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霊業  作者: まんらび
2章
23/46

23話:戻らない記憶

慶作を失い、さらに知子までもが命を賭して輝を守ろうとした夜。

輝の心には深い傷が刻まれました。

そして、必死の逃走の果てに寺へと辿り着いたものの――輝は意識を失い、暗い眠りの中へと沈んでいきます。


その眠りの中で輝は、見たくない記憶を奥底にしまってしまう。

「戻らない記憶」とは、ただ失われた過去ではなく――未来へ進むために本能的にしまってしまった記憶。

【登場人物】

主人公:気道 輝

神田 大輝

五十嵐 三郎

パド

朝から夜まで、警察による事情聴取が続いた。

一晩で、あまりに多くのものが失われすぎたからだ。


山中の墓地からは、四つの遺体が発見された。

慶作、知子さん、谷口くん、浜野くん。


彼らの死について、警察は一つの結論を導き出した。


――慶作による無差別殺人。


慶作の拳に残された血痕。凶行にふさわしい現場の惨状。

当初こそ、傷跡の形状や現場の荒れ具合から慶作ではない可能性も検討されかけた。

だが――防犯カメラに映っていたのは、輝と慶作、知子だけ。

捜査は「狂気による犯行」として打ち切られた。


病院に運ばれた三人――輝、神田、佐山は命を繋ぎとめていた。


神田くんは意識もはっきりしており、受け答えもしっかりしている。

黒ずくめの男の存在を証言したりもしていた。

だが、物的証拠がないという理由で一蹴される。

だが佐山は違った。強烈なトラウマに心を閉ざしたのか、一言も発せず、虚ろな瞳でただ天井を見つめていた。

医師は「時間と治療が必要だ」と告げた。


そして――輝。

頭部の外傷は軽度と診断されたものの、その代償はあまりに大きかった。


「記憶障害」――。

医師が口にしたその言葉が、三郎の耳に重く響いた。


夜に起きた出来事を、輝は何ひとつ覚えていなかった。

父と母が、仲間が、命を懸けて守ったはずの記憶が、霧の中へと溶けていたのだ。


五十嵐は病室のベッドで眠る輝を見つめながら、思う。

――この記憶が戻る日は来るのか。それとも……。


静かに鳴る心拍計の音が、答えのない問いを刻んでいた。


???「……てる……」


遠くで、誰かが呼んでいる。

優しく、必死に、確かに――輝の名を。


???「……てる、起きろって!」


はっと息を吸い込んだ瞬間、視界が切り替わった。

白い蛍光灯、チョークの音、ざわつく教室。


輝「……あれ……?」


ぼんやりと瞬きを繰り返す輝の肩を、神田がぐいっと揺さぶっていた。


神田「起きろ!先生が来てるって!」


顔を上げた先には、眉をひそめた教師の姿。

教科書を片手に、こちらへ歩いてくる足音がやけに大きく響いた。


胸の奥にざらつく違和感を抱えながら、輝は現実に引き戻されていった。


教師「気道――!」


鋭い声が教室を震わせる。


教師「授業中に寝るとはどういうつもりだ!ノートを取る気もないのか!?」


机を叩かれ、輝の肩が跳ねる。

咄嗟に言葉を探すが、喉は乾ききって何も出てこない。


神田「(ミスった……もっと早く起こすつもりだったんだが……ごめん、輝!)」


輝「……す、すみません」


しぼんだ声で謝った瞬間、教室のあちこちからくすくすと笑い声が漏れた。


「また寝てるよ、アイツ」

「やる気ねーんだな」

「親が親なら子も子なんだな」


冷笑とひそひそ声が耳に突き刺さる。

顔を伏せても、背中に突き刺さる視線から逃れられない。


――慶作の息子。殺人者の子そう、レッテルを貼られ事ある毎に悪者扱いされてきて...

