27話:過酷すぎる一限目
ついに輝たちは、禍津学園という未知の舞台に足を踏み入れる。
これまでの試練とは異なり、ここでは日常と非日常が入り混じった環境が彼らを待ち受ける。友や仲間の存在に支えられながらも、初めて直面する現実――学園内部での一限目は、予想以上に過酷なものとなるだろう。
今回の話では、ただ単に授業や教室の描写に留まらず、環境の異質さや生徒たちの緊張感、そして輝自身の心の揺れを丁寧に描くことで、読者に“ここがただの学園ではない”という感覚を体感させたい。
覚悟を決め、心身を整えて臨む輝たち。しかし、学園は彼らに容赦なく試練を突きつける。
さあ、過酷な一限目――物語の新たな章が始まる。
【登場人物】
主人公:気道 輝
神宮寺 泰斗
水瀬 詩織
天城 朔夜
黒瀬 雷牙
黒瀬 翠馬
眩い光が消え、目を開けた瞬間、輝は見覚えのある禍津学園の校舎を目の前にした。胸が高鳴り、自然と笑みがこぼれる。
輝「着いたぞ、禍津学園!」
喜びに浮かれ、肩に乗っていたはずのパドと女郎蜘蛛を見渡す。しかし、周囲を見ても二人の気配はない。
輝「……あれ?パド?女郎蜘蛛?」
焦りが胸を締め付ける。大声を出そうかと思ったが、周囲に人影がなく、静まり返った森に自分の声だけが響いた。
輝「……やっぱり、俺だけ転移されたのかぁ……」
肩を落とし、少し膝を曲げて呆然と立ち尽くす。喜びと期待は一瞬で消え、代わりに孤独と不安がじわじわと心を覆っていった。
輝「うぅ……どうしよう…、二人は…ちゃんと…」
周囲の景色を見渡しても、仲間の姿はなく、輝はしばし校門の前で、静かに頭を抱えた。
輝が肩を落として校門前に立ち尽くしていると、背後から柔らかな光が差し込み始めた。
次第に光は強まり、森の奥から続々と新入生たちの姿が現れる。
同時に神宮寺も到着し輝を見るや否や一言投げつける
神宮寺「棄権しなかったのか……」
軽く首を振り、どこか呆れたように、目線をそらす...
輝「悪いな!俺も学びたい事があるんでな!」
その時校門の前にに音もなく教師が現れた
教師「皆様...改めて入学おめでとうございます...私の名前は天城 朔夜 (あましろさくや)です。貴方1年生の担任を担当させて頂きますので以後お見知り置きを...」
神宮寺「戯言はいい入学者は全員揃っているのか?」
天城「揃っております」
輝「え!?真鴉いないんだけど!」
天城「真鴉さんは...」
話す前に神宮寺が話を遮る
神宮寺「棄権したんだろ弱い奴がいたところで無駄死になんだ...どうだ?お前も帰った方がいいんじゃないか?」
輝「そんな...真鴉...」
天城「いいですか?続き話させてもらいます...再集合の日にちは3日後とお伝えさせていただいたのですがこちらの諸事情により1日早めさせていただきました。」
天城が少し間を起き再度話し始める
天城「荷物など忘れ物があれば、遠慮なく申し出てください。こちらで必要な物は全て用意いたします」
そう言って天城は軽く手を叩いた。すると校門が開き、校舎の中へと道が広がっていく。
天城「では皆さん、私についてきてください。まずは教室へご案内いたします」
新入生たちがざわめきながらぞろぞろと歩き出す。輝もその流れに混じり、胸の奥のざわつきを抱えたまま、校舎へ足を踏み入れた。
――重厚な扉を抜け、長い廊下を進むと、やがて一室の前で天城が立ち止まった。
天城「ここが皆さんの教室です。どうぞ、入って席に着いてください」
扉が開かれると、まだ新しい教室が広がっていた。窓から差し込む光が机を照らし、緊張と期待の入り混じった空気が流れている。
輝は天城に促され、前から二列目の窓際に腰を下ろす。
その隣には神宮寺がどっかりと座り、腕を組んだまま目を閉じていた。
輝「……(なんでこの人が隣なんだよぉ)」
内心で頭を抱える輝。その後ろの席には、水瀬が静かに腰を下ろしていた。彼女は一言も発せず、じっと窓の外を見つめている。
天城「座りましたね。では改めて――これからの1年生の間、あなた方はこの教室を拠点として過ごすことになります。互いをよく観察し、助け合い、時には競い合いなさい」
輝は窓から差し込む光をぼんやり見ながら、心の奥でぽっかり空いた穴を感じていた。
