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霊業  作者: まんらび
2章
26/46

26話:準備

日常は、何事もなく流れていくように見える。

だがその裏で、確実に影は蠢き、迫りつつあった。


輝にとっては、ただの朝。

いつも通りの通学路、いつも通りの友の声、いつも通りの学校生活――。


しかし、それは“嵐の前の静けさ”に過ぎない。

【登場人物】

主人公:気道 輝

神田 大輝

パド

女郎蜘蛛

五十嵐 三郎

教室の窓から、傾いた陽射しが差し込んでいた。

授業を終えたクラスメイトたちが次々と荷物をまとめ、笑い声を残して下校していく。


神田が椅子を引き、隣の輝に声をかけた。

神田「――じゃ、行くか!」

輝「おう」


二人は鞄を肩に掛け、廊下を並んで歩き出す。

他愛もない会話を交わしながら校門を抜けると、ちょうど停留所にバスが滑り込んでくるところだった。


小走りで駆け寄り、バスに乗り込む。

シートに腰を落ち着けると、窓の外には学園が小さく遠ざかっていく。


神田は少し息を整えながら、輝に目をやった。

神田「なんか今日の輝ちょっと元気戻った感じする」

窓の景色を眺めていた輝が神田の方を向く

そして小さく笑みを浮かべる。

輝「まぁね」


揺れるバスは、ゆっくりと病院のある街並みへと向かっていった。


病院に着いた二人は、受付を済ませて廊下を進んでいく。

白い壁に、消毒液の匂いが染みついている。


足音が響くたびに、ひやりとした気配が背筋を撫でた。

輝は視線を逸らしながら、小さく心の中でぼやく。


輝(……やっぱり病院は、霊が多いな)


肩越しに振り返ると、神田は何も気づいていない様子で前を歩いている。

それがかえって、輝の胸に重く沈む。


やがて、二人は目的の病室の前に辿り着いた。

扉の前で立ち止まり、輝は小さく息を吸う。


扉を開けると、薄暗い病室の中で佐山が静かに横たわっていた。

窓から差し込む光に照らされても、その目は虚空を見つめたまま動かない。


神田は一瞬だけ言葉を失ったが、すぐに気を取り直し、明るく声をかけた。

神田「よっ、佐山!来たぞ!」


返事はない。ただ規則的な呼吸の音が微かに聞こえるだけだ。


輝はベッド脇に腰を下ろし、持ってきた小さな袋を置いた。

輝「……差し入れ、持ってきた。前に好きだって言ってたプリン。」


神田も袋を机に置き、笑いながら続ける。

神田「ほら、こっちはお前の好きだったポロポロコミックだ。最新号、ちゃんと買ってきたからな」


二人の声が、病室に静かに響く。

佐山の瞳に反応はない。それでも、話し続けることに意味があると信じていた。


神田は少し間を置いてから、柔らかい声で語りかけた。

神田「この前の授業でさ……先生がまた板書間違えててさ、クラス全員で笑ったんだよ。佐山がいたら絶対突っ込んでただろうな〜。」


輝は苦笑しながら頷く。

神田「ほんとだよな。お前、そういうとき誰より早く突っ込むからな」


二人の笑い声は小さいが、どこか温かさを帯びていた。

佐山の目が動いたわけではない。

それでも、彼に届いていると信じて、二人は話し続けた。

輝と神田はかつて自分たちを虐めていた佐山を1人にしないように...谷口や浜野の分もちゃんと向き合って接すようにしていた...