噂が1人歩きしてる状態になっていた。

その烙印を、輝はこれからも背負い続けるのだ。


教師「……やかましいぞ!」


笑い声が一瞬で止む。

鋭い視線が教室を薙ぎ払うように走り、生徒たちが肩をすくめた。


教師「輝を笑ってどうする。輝がお前たちに何か危害を加えたか?」


しんと静まり返る教室。

沈黙の奥に、なおも腫れ物を見るような視線が輝に突き刺さっていた。


輝は机に視線を落とし、ただ拳を握りしめることしかできなかった。


〜放課後〜


チャイムが鳴り、生徒たちが次々に教室を出ていく中、輝は鞄を机に抱えたまま声をかけられた。


神田「帰ろうぜ!輝!」


その後ろから教師が入ってきた。


教師「神田……すまんな。気道、ちょっと来なさい。職員室だ」


ざわめきの残る廊下を歩きながら、胸の奥に重い塊が沈んでいく。

――また怒られるのか。

そんな思いが拭えないまま、職員室の扉をくぐった。


教師は椅子に腰を下ろし、しばし輝を見つめてから静かに口を開いた。


教師「……授業中に寝るのは感心せん。だが、それ以上に……お前、何かあったのか?」


輝「……何か、ですか?」


教師「あぁ。無理に話せとは言わん。だが――お前はまだ中学生だ。ひとりで背負うには、重すぎるものがある」


その言葉に、心臓がひときわ強く脈打った。

だが唇は動かない。ただ、拳を強く握りしめるだけだった。


教師はため息をつき、窓の外に目を向けた。

沈みゆく夕日が、橙色に職員室を染めていた。


教師「……気が向いたらでいい。いつでも話に来い」


それだけを告げると、教師はそれ以上何も言わなかった。


輝は黙って一礼し、重い足取りで職員室を後にした。


職員室の前では神田が待っていた。


神田「輝……やっぱ最近お前変だよな。その傷だって……本当に事故なのか?」


輝「皆して、何言うんだよ〜。ほんとなんもないって!夜更かししすぎただけ!」

笑い混じりで誤魔化す。


神田「まったく……嘘つくときのお前、顔に出すぎなんだよ」

にやりと笑って肩を軽く叩く。


輝は苦笑いを返し、二人で下校の道を歩き始めた。


夕暮れの住宅街はオレンジ色に染まり、蝉の鳴き声が遠くで響く。

吹き抜ける風が、夏の匂いを運んできた。


神田「なぁ……ホントに大丈夫か?」

輝「大丈夫、大丈夫。……てか、神田こそ元気そうで何よりだよ」

神田「おいおい、人の心配してる場合かよ。あの時……」

輝「……あの時?」


一瞬、神田の言葉が止まる。

気まずそうに視線を逸らし、スニーカーのつま先で砂を蹴った。


神田「……いや、なんでもねぇ。忘れてくれ」


輝「……ふーん」


曖昧に笑いながらも、胸の奥がざわめいていた。


やがて二人は寺の前にたどり着く。


輝「じゃあな!神田!」

神田「おう!またな!」


去っていく神田の背中を見送る。


三郎「おぉ、帰ったか。……輝、今日は少し顔色が悪いな」

輝「大丈夫です。ちょっと授業中に寝ちゃって、怒られちゃったんだよね……」

三郎「ふむ、そうか」


境内から、ひょこっと声が飛んできた。


パド「あっ!輝、帰ってきてるじゃん!」

輝「おう、ただいま」


三郎「じゃあ飯にするか!今日はカレーじゃ!」


輝「よしっ!」

――こうして、「過去の章」は幕を下ろした。

数多の命と記憶が失われ、真実は闇の中に葬られた。


残されたのは、偽りの記録と、少年の胸に刻まれた曖昧な痛みだけ。

だが物語は終わらない。


過去は忘れ去られようとも、確かにそこに在った。

そして、失われたものを巡る影は、なお現代の輝たちを追い続ける。


――それは、夢か、記憶か、それとも呪いか。


彼が真実にたどり着くその日まで、物語は歩みを止めない。


輝の一時の日常の中に、再び暗い影が差し始めている――。

次回24話ーー邂逅

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