19話:忘れたい記憶
前回、佐山たちに強引に誘われる形で、輝と神田は“裏山の墓地”での度胸試しに参加することになった。
もちろん輝は乗り気ではない。だが神田が挑発に乗ってしまった以上、彼を一人にしておくことはできなかった。
――そして迎える夜。
月明かりに照らされた墓地は、昼間の学校とはまるで別世界。
「幽霊なんていない」と笑う佐山たちの声も、どこか心細さを隠すための虚勢にしか聞こえない。
輝は胸の奥に広がる“嫌な予感”を必死に押し殺しながら、足を踏み入れる。
果たして待っているのは、ただの子供の遊びか――それとも、“本物”との遭遇か。
【登場人物】
主人公:気道 輝
神田 大輝
佐山 太郎
谷口 亮介
浜野 大地
黒ずくめの男
輝と神田は懐中電灯と木の棒を手に、裏山の墓地へとたどり着いた。
辺りは静まり返り、虫の声さえ遠ざかっている。夜風が木々を揺らし、影がゆらゆらと墓石の上を踊っていた。
輝「……雰囲気すごいね...」
神田「ああ、雰囲気だけはな...」
その時、後ろから足音。振り返ると佐山たちが笑いながら近づいてきた。
佐山「おう! 逃げなかったな!」
神田「当たり前だろ」
輝は神田の背中に隠れるようにして立っていた。肩が小刻みに震えている。
谷口「おい! 鬼が震えてるぞ!」
佐山「だっせぇ!!」
神田「お前ら、うるせぇっての!……輝、大丈夫か?」
輝「だ、大丈夫……」
佐山「行くぞ! 谷口! 浜野!」
谷口&浜野「おう!」「……」
神田「……行こうか、輝」
二人が歩き出すと、その背後で佐山たちは互いに顔を見合わせ、にやりと企むように笑った。
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輝「暗いね……」
神田「大丈夫、大丈夫。何も出やしねぇよ」
二人は怯えながらも足を進めていく。懐中電灯の光が墓石をかすめ、その影が幽霊のように揺れた。
神田「おい、お前ら、ちゃんとついてきてるか……?」
振り返った瞬間、佐山たちの姿はどこにもなかった。
輝「ええっ!? 迷子!? 探さないと!!」
慌てて来た道を引き返しながら声を張り上げる。
神田「おーい! 佐山ー! 谷口ー!」
輝「浜野くーん!」
しかし返事はなく、森の静寂が広がるばかりだった。
その時――。
ガクンッ!
輝の足が何かに掴まれ、前のめりに転倒した。
輝「いってて……な、なんだこれ……!?」
足首を握っていたのは、ゾンビのように崩れ落ちた顔をした化け物。濁った瞳がギラリと輝を見上げていた。
輝&神田「ぎゃあああああああっ!!」
二人は半ば転げるようにして必死に走り出した。
佐山「へっへっ、成功だ! そっちの道には谷口が待ってんだよなぁ〜!」
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輝「はぁ……はぁ……」
神田「なんなんだよ今の!?」
輝(あれも……お母さんが“無視しろ”って言ってたやつなのか……?)
神田「とにかく佐山たちを早く見つけねぇと!」
その時、輝の首元に冷たいものが触れた。
輝「ひゃっ!」
神田「どうした!? 輝!」
輝「首に! なんか触った!」
神田が覗き込むが、そこには何もない。
神田「……何もねぇぞ」
輝「え、でも確かに……」
神田「いいから、行くぞ。ここに長居はヤバい」
二人は顔を見合わせ、不安を抱えたまま先を急いだ。
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その頃。
谷口「へっへっ……木の上からこんにゃく垂らしただけであいつ、あんなにビビりやがって!」
得意げに笑っていた谷口の下を、何か黒い影が通り過ぎた。
谷口「……え?」
木から降り、周囲を見回す。
ザッ……。
その瞬間、影が谷口に向かって突進してきた。
谷口「やっ……!」
――闇に飲み込まれる。
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輝「……ん? 今、音がした気がする」
神田「気のせいだろ……」
神田の声はわずかに震えていた。
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別の場所。
浜野「よし……この小屋に隠れて待ち伏せしてやる」
佐山と同じゾンビの仮面を被り、物陰に身を潜める。
浜野「これでビビらせてボコボコにしてやる……」
ザッ……ザッ……。
誰かが近づいてくる。浜野は息を殺し、身を固めた。
ガラガラ……。
浜野(来た! 入ってきた……!)
飛び出そうと身を低く構える。
浜野(今だッ!)
浜野「アァァァァ! 殺し……て……」
しかし目に映ったのは輝でも神田でもなく――。
三メートル近い巨体。
顔はドロドロに溶け、腸を垂らし、血に濡れた錆びた斧を引きずる化け物だった。
浜野「う、うわぁぁぁァァァァァ!!!」
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輝&神田「!?」
輝「浜野の声!? 今の!」
神田「ヤバい何かあったんだ!急いで行くぞ!」
走り出す二人の前に、佐山が現れた。
佐山「鬼!? 神田!? ……今の声、浜野だろ!?」
神田「ああ! どこ行ってたんだよ! ……ってか浜野が!」
輝「大丈夫かな……」
その時、輝の背後に大きな影が現れ、肩に重い手を置いた。
輝「うわぁぁぁぁっ!」
神田「誰だ!?」
現れたのは黒ずくめの男だった。
黒ずくめの男「こんなところで何をしているんだ?」
神田「あ、すみません! 友達が迷子になっちゃって……探してるんです!」
黒ずくめの男「友達……? ここは危険だ。一緒に探そう」
神田「ありがとうございます!」
輝「……」
四人は声の聞こえた小屋の方へ急ぐ。
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輝「あの小屋のあたりだ!」
神田「ああ……ん? あれって……」
佐山「う、うわぁぁぁァァァァァ!!」
佐山が腰を抜かし、絶