病室の時計が静かに秒を刻んでいる。

気づけば外の空は赤みを帯び、夕暮れが近づいていた。


神田が立ち上がり、背伸びをひとつする。

神田「……そろそろ行くか」


輝は頷き、ベッドの佐山を見下ろして小さく言った。

輝「また来るからな」


返事はない。けれど、その沈黙を二人は受け止め、背を向けた。


病室を出ると、白い廊下に夕日が差し込み、長い影が二人を伸ばしていた。


病室を後にした二人は、受付で軽く会釈をして外に出た。

夕暮れの風がひやりと頬を撫で、張り詰めた空気をやわらげる。


神田は歩きながら、ふと横目で輝を見た。

神田「……なぁ、やっぱり休学するんだよな、お前」


輝は少し視線を落とし、苦笑を浮かべる。

輝「あぁ。事情が事情だからな。……残念だけど」


神田は手を後ろに組み、空を仰いだ。

神田「……そうか。正直、寂しいわ。お前がいないと、なんかぽっかり穴が開くっていうかさ」


輝「はは……大げさだろ。でも、そう言ってくれるのは嬉しいよ」


神田「……早く戻ってこいよ。待ってるからな」


その言葉に輝は頷き、静かに答える。

輝「……あぁ。必ず」


二人はそのまま駅で別れ、輝はバスに揺られながら窓の外を眺めていた。

沈む夕日が街を染め、影を長く引き伸ばしていく。


――やがて、石畳の参道を抜け、輝は寺の門をくぐった。

静まり返った境内に入ると、不思議と胸の奥に安堵が広がっていった。


寺の玄関を開けると、ふわりと香ばしい線香の匂いが鼻をくすぐった。

畳の感触を確かめながら靴を脱ぐと、居間の奥から三郎の低い声が響く。


三郎「……帰ったか、輝」


輝「ただいま、師匠」


居間へ足を踏み入れると、三郎が囲炉裏端に腰を下ろして湯呑を手にしていた。

その肩口には、相変わらず小さな女郎蜘蛛がちょこんと乗っている。


女郎蜘蛛「ふん……人間の学び舎はどうだった?」


輝は苦笑しながら答える。

輝「どうって、普通だよ?普通!」


そのとき、畳をカサリと揺らす音。

机の影からパドが這い出してきて、指先をぱたぱたと揺らす。


パド「おかえり、輝! 遅かったね」


輝「ただいま、パド」


小さな仲間たちの声に迎えられ、胸の奥の重さがわずかに和らぐ。

だが同時に、明後日に迫る禍津学園の影が、じわりと背後に忍び寄っていることも感じていた――。


三郎は湯呑を置き、輝に目を向ける。

三郎「明日は丸々休んで……準備するんじゃろ?」


輝は肩の鞄を降ろしながら、少し息を吐いた。

輝「うん、そうだね。」


輝は軽く手を振って部屋へと入っていく。


輝は部屋に入り、準備物を机の上に並べた。

服の替え、生活に必要な小物――必要なものは全て揃えてある。


時計は23時58分を指していた。

そろそろ寝る時間だ。布団に入り、深呼吸をしながら、目を閉じる


――その瞬間だった。


ふわり、と部屋の空気が光に包まれる。蛍光灯の淡い光ではなく、明らかに別の――何かが光を放っている。


輝「っ……!?」


慌てて布団から飛び起き、時計を見る

12時を指している


輝「早くね!?」


二人はすぐに気配を察知し、輝の元に集まる。

パド「輝……どうしたの?」

女郎蜘蛛「……何事?」


輝は急いで準備していた必要な荷物を手に取り、二人に視線を向けた。

輝「転移だ!行くぞ!」


パドと女郎蜘蛛も素早く位置につく。


パド「早くない!?」

女郎蜘蛛「いきなりすぎね...」


バタバタ...


三郎「もういくのか!?」

輝「うん!行ってくる!」


三郎が頷き短く言葉を投げつける


三郎「死ぬなよ...!気をつけて行ってこい!」


輝は深呼吸を一つして、手を大きく振ると――


――眩い光に包まれ、三人は学園へと移動した。


目を開けたときには、もう――禍津学園の地に立っていた。

今回の話では、輝たちの“人としての成長”を描くことを意識しました。

佐山との面会では、彼が廃人の状態であっても、輝と神田が彼に優しく語りかける姿を通して、責任感や覚悟が伝わるように描写しています。かつての葛藤や過去の関係も絡めることで、単なる見舞いの場面に留まらない重みを持たせました。


次回はいよいよ禍津学園への到着。未知の環境と、それに伴う危険や試練が待ち受けています。輝、パド、女郎蜘蛛――三者三様の反応や思考を交えながら、物語はさらに加速していきます。


読者の皆さんには、彼らの絆や葛藤、そして小さな勇気の積み重ねを、今後も見守っていただければと思います。


次回26話ーー過酷すぎる一限目

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