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霊業  作者: まんらび
2章
20/46

20話:視える者の宿命

裏山での度胸試しは、一瞬にして恐怖の惨劇へと変わった。

仲間の悲鳴、血塗られた小屋、そして――輝だけに映る“異形”。


その光景を静かに見つめていた黒ずくめの男は、輝の“力”を見抜き、彼を連れ去ろうとする。

神田も佐山も気づかぬまま、ただ一人、輝だけが選ばれてしまった。


「視える者」として生まれた者は、抗えぬ運命を背負うのか。

それとも、自らの意志で道を切り拓くのか。


今、輝は“視える者”としての宿命と、真正面から向き合うことになる――。

【登場人物】

主人公:気道 輝

神田 大輝

佐山 太郎

鴉天狗

気道 知子

気道 慶作

神田「何を言ってるのか分かんないよ!お前が……浜野をやったのか!」


黒ずくめの男「威勢がいいのは悪くないが、人は選べよ。今の時代、お前らみたいな子供でも殺されててもおかしくないんだしな」


神田「輝を離せッ!」


必死に食らいつくように、神田が男の足に拳を叩き込み、蹴りを放つ。


黒ずくめの男「はぁ……これだからガキは嫌いなんだよ」


その攻撃は軽くいなされ、神田は地面に転がされ意識を失う。


黒ずくめの男「……さて、そこの化け物も一緒に連れて帰るとしようか」


ずるりと蠢く異形。化け物は獣のように呼吸を荒げ、唸り声を上げる。

黒ずくめの男がその腕を伸ばした――。


――ドゴッ!


