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霊業  作者: まんらび
2章
28/47

28話:無理難題

一年生たちに課された、初めての授業。

しかしそれは座学でも、準備運動でもなかった。

――いきなり「実戦」。


具現化すら満足にできない輝をはじめ、まだ右も左も分からない新入生たちに下された課題は、呪霊や妖怪の跋扈する森へと足を踏み入れ、己の力を試せというものだった。


教師・天城朔夜は言う。

「いざとなれば教師陣が助けますが、決して気は抜かないでください」


果たしてこの無理難題に、生徒たちはどう挑むのか――。

【登場人物】

主人公:気道 輝

真鴉 隼

森の奥は昼間だというのに薄暗く、湿った空気がまとわりつく。

木々のざわめきの中に、低いうなり声が混じっていた。


輝「……うわ、マジで出そうな雰囲気してんな……」


背筋に冷たいものが走る。

校庭で天城が告げた言葉が、頭の中で繰り返された。


天城『この森は霊や妖怪が跋扈しています。いざとなれば教師陣が助けますが――決して気は抜かないでください』


輝「……助けてくれるって言ってもなぁ……できれば助けられない側でいたいんだけど……」


笑おうとしても、喉の奥が乾いて声がかすれる。

そんな中、木の影から何かが“じりっ”と動いた。


輝「っ……!」


反射的に、具現化した木の棒を構える。

その頼りない棒は、まだ“武器”と呼ぶにはあまりに心もとない。


葉の揺れる音にさえ心臓が跳ねる。

そんな時――茂みの奥で“ガサッ”と音がした。


輝「うわっ!? き、来たか!?」


息を呑み、棒を構えて身を引く。

だが次の瞬間、飛び出してきたのは――小さなリスだった。


リス「……チチッ」

輝「……お、お前かぁ……」


心臓を押さえながら、へなへなと膝をつく。

リスは興味なさそうに去っていった。


輝「ははっ……なんだよ、ビビらせやがって……」


安堵の息をついた後、自分の胸を叩く。


輝「いや、だめだ! ビビってたら成長できねぇ! しっかりしろ、俺!」


気合を入れ直し、胸を張って歩き出す。

――が、十歩も進まないうちに、また“バキッ”と木の枝が折れる音。


輝「ひっ……!」


体が反射的に固まり、目だけが音の方向を追う。

緊張で喉が鳴る。

さっきまで胸を張っていた姿勢は、すでに影も形もない。


輝「……あの……できれば、小動物であってくれますように……」


誰にともなく祈りながら、棒を震える手で構える


ピカッ...


輝「……あれ、光?」


少し離れた茂みの向こう――木々の隙間から、淡い光が揺れていた。

暗い森の中では、それが希望の灯のように見える。


輝「よかった……誰かいるんだ!」


胸が弾む。思わず足を速め、木々をかき分けて駆け出した。

だが――数歩進んだところで、違和感が背筋を走る。


(……おかしい。あれは...人か...?)


息を潜め、そっと木の影に身を潜める。

視線の先――そこに“それ”はいた。


月光を浴び、人間のような輪郭を持つ“何か”。

しかし、よく見ればその皮膚の下が異様に蠢いている。


――ズルリ。


目から、細く白い“手”が這い出した。

鼻の穴からも、耳の奥からも、無数の手が突き破るように伸びる。

まるで人間の形を“装っている”だけの、異形の存在。


輝「(……な、なんだよ……あれ……!)」


息を殺す。

心臓が暴れる。

足が勝手に後ずさる。


異形の化け物は、ゆっくりと首を傾けながら、森の奥へと歩き出した。

まるで“人間のふり”を続けようとでもするかのように。


輝(……気づかれてない……今のうちに、逃げ――)


