3話:学校の七不思議
初任務をなんとか乗り越えた輝に、次なる舞台が用意される。
今度の現場は、なんと学校――。
そこでは「七不思議」が囁かれており、最近になって生徒の間で妙な現象が頻発しているという。
霊の仕業か、それともただの噂か?
輝の試練はまだまだ始まったばかりだ!
【登場人物】
主人公:気道 輝
手の霊
肖像画の霊
謎の妖怪
「ここが問題の学校か……」
『懐かしい〜、生前の時以来だ〜』
“不死の塔”での初陣を終えた、輝と、手の霊が次に降り立ったのは、《鴉小学校》だった。
「小学校の校庭ってこんなに狭かったっけ」
『体がでかくなったからでしょ、小学生のときより』
「そうだな、ははっ」
笑い合いながら、校内へと足を踏み入れる。しかし、学校という霊の巣窟にしては異様なほど静かだった。
「学校って、霊が溜まりやすい場所のはずなのに、下級霊一匹すらいないっておかしくないか?」
『たしかに……こういうとこって、だいたいゴロゴロいるはずなのにね』
張り詰めた空気。妙な静けさが肌を刺す。
「夜の学校って、こんなに怖かったか……?」
『だ、大丈夫……大丈夫よ……』ブルブル
「お前、霊なのに怖いのかよ」
『霊なのに、は関係ないでしょ!』ブルブル
談笑で恐怖を紛らわせながら、奥へと進む。
――そのとき。
ジャン!
「うわっ!びっくりした……!」
音楽室から、突然ピアノの音が鳴り響いた。
『ピアノの音?』
「行ってみよう」
恐る恐るドアを開けると、そこには虚ろな目でピアノを弾く、霊が座っていた。
「やっといた。この学校で最初の霊だぞ……」
『この霊……消滅しかけてるね』
「みたいだな。……ほっといてやるか」
輝と手の霊は静かに音楽室を後にする。――だが、その瞬間。
ズンッ
「ッ……! この感覚、塔のときと同じだ……!」
「まさか……老婆の霊並の力を持つ化け物が、ここにも……!?」
「……行くぞ」
『い、行くの?』
「あぁ。当たり前だろ?」
廊下の奥、強い妖力がうごめく方へ向かって進んでいく。
すると――
ムシャ…ゴリッ……
下級霊「あっ……あっ……たすけ……て……」
ゴクンッ……
現れたのは、ドロドロと溶けたような見た目の化け物。顔も体も判別できない。だが、4本の脚だけが異様に目立っていた。
「……マジか。こいつも、霊を喰ってやがる……」
『おかしい……霊や妖怪同士の共喰いは、“禁句”のはず……』
「禁句?」
『うん。吸収しようとしても、頭にノイズが走って“食べられない”ようになってる。それなのに……』
「不死の塔でもいたよな...?こんな頻度で出会うなんて……異常だな」
グルンッ
「くそっ!見つかった!」
バタバタッ!
「速い!!」
輝と手の霊は全力で逃げ出す。だが――
「待って!手の霊、ここ行き止まりだ!」
『嘘っ!まだ着いてきてるよ!?』
完全に追いつかれた。
『あそこ、音楽室よ!』
「手の霊、先に行って開けてくれ!」
『了解!』
「間に合えっ……!」
ドタッ バタンッ!
「はぁ、はぁ……」
ダンダンダンッ!!
「うわっ……!」
食霊が、ドアをぶち壊す勢いで叩いている。
『無事!?』
「あぁ……ありがとう、助かったよ……」
そのとき、音楽室にいた霊がピクリと反応した。
「……動いた?」
『動いたね……』
「あの……!ここにいたら“食べられちゃう”んで、一緒に逃げましょう!」
しかし、霊に反応はなかった。
バンッ!!
扉が破壊され、凶暴な妖怪が突進してきた――!
スッ……ドゴォッ!!
「ぐっ……フッ!!」
輝は妖怪の攻撃を受け、天井を突き抜け上の階へ吹き飛ばされる。
バンッ!!
「ぐっはぁ……体が……動かねぇ……」
床の穴から、妖怪がゆっくりと現れる。
そして、咆哮――
「グオオオォァァァ!!!」
「っぐ……うるせぇ……ッ!!」
逃げ場がない。追い詰められたそのとき、窓が割れた。
パリーンッ!
「……うわっ!!」
手の霊が輝の首元を掴み、窓の外へ放り投げた。
窓枠に辛うじて手をかけ、輝は命を繋いだ。
「ありがとう、手の霊……マジで死にかけた……」
『いいってば!』
だが、天井の穴から再び――
ドシンッ!!
食霊が落ちてきた。
「状況は変わんねぇか……」
そのとき、師匠の声が脳裏に蘇る。
「輝……お主の呪霊操術の才。儂が作った“言霊”という術で限界まで引き伸ばすのじゃ。
やり方は簡単。霊に“名前”を付けてやるのじゃ。
そうすれば、輝の霊力と引き換えに、名を授けられた霊は力を手に入れる……」
――そう、これは禁術。
だが、今はそれどころじゃない。
「やるしかねぇ……音楽室の霊に、名前を付ける!」
『名前!? 本気なの!?』
「知ってる……禁術なんだろ? でも今は気にしてられない。俺の力で、手の霊も、音楽室の霊も――俺自身も、守る!!」
音楽室の霊の周囲がピリピリと揺れ、空気が歪み始める。
「分かってるぞ……ここはお前の縄張りなんだよな。だったら、俺に力を貸してくれ……」
「音楽室の霊……いや、お前の名前は――」
「ベートーヴェンだ!!」
今回も読んでくれてありがとう!
学園に潜む“七不思議”はただの噂じゃなかった――。
初任務に続き、輝はまたしても霊と対峙し、少しずつ霊能者として成長していく。
そして、謎多き“手の霊”との関係も深まっていく中で、彼の運命の歯車は確実に回り始めている……。
次回:第4話「復活の交響曲」
お楽しみに!