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霊業  作者: まんらび
2章
25/47

25話:放課後の約束

前回、輝はかつて死神との戦いで出会った女郎蜘蛛と再会を果たした。

互いに驚きを隠せぬまま交わした言葉は、過去の因縁と、そしてこれから先の未来へと繋がる確かな契機となった。


女郎蜘蛛が語った「黒い翼を持つ妖怪」の存在。

そして、輝が口にした「禍津学園」という名。

二つの要素はやがて交わり、物語をさらに深き闇へと導いていくであろう。


今回、物語は新たな局面へ入る前の「準備」に焦点を置く。

仲間と共に歩むための誓い、そして迫り来る試練に備えるための静かな時間。

そのひとつひとつが、やがて大きな運命の分岐点へと繋がっていく。

【登場人物】

主人公:気道 輝

女郎蜘蛛

パド

五十嵐 三郎

神田 大輝

黒ずくめの男

輝と女郎蜘蛛が向かい合い、言葉を交わしていたその背後。

下駄の音が静寂を破り、低く落ち着いた声が響いた。


三郎「……ふむ。やけに外が騒がしいと思えば……輝、お前か」


輝「し、師匠!? 起きてたのか……!」


三郎は二人の背後に立ち、腕を組んでじっと見据える。

その視線は輝ではなく、月明かりに照らされた女郎蜘蛛へと注がれていた。


三郎「お主が“女郎蜘蛛”か」


女郎蜘蛛はわずかに身を引き、鋭い眼差しを返す。

女郎蜘蛛「……人間にしては、随分と落ち着いているのね」


三郎「年の功じゃ。妖に驚く歳はとっくに過ぎたわい」


三郎は腕を組んだまま、ゆっくりと輝に問いかけた。


三郎「……で、どうだ? 話は付いたのか」


輝は少し胸を張り、誇らしげに頷く。

輝「あぁ、付けたよ! 女郎蜘蛛は――俺たちに着いてきてくれるって!」


その言葉に、女郎蜘蛛はわずかに顔をそむけ、脚を揺らしながら鼻を鳴らす。

女郎蜘蛛「……ふんっ。一時的な同盟ね」


輝は苦笑しながらも、どこか嬉しそうに女郎蜘蛛を見やった。

その表情を横目に、三郎は小さく頷き、口元にわずかな笑みを浮かべた。


三郎「……そうか。ならばよい。わしが探す手間省けたな」


その時、三郎の足元で何やらもぞもぞと動く気配があった。

視線を落とすと、小さな影――パドが眠たそうに指先を伸ばしながら這い出してきた。


パド「……んん……てる……」


掠れた声で輝の名を呼ぶと、そのままぐいっと掌を持ち上げ――女郎蜘蛛の気配に触れた瞬間、身体をビクリと震わせた。


パド「……!! く、蜘蛛ちゃんっ!!」


指先をパタパタと揺らし、全身で喜びを弾ませるように跳ね回る。

その勢いのまま女郎蜘蛛へ駆け寄り、跳ねるように手を伸ばした。


パド「なんでいるの!? なんでいるの!?!? わぁぁっ! 本物だぁぁ!!」


女郎蜘蛛は少し面食らったように目を瞬かせ、思わず脚を引いた。

だがすぐに、呆れ混じりの吐息を漏らし、肩をすくめる。


女郎蜘蛛「……落ち着きのない子ね」


蛍光灯の照明は寿命が近いのか、チカチカと不規則に点滅を繰り返している。

壁の影が伸びたり縮んだりして、まるでそこに何か潜んでいるかのような錯覚を与えた。


机の上には、簡単なメモが広げられている。

腰を下ろした輝は、深刻な面持ちで仲間たちを見回した。


輝「――じゃあ、改めて確認しよう。禍津学園にパドと女郎蜘蛛が潜入できるかどうか、だ」


三郎は腕を組み、眉間に皺を寄せたまま黙考している。


女郎蜘蛛「空間転移...聞いたこともない術だけど...」


パドは机の端をちょこちょこと這い上がり、指先を振りながら声をあげた。


パド「て言うか転移場所って転移でしか行けないのかな...」


輝「ん〜〜」


三郎「輝や...学園の場所に見覚えとかないのか?どんな場所だったとか教えてほしいんだが」


輝「周りは本当に森って感じ...一次試験中結構歩いたけど終わりのない森みたいな雰囲気だった...学園とか体育館自体は結構綺麗で最近建てられたって言われても不思議じゃない」