――真鴉がいない、その現実がどうしても胸を重くする。
天城「それでは、一限目を始めます」
教室中にざわめきが走る。
生徒たち「「えっ!?もう!?」」
輝「ちょ、ちょっと待ってください!心の準備ってものが……!」
神宮寺「騒がしい奴だな。授業が始まるなら黙って受けろ」
天城「場所は……ここでは狭いですね。校庭に出ましょうか」
いきなりの提案に、生徒たちの間にざわめきが広がる。
椅子を鳴らして立ち上がった神宮寺が、舌打ち混じりに声を上げた。
神宮寺「……二度手間だな。最初から外にいればいいものを...」
天城「実践の前に、皆様の顔と席順を確認しておきたかっただけです。それでは――参りましょう」
天城に導かれ、一年生たちはぞろぞろと校庭へと出る。
広々とした空間に集められ、全員が並んだところで、天城は歩みを止めた。
天城「第一回目の授業は――“戦闘用具の具現化”。そして“武器解釈を広げる”ことを実技を通して覚えてもらいます」
その言葉に、生徒たちは再びざわつく。
まだ自己紹介も済ませていない者もいる中で、いきなり実技だというのだ。
天城は一歩前に進み、右手をゆっくりと掲げた。
瞬間、淡い光が集まり――刀が現れる。
天城「――具現化とは自身の妖力で、己の想いを形にする技術です。刀は斬るだけではなく、守りにも使える。盾と解釈すれば、その姿も変わる。解釈が広ければ広いほど、戦場での生存率も高まるのです」
彼の刀は形を変え、やがて鎖となり、そして扇へと姿を変えた。
まるで粘土をこねるように自在に変化する光景に、生徒たちは思わず息を呑む。
天城「――では、皆様もやってみてください」
それぞれが意識を集中させ、光を生み出そうと試みる。
神宮寺はわずかな時間で刀を具現化した。
天城「流石ですね神宮寺様...」
神宮寺「普段から使ってるからな...当たり前だ」
水瀬は戸惑いながらも、きらめく光の盾を形作る。
水瀬「で...できた!」
そして――輝は。
輝「……でろっ……出ろってば……!」
光の粒子は現れるものの、すぐに霧散してしまい、武器の形にはならない。
焦れば焦るほど、光は薄れていくばかりだった。
神宮寺「……ふん。」
天城「落ち着いてください、気道さん。力む必要はありません。己の中にある“武器の形”を、ただ素直に思い描けばいいのです」
その声に背中を押され、輝は深呼吸する。
光の粒子が揺らぎ――やがて手の中に、一本の木の棒が現れた。
輝「……! で、出た……!? 本当に出せた!」
輝が喜んだのも束の間、周囲から笑いが漏れる。
「棒? あれで戦うのかよ……」
「貧弱すぎんだろ……」
天城はすぐさま片手を上げて生徒たちを制した。
天城「静粛に。――よく聞いてください。具現化は、その人の“妖力の量”と“解釈の広さ”によって大きく左右されます」
一歩前に進み、生徒たちを見渡す。
天城「妖力が強ければ強いほど、具現化した武器の強度は増す。ですが、それだけでは片手落ちです。真に重要なのは“解釈”――すなわち、武器に対する理解の深さです」
天城は自ら具現化した刀を掲げた。
天城「例えば刀。刀身が何で出来ているか? 打ち方、折れにくさ、切れ味を決める構造……解釈を広げれば広げるほど、その刀は現実以上の性能を発揮する。逆に、曖昧な想像では脆く、すぐ砕ける」
言葉に合わせて刀はきらめき、やがて形を変えてゆく。鋼の刀身が黒曜石へ、次は炎を帯びる刃へ――解釈次第で自在に変わる様を見せつける。
天城「――棒も同じことです。単なる棒に見えるかもしれない。だが、材質は? 樹齢千年の霊木かもしれないし、妖力を帯びた神樹かもしれない。解釈一つで、折れやすい木切れにも、不壊の神器にもなるのです」
その言葉に、生徒たちは再び息を呑んだ。
さっきまで笑われていた輝も、思わず木の棒を見つめ直す。
天城「覚えておきなさい。解釈の広さは、生存率そのものです」
(ざわ……)
周囲の生徒たちがざわつき始める。
「まさか……あいつの棒、実はすごいんじゃ……?」
「神器級の霊木とか……?」
期待の視線が一斉に輝に注がれる。
輝「え? え、え? そ、そんなことある……?」
おそるおそる自分の棒を見下ろす輝。
そして周囲の空気に押されるように――
輝「……よし!」
(地面に叩きつける!)
