。

黒い霧が口から漏れ、再び戦場が動き出す――。


神宮寺の視界が、ゆっくりと白んでいく。

耳鳴りが遠くで響き、戦場の喧騒がまるで水の底の音のようにぼやけていった。


神宮寺(……俺は……何をしてる……)


ふと、脳裏に――ひどく懐かしい、いや、決して思い出したくなかった光景が蘇る。


――バチィンッ!


乾いた音が響く。

頬に鋭い痛み。視界が揺れる。


神宮寺の父親「……何度言わせる……情けない、情けない息子だな」


父の声。

低く、冷たい。


神宮寺の父親「お前みたいな出来損ないが、“神宮寺”を名乗るな」


バチィンッ!


再び平手が飛ぶ。

神宮寺は、小さな肩を震わせながらも――何も言わなかった。

ただ、立っていた。

涙も出ないほど、心はもう擦り切れていた。


神宮寺(……俺は、あの時……)


叩かれるたびに、何かを押し殺していった。

怒りも、悲しみも、弱さも。

すべてを閉じ込めることで、ようやく“強さ”を形にしていた。


神宮寺(……だからだ。仲間なんて、いらねぇ。弱さを見せた瞬間に、全部壊れる)


――パンッ。

遠くで爆ぜる音がして、現実が神宮寺を引き戻す。

呼吸が荒くなる。

身体は重い。視界の隅で、妖怪が大きく腕を振りかぶっていた。


神宮寺(……だが、俺はもう……叩かれて立つしか知らねぇんだよ)


神宮寺は血を吐きながら、再び刀を握り直した。


ふと、心の底の――

もうとうに捨てたはずの“優しさ”が、かすかに疼いた。


神宮寺(……あいつら、無事か)


気づけば視線が動いていた。

泥だらけで息を荒げる水瀬。

木にもたれ、スナイパーを杖に立ち上がろうとする真鴉。

青ざめた顔で息を整える輝。


全員、まだ――生きている。


たった二秒。

その一瞬だけ、神宮寺の刀先が緩んだ。


神宮寺「――ッ!」


気づいた時にはもう、妖怪の姿が視界いっぱいにあった。

裂けた口の奥で、真紅の光が爆ぜる。

巨大な腕が振り下ろされる寸前。

風圧が肌を切り裂く。


神宮寺の視界が霞む。血の味が口の中で広がり、世界の色が一瞬、刃物のように鋭くなる。膝の奥が冷たく抜けるようで、呼吸は浅く、指先の力が徐々に失われていった。


神宮寺「父様……」

神宮寺は、震える唇で告げるように呟いた。目を閉じ、心の中でひとりの男に語りかける――幼い頃に何度も叩かれ、認められようと手を伸ばし続けた父の名を。


神宮寺「期待には……応えられませんでした。だが、ここで果てるわけには──」


言葉はそこで途切れた。刃先の力を抜いた瞬間、神宮寺は確かな死の影を想い、静かに受け入れようとした。


――そのときだった。


輝「させるかぁぁぁぁ!!」


輝の声が、森を裂くように飛んだ。声は震えていたが、そこには揺るがぬ決意が宿っていた。真鴉も水瀬も、動きが一瞬止まる。だが、誰よりも早く体を動かしたのは――ただの木の棒しか作れない、身体能力もない、ただの人間のはずの輝だ