横合いから飛び込んできた拳が、黒ずくめの男の顔面を直撃した。

輝はその衝撃で肩から転げ落ち、地面に倒れる。


???「はぁ……はぁ……!」


駆けつけたのは一人の壮年の男。肩で荒く息をつきながら、目の奥に殺気を宿している。


???「知子……子供達を頼む……」

知子「うん……気をつけてね、慶作さん……」


黒ずくめの男は口端から血を拭い、目を細めた。

黒ずくめの男「……あなたは?」


慶作「俺は……ただのしがない父親だ」


黒ずくめの男「父親……?」


慶作「そうだ。てめぇが連れて行こうとした輝の……父親だッ!!!」


怒りに満ちた声が墓地に響く。慶作の眼光は獣のように鋭く、ただ息子を奪おうとした敵を許せぬという父の本能が全身を突き動かしていた。


黒ずくめの男「……視える子の父親、ね。というか、あなた……どこかで会った気がしますね。見覚えがあるんですが」


慶作「見覚え? ふざけるな……忘れてもらっちゃ困るんだよ。俺は長年お前を追って、各地を渡り歩いてきた。まさかこんな場所に潜んでいやがったとはな……!」


血管が浮き上がるほど握られた拳。

慶作の叫びが爆ぜる。


慶作「今ここで――お前を殺す! 鴉天狗ッッ!!!」


黒ずくめの男――鴉天狗は、ふっと笑みを浮かべた。


鴉天狗「おやおや……私の名前までご存知とは。大ファンじゃありませんか。しかもその並外れた妖力と霊力……これはぜひ、私達の組織に入ってもらいたいところだ」


慶作「戯言を……!今は...お前を――ぶち殺す!ただそれだけだ!」


慶作の拳に妖力が収束し、光を帯びたナックルが形を成す。鋭い妖気が夜気を切り裂き、地面の砂を震わせた。


慶作の髪がなびき霊力が体の周りに纏はじめる


鴉天狗「ほう、妖力を使った具現化だけではなく霊力での身体強化...只者ではありませんね」


慶作「歯ァ食いしばれッッ!!!」


雄叫びと共に踏み込む。重戦車のような突進。

振るわれた拳が石を砕き、衝撃波が土煙を巻き起こす。


鴉天狗「ふふっ……怖い顔。ですが直線的すぎる」


ひらり。

鴉天狗は大きな黒い翼を広げ、軽やかに宙へ舞い上がる。その動きは獲物を弄ぶ烏のよう。


鴉天狗「さぁ、もっと見せてください。父の力とやらを」


慶作「舐めるなぁぁぁッ!」


跳躍。

妖力を纏った慶作の拳が空を裂き、鴉天狗を追い詰める。だが鴉天狗は余裕の笑みを浮かべ、翼をしならせながら滑空し、すれすれで躱す。


鴉天狗「惜しい惜しい。力任せでは、私には届かない」


慶作「黙れッ!!!」


ナックルが地面を叩き割る。轟音が夜を震わせ、破片が弾丸のように飛び散る。

その隙を狙い、鴉天狗の爪が慶作の肩を裂いた。


慶作「ぐっ……!」

鴉天狗「おっと、いい反応。これでも死んでないとは。さすが!」


血を滴らせながらも、慶作は怯まず拳を握り直す。


慶作「俺は退かねぇ……! 何度でも立ってやる!!」


地面が耐えきれずに亀裂を走らせる。


鴉天狗「いいですねぇ……実にいい。やっぱり人間は、壊れる寸前が一番輝く」


二人の視線がぶつかり合う。

次の瞬間――轟音と共に再び拳と爪が衝突し、夜空に火花が散った。


慶作のナックルが幾度も空を裂く。

拳が振るわれるたびに地面が陥没する。

だが――当たらない。


鴉天狗は軽やかに舞い、翼を翻しては爪で切り裂く。

掠っただけで慶作の腕や脇腹に赤い線が走り、血が滲んでいく。


その音は離れの知子の元へと届くほど。

知子「慶作さん...」

その時人知れず輝の手が震える...


---


鴉天狗「ほら、もっと見せてくださいよ。追ってきた年月に相応しい、必死の力を」


慶作「……くっ……!」


息が荒い。

全身を切り刻まれながらも、慶作は諦めない。

地を蹴り、再び拳を振り上げる。


その瞬間――。


慶作「らぁぁぁぁッッ!!!」


ナックルに妖力を凝縮させ、全力の一撃を放つ。

拳から溢れた妖気で空間が歪むほどの打撃を放ち、空を切り裂き――鴉天狗の翼を斬り裂いた


鴉天狗「……ッ!? やりますねぇ」


片翼から羽根が散り、宙に舞う。

慶作は血走った目で吠えた。


慶作「やっと捉えたぞ……これで、お前は逃げられねぇッ!!!」


地に舞い落ちた羽を踏みしめ、再び拳を構える。

確かに手応えがあった――行ける、勝てる。そう思った刹那。


鴉天狗「ふふ……ここまで強い人間も珍しい、珍しいからこそ、調子に乗るのは良くない」


羽ばたきの音が響く。

次の瞬間、鴉天狗の残った翼が鋭利な槍のように変形し、慶作の胸を貫いた。


ズブッ……!


慶作「……が、は……ッッ!」


鴉天狗「ですが...相手を見誤るのはダメですね...早死するだけなのですから...」


温かい血が口から溢れ、地面を赤く染める。

妖力の光を宿していたナックルが霧のように消え散った。


鴉天狗「惜しい……本当に惜しい。あと一歩で、私の喉笛に届いていた」


羽を引き抜き、血飛沫を払うようにひらめかせる。

鴉天狗の瞳には一切の哀れみもなく、ただ愉悦が宿っていた。


慶作「……まだ……終わっちゃ……いねぇ……」


膝を折りながらも、慶作はなお拳を握り、鴉天狗を睨み据える。


---


輝「……う……」


重たい瞼を開けると、ぼやけた景色の中に知子の姿があった。

体はまだ鉛のように重く、息をするだけで胸が軋む。


――なのに、胸の奥にざわつくものがあった。

不思議なほどはっきりとした“感覚”。


輝(……父さん)