――パキィン!
棒はあっけなく折れた。
輝「……え?」
(しん……と静まり返る)
「……」
「……普通に折れたな」
神宮寺「……くだらん」
(鼻で笑い、そっぽを向く)
輝「いや、ちょ、待って!? 今のは……! ほら! もっと本気出せば!」
(折れた棒の先を慌てて拾い上げる)
天城「……まあ、最初はそんなものです」
(咳払いひとつして空気を立て直す)
天城「形がどうであれ、それは彼の力が形を結んだ証。笑うものではありません……さて、ここからが本番です」
生徒たちの視線が天城に集中する。
彼は静かに森の方を指差した。
天城「実践授業に移りましょう。試験でも使ったこの森――覚えていますね?」
生徒たちの表情に緊張が走る。
天城「この森はただの緑地ではありません。霊や妖怪が跋扈する危険な場所です。
……気を抜けば、命を落とすこともあるでしょう」
張り詰めた空気が一気に広がる。
輝は再度作り出した木の棒を握りしめ、不安げにごくりと喉を鳴らした。
天城「――いざとなれば、我々教師陣が助けます。ですが、決して気を抜かないでください」
その声は静かでありながら、胸の奥にずしりと響いた。
淡々とした言い回しに、逆に危機感が強調される。
天城「それでは……どうぞ。霊、妖怪、いずれかを倒せた者から一限目は終了です」
生徒たち「……はっ!?」
一瞬、全員の表情が凍りつく。
実技初日から“本物”を相手にするなど誰も想像していなかったのだ。
神宮寺「……面倒だな。だが、まぁ俺ならすぐ終わる」
肩をすくめつつも、瞳の奥には獲物を前にした猛禽のような光。
水瀬は顔を青ざめさせ、小さく唇を噛みしめる。
水瀬「う、うそでしょ……、いきなり戦うなんて……」
ざわざわと生徒たちが動揺を隠せないまま、それでも教師の目の前で退くこともできず、ぞろぞろと森の奥へ足を踏み入れていく。
草を踏む音が重なり、緊張が伝染していく。
鳥の声すら消え、ただ風に揺れる木々の音だけが響いた。
輝は木の棒を握りしめ、深呼吸を繰り返す。
不安、焦り、恐怖――しかし同時に、心の奥で確かに燃えるものがあった。
輝(……やるしかない!)
生徒たちが次々と森へ消えていき、校庭には天城一人が残された。
静かな風が吹き抜ける。
その背後から、足音が二つ近づいてきた。
???「……天城先生。今回、生き残りそうな奴……いそうなのか?」
ぞんざいな口調。からかうようでありながら、そこには残酷な現実を見透かす冷ややかさが混じっていた。
???「兄ちゃん……そういうの不謹慎だよ」
震えた声で諭すもう一人。わずかに眉をひそめ、兄と思しき人物を牽制する。
天城は振り返り、口元に薄い笑みを浮かべた。
天城「おや……見ていたんですか。雷牙さん、翠馬さん」
二人は二年生――既に死線を生き延びてきた実力者たち。
雷牙は鋭い眼光を光らせ、口元に嘲笑を浮かべる。
翠馬はどこか静かで、落ち着いた眼差しで森を見つめていた。
雷牙「フン……どうせ半分も残れねぇだろ。」
翠馬「兄ちゃん……そういう言い方はやめろって」
天城は二人を交互に見やり、再び森へ視線を戻した。
天城「……さて。果たして“今期”はどうでしょうね」
いよいよ禍津学園での授業が始まりました。
一限目からいきなり「森での実践」という、命がけの内容。輝はまだ武器の具現化すらまともにできず、他の生徒たちとの差を思い知らされることになります。
また、ここで入学試験編の序盤に登場した 雷牙・翠馬兄弟 が再登場しました。
彼らは二年生として、既に一年間を生き抜いている先輩たち。雷牙の好戦的な性格と、翠馬の抑え役という関係性は健在です。二人の存在が、輝や一年生たちにどのような影響を与えていくのか――今後の展開で描いていきます。
次回は、いよいよ森の中での実践バトル。
輝は果たして無事に「倒す」という課題を達成できるのか、それとも――。
次回28話ーー無理難題