小枝が、パキッと鳴った。


輝「……っ!!」


ピクリ――


耳が、不気味に動いた。

まるで何かを“聞き取った”かのように。


次の瞬間、耳の奥から伸びていた白い“手”が、ぎしぎしと蠢きながら――ゆっくりと輝の方を指差した。


輝「……っ!」


その仕草に、血の気が一瞬で引く。


化け物の首が、ぎこちなく回転する。

骨が軋む音が森に響き――

やがて、完全に輝の方へと顔を向けた。


目も鼻も、口も、手に覆われた“顔”。

それが、にたりと形を歪める。


――見つかった。


輝「うそだろ……っ」


理性よりも先に体が動いた。

全力で地を蹴り、枝を掻き分けて駆け出す。

息が荒くなるのも構わず、ただ走る。


後ろでは、異様な“蠢き”の音が追いかけてくる。


ズルズル、ベキベキッ……。


化け物が木々の間を突き破りながら迫ってきていた。

体中から伸びた無数の“手”が、地面を掴み、幹を押し退け、まるでそれを“歩くための脚”のように使っている。


その動きはおぞましいほど滑らかで、まるで何度も人を追い殺してきた“慣れ”のある動きだった。


輝「なんだよあれぇぇぇぇぇぇ!!」


木々の間をすり抜けながら、必死に逃げ続ける。

背後では、枝が折れる音と共に、確実に距離が詰まっていた――。


森の奥――。


輝の逃げる方向、その少し先にそびえ立つ大木が、一瞬だけ“きらり”と光を放った。


しかし、輝はそれに気づかない。

ただ背後から迫る異形の足音に怯え、息を切らしながら走り続ける。


輝「――はぁっ、はぁっ、もう無理、足が――!」


枝葉が顔に当たり、腕に無数の切り傷ができても止まれなかった。

必死に視界を前へと向ける。


その先に、一本の倒木が横たわっていた。


輝「と、飛び越え――っ!」


地面を蹴り、体を浮かせる。

だが、焦りと疲労で踏み切りが甘い。


――ドサッ。


足先が引っかかり、派手に転倒した。

地面を転がり、枯葉と土を巻き上げながらうつ伏せに倒れ込む。


輝「いってぇ……っ、やべ……!」


背後からは、ズルズルと這うような音が近づいてくる。

“それ”はもう、すぐそこまで迫っていた。


森の奥、大木の隙間から、何かがじっと輝の方を見つめていた。

その視線は冷たく、獲物を観察するような静けさを持っている。

月の光が葉の隙間を抜け、その存在の輪郭を一瞬だけ照らす――

だが、形までは見えない。


ただ、**“見られている”**という感覚だけが、確かにそこにあった。


輝は背を地面に擦りつけながら、必死に後退りしていた。

手の中には、あの頼りない木の棒。

震える腕でそれを振り回す。


輝「く、くるなぁっ! 来るなって!!!」


空を切る棒の音が、森に虚しく響く。

化け物はその動きを面白がるように、ぐにゃりと体を歪ませ、

その無数の手を地面に突き立てながら――じりじりと距離を詰めている。


化け物の口が、にたりと裂ける。

無数の手が地面を掴み、筋肉がうねる音が響く。


輝「う、うわあああああっ!!」


振り上げられた手の群れが、まるで巨大な槍のように輝へと迫る――


輝は、反射的に目をぎゅっとつぶった。

逃げ場も、助けも、ない。

次の瞬間――


森の静寂の中。

大木の上で、誰かが深く息を吐いた。


???「はぁ……まったく。」


風が枝葉を揺らし、月光がその横顔を照らす。

その人物は、妖力で漆黒のスナイパーライフルを作り出した。


カチャ――。

冷たい金属音が夜に響く。


???「あいつ……腰抜かしてんじゃねえかよ。」


わずかに口元を緩め、

スコープ越しに化け物へと照準を合わせる。


指が引き金にかかる。


パンッ――!


乾いた銃声が森に鳴り響いた。

弾丸が閃光のように闇を裂き、

化け物の頭部を正確に撃ち抜く。


――その瞬間、

輝の目の前で、化け物の体が吹き飛んだ


爆ぜた化け物の肉片が、淡い光となって霧散していく。

輝は、何が起こったのか理解できずに立ち尽くした。

耳鳴りの残る中、胸の鼓動だけがやけにうるさい。


輝「な、なんだ……今の……攻撃……?」


焦げた地面。

その中心には、ひと筋の光――弾道の痕跡。


輝の瞳が、ハッと見開かれる。


輝「この……攻撃は……!」


一拍の沈黙。

そして、驚愕と喜びが入り混じった声が夜に響いた。


輝「――真鴉!!!」


振り向いたその先、

森の木々の上で、夜風を受けながら黒い影がゆっくりと立ち上がる。


月を背に、無言のまま見下ろすその姿。


輝「……やっぱり、来てたんだな……!」


胸の奥で、張り詰めていた何かが一気にほどける。


霧のように淡くスナイパーライフルが消えていく。

真鴉は枝から飛び降り、輝の目の前に着地した。


輝「……っ!」


真鴉は右手を差し出す。


真鴉「――立て。行くぞ。」


短く、それだけ。

だが、その声音には確かな温もりと冷静さが同居していた。


輝は一瞬呆けたようにその顔を見つめ――次の瞬間、ぐっとその手を掴んだ。


輝「……真鴉! 本当に……!」


言葉の続きを口にする前に、真鴉は静かに背を向ける。


真鴉「話は後。……今は、生き延びることだけ考えろ。」


森の奥で再び何かが蠢く音が響き、緊張が戻る。

輝は唾を飲み込み、真鴉の背中を追って駆け出した。

真鴉、再登場。

輝にとって真鴉は、頼れる仲間であり、同時に“超えなければならない壁”でもある。

恐怖の中で助けられた今回の一件は、彼の精神的な限界と未熟さを象徴しています。

しかし、この瞬間の絶望と救済が、後々の“本当の強さ”へ繋がっていく――そんな伏線回です。


そして、次回は一気に物語が加速します。

「一限目」はまだ終わりではありません。

天城が裏で仕掛けていた“ある選別”が、輝たちを新たな地獄へ導くことになるでしょう。


次回29話ーー揺らぐ信念

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