三郎「情報が少ないな...」

チカ、チカ、とまた光が乱れ、部屋の空気がさらに冷たくなる。


三郎「考えても埒が明かない...輝、後2日後に飛ばされるんじゃろ?」


輝「そうだね...」


三郎「...一か八かじゃな...飛ばされる瞬間輝の身体に引っ付いておけば一緒に飛ばされるやもしれん、最悪輝一人で飛ばされる線もあるがな...」


輝はしばらく黙り込み、チカチカと点滅する蛍光灯を見上げた。

やがて肩をすくめ、小さく息を吐く。


輝「……まぁ、そうなったらしょうがない。俺一人で飛ばされても……向こうには頼れそうな人が一人いるから、最悪大丈夫だ」


三郎が鋭い視線を向ける。

三郎「頼れそうな人間……だと?」


輝「うん。入試のときに世話になった人だよ。完全に信用できるってわけじゃないけど……真鴉なら助けてくれるかもしれない」


女郎蜘蛛は鼻で笑い、組んだ脚をゆっくりと解いた。

女郎蜘蛛「ふん……“かもしれない”で命を賭けるの?ずいぶん楽観的なのね」


輝「……楽観的でもいい。どうせ考えたって答えは出ないだろ?」


その言葉に、パドがちょこんと机から飛び降り、輝の袖をつまんだ。

パド「輝……私も一緒に行けるよね……?」


輝は下を向き、ほんの少し口元を緩めた。

輝「もちろん。お前達がいなきゃ困る...」


また蛍光灯が一度、明滅を繰り返す。

その一瞬、室内の空気がさらに重苦しく沈み込んだ。


三郎「……決まりじゃな。二日後、飛ばされるその瞬間に賭けるしかない」


女郎蜘蛛は肩をすくめ、だが瞳には微かな炎が灯っていた。

女郎蜘蛛「いいわ……一か八かの勝負...楽しそうじゃない」


三郎「とりあえず...今日はもう寝ろ明日も早いんじゃから輝は」


輝「そうだね...寝るよ、みんなおやすみ!」



窓の外から、小鳥のさえずりが柔らかく響きわたった。

その声にまぶたを揺らし、輝はゆっくりと目を覚ます。


輝「……んあ……朝か」


寝返りを打ち、身体を起こすと、部屋にはまだ薄い朝靄の名残が漂っていた。

畳の冷たさに足を触れながら立ち上がり、襖を開ける。


居間には既に三郎が腰を下ろしており、湯気を立てる味噌汁と焼き魚が卓に並べられていた。

香ばしい匂いに思わず輝の腹が鳴る。


輝「おはよ、師匠……って、もう準備してたのか」

三郎「当たり前じゃ。寝坊すれば一日の調子が狂うでの」


三郎の肩に女郎蜘蛛が乗っていた...


女郎蜘蛛「……ふん。人間って、朝からよく食べるのね」


机の端では、パドがちょこんと這い上がってきて、揺れる湯気に指先をかざしている。

パド「わぁ……あったかい……。おはよ、輝!」

輝「おはよ、パド。」


揃って朝の挨拶を交わし、箸を取る。

焼き魚の塩気と、味噌汁の温かさが胃に染み渡り、心なしか緊張していた胸の内を和らげた。


食事を終えると、輝は制服の襟を整え、肩に鞄をかける。

玄関に立ち、靴を履きながらふと振り返った。


輝「じゃあ……行ってくるよ。」


三郎は腕を組んだまま、短く頷く。

三郎「うむ。気をつけてな」


女郎蜘蛛「……人間の学び舎。覗いてみたいけど、今日はやめとくわ」


パドは玄関の敷居まで跳ねてきて、名残惜しそうに指先を振った。

パド「いってらっしゃい、輝!」


柔らかな朝日が差し込む中、輝は深呼吸をひとつして外へと足を踏み出した。


朝の通学路。

制服姿の生徒たちがぞろぞろと校舎へ向かう。


神田「おーい、輝!」


声に振り返ると、少し息を弾ませた神田が駆け寄ってきた。


神田「おはよっ!お前、今日ヒマか?」

輝「ん? まぁ、放課後ならな」


神田は歩調を合わせながら、声を少し落とした。


神田「……佐山のことなんだけどよ。今日見舞い行かね?」

輝「あぁ……うん」


神田「まだ佐山の事ほんのりしか覚えてないのか?」


輝「そうなんだよね...学校で話してた記憶はあるんだけど...佐山が入院したあたりから記憶が曖昧で...」


神田「まぁ、あんなことあればな...」


校門をくぐり、生徒たちのざわめきに紛れながら、輝と神田は校舎の中へと消えていった。

足音が遠ざかり、やがて通学路に静けさが戻る。


その時――。


校門の外れ、一本の電柱の陰。

そこに寄りかかるように立つ黒ずくめの男がいた。

フードに隠された眼差しは、校舎へ入っていった輝の背中を、じっと、食い入るように追っている。


口元がわずかに歪んだ。

笑みか、それとも別の感情かは分からない。


次の瞬間、風が通り過ぎる。

気配は影と共に溶け、ただ夏の朝のざわめきだけが残った――。

今回の話では、輝たちと女郎蜘蛛の作戦会議、そして日常の朝を経て、放課後の見舞いへ向かう流れが描かれました。

だが最後に現れた“黒ずくめの男”――その影は、ただの通りすがりではありません。


輝の過去と因縁を握る存在が、静かに舞台へと姿を現し始めています。

何気ない日常の背後に潜む闇が、じわじわと忍び寄ってきているのです。


次回、輝の日常にさらなる波紋が広がり、見舞い先の佐山との再会が、新たな局面を呼び込むことでしょう。

次回26話ーー準備

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