確信にも似た直感が、胸を突き上げた。

魂の奥でわかる――大切な人の命が消えかけていることを。


輝「……お父さん……!」


知子「ダメ! そっちには行かないで!」


制止の声を振り切り、輝はよろめきながら立ち上がる。

ふらつきながらも走り出した。


輝「お父さんが……死んじゃうッ!!」


知子「輝っ!!」


その叫びは届かない。

輝は必死に泣き叫びながら、戦場の方角へと駆けていった。


---


慶作は胸を貫かれ、膝をついていた。

地面に滴る血の音だけがやけに鮮明に響く。


鴉天狗「心臓を霊力で守りましたか...でももう立てぬでしょう。諦めなさい」


慶作「……俺は……まだ……!」


震える拳を握り、血走った目で鴉天狗を睨む。

その時、遠くから――。


輝「お父さんーーーっっ!!!」


声が夜を裂き、慶作の心を揺らした。

振り返ると、息も絶え絶えに駆けてくる息子の姿。

その瞳には涙があふれ、それでも必死にこちらへ手を伸ばしていた。


慶作「……輝……ッ……!」


鴉天狗「お遊びは終わりです」


その言葉と同時に、無数の羽根が夜空に舞い上がった。

光を反射して黒い刃と化し、次の瞬間、慶作の全身へと容赦なく突き刺さる。


ズシャァッッ!!


慶作「ぐっ……あぁぁぁぁッ!!」


胸、腹、腕、足――至る所に羽が突き立ち、鮮血が噴き出す。

地面に崩れ落ち、呼吸は荒く、体は痙攣を繰り返す。


輝「お父さんッ!!!」


涙で顔をぐしゃぐしゃにした輝が駆け寄る。

その姿を見て、慶作は苦痛に歪んだ顔を無理やり笑みに変えた。


慶作「……来るな……輝……! お前は……」


輝「やだッ! 一緒に帰るんだッ! お父さん!!せっかく....せっかく久しぶりに会えたって言うのに...」


震える手で慶作の血まみれの体に触れる。

慶作はその手を掴み、かすれた声で言葉を紡ぐ。


慶作「……俺は……もう長くない……。だがな……お前は……俺の誇りだ……」


目に涙を浮かべながらも、最後の力で息子を抱き寄せる。

その背に知子の姿が見えた。


慶作「知子……! こいつを……頼む……! 早く……逃げるんだ……!」


知子「け、慶作さん……!今なら一緒に...」


慶作「……無駄だッ!……あの鴉天狗を相手に……ここで皆死ぬ気か……!?」

慶作「早く行け……! 輝を……頼むッ!!」


鴉天狗は冷たい目でその光景を見下ろし、まるで虫の足掻きを眺めるかのように羽を震わせた。


慶作は最後に、震える手で輝の頬を撫でた。


慶作「……輝……生きろ……母さんを……守ってやるんだ……」


その声はかすれながらも、輝と知子に微笑みかける...

輝「嫌だァァァァァァァァッ!!!」


輝の叫びが夜空に響き渡る中、知子は輝を無理やり抱えてその場を離れた。

背後で、鴉天狗の羽音と、父の亡骸が崩れ落ちる音だけが、静かに残った――。


慶作は地に伏し、もう動くことはなかった。

だがその顔は、不思議と穏やかだった。

息子を守り抜いた父の、誇りと覚悟が刻まれた表情のまま――。


その静かな亡骸を、月光だけが静かに照らしていた。


鴉天狗「逃がすわけがないでしょう...」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


今回はとうとう「父・慶作」の存在が本格的に描かれました。

これまで影のように語られてきた人物が、息子を守るために立ち上がり、そして命を落とす――。

輝の物語にとっても、そして読んでくださっている皆さんにとっても、重たい一章になったのではないでしょうか。


慶作の戦いはただのバトルではなく、**父としての矜持、そして息子を守る想い**そのもの。

圧倒的な力を誇る鴉天狗に挑みながらも、最後まで輝を守り抜いた姿は、儚くも強烈に心に刻まれたはずです。


この出来事は、輝にとって大きな分岐点となります。

「視える者」としての宿命に真正面から向き合わざるを得なくなった彼が、ここからどう歩んでいくのか。

そして鴉天狗という強敵との因縁が、どのように物語を動かしていくのか。


また、後々必ず「慶作がなぜ鴉天狗を追っていたのか」「なぜ輝の元に駆けつけてきたのか」――その真実も描いていく予定です。ぜひ楽しみにしていてください。


次回ーー21話『砕け散る逃げ道』

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