輝は、手にした木の棒をぎゅっと握りしめた。その小さな棒は、彼が生み出せる唯一の“武器”であり、今はただの木でしかない。


「行け!」


棒は、鋭い放物線を描いて飛んだ。血と土の匂い、時間の流れが一瞬遅くなったように感じられる。木の棒は、妖怪の腕の裂け目を目指して一直線に突き進む。


――ズガンッ。


木の棒が妖怪の腕に突き刺さった瞬間――。

一拍の沈黙。森全体の音が消えたかのように、空気が凍りつく。


パンッッ


木の棒が刺さった腕が弾ける


神宮寺「……っ!?」

神宮寺の瞳が細められた。妖怪の腕が、再生しない。


今まで何度切っても、焼いても、撃っても、瞬く間に修復していたあの肉体が――動かない。

裂けた箇所から黒い血が溢れるばかりで、あの不気味な再生がまるで止まっていた。


真鴉「おい……どういうことだ? 再生が――」

水瀬「止まってる……? でもなんで……」


妖怪の断末魔のような絶叫が、森に木霊する。

それは“破裂”の連鎖。腕、胸、肩――次々と弾け飛んでいく。

まるで、木の棒が何か“起点”となり、再生を拒絶しているようだった。


輝はその場に膝をついて手を眺めながら呟く

輝「俺……ただの木の棒を作ってたんじゃ、なかったのか……?」


指先が震える。


真鴉「おい輝……お前、今の……」

輝「わかんねぇ……俺、ただ……“守りたい”って思っただけで……!」



神宮寺は刀を支えに立ち上がり、呟く。

神宮寺「道筋は見えたようだな」


その瞬間水瀬の瞳が、一瞬だけ何かを捉えた。

妖怪の弾けた胸の奥――。

黒く光る、何か。

心臓のようにも、宝玉のようにも見える。

それは“脈動”していた。生きているように。


水瀬「――胸部だ!!胸の奥に、何かがある!!」

その叫びに、全員の視線が一点に集まる。


真鴉「……マジかよ、あれが弱点ってやつか?」

神宮寺「……弱点かどうかはわからん。だが、確かに“中心”だ。」


妖怪の身体が震えた。

血と肉が溶け、骨が軋み、内側から異様な圧力が膨れ上がる。


水瀬「な、なに……!?」


ドクン――ドクン――


全身が脈打つたび、体表が泡立ち、皮膚が剥がれていく。

そして――それは、卵のような姿に変わっていった。


真鴉「おいおい……まさか、これが“本体”ってやつかよ……」

神宮寺「……いや、これは――“再誕”だ。」


パキ……パキパキ……ッ。


卵のような外殻に、細かなヒビが走る。

黒い液体が溢れ、地面を焼くように煙を立てた。


水瀬「……また、再生してる……?」

神宮寺「違う、あれは――」


バキィィィン!!


殻が破裂した。

中から姿を現したのは、先ほどまでの“妖怪”とはまるで別物。

腕や脚の形は人間に近い。だが――皮膚の下で脈動する黒い筋、

背中から生えた何十本もの“管”が地面に突き刺さっている。


真鴉「うわ……なにこれ、気持ちわりぃ……」

輝「……人型、になってる?」


それは、まるで“人間を模した失敗作”のようだった。

顔の半分が爛れ、目は無数に増え、口元は微笑を浮かべたまま固定されている。


神宮寺が刀を構える。

神宮寺「……あれが本性か。厄介だな。」


妖怪――いや、“それ”は、一歩踏み出すたびに地が震える。

地面を這う管が蠢き、周囲の木々を吸い枯らしていく。

まるで生きたまま森を喰らっているようだ。


真鴉「……っ、妖力が跳ね上がってる。今までの比じゃねぇ!」

水瀬「みんな……! 下がって!」


瞬間、妖怪の口から“音のない咆哮”が放たれた。

空気が歪む。地が裂け、全員の足元に影が伸びる。


神宮寺「……来るぞッ!!!」

闇の森で、ようやく四人が一堂に会した。

ここまでの道のりはそれぞれに孤独で、痛みと喪失ばかりだった。

けれど、ようやく彼らは“繋がった”。

強さだけでは届かない戦場で、

絆がほんの一瞬、光を放った瞬間でもあった。


――神宮寺の誇りと責務。

――真鴉の皮肉混じりの信頼。

――水瀬の恐怖を越えた勇気。

――そして、輝の“守りたい”という純粋な願い。


この戦いで何かが確かに変わり始めた。

それは「勝利」ではなく、「目覚め」。

まだ道は続く。

けれど、この瞬間、四人の物語はようやく“同じ頁”に書かれたのだ。


次回32話ーー連携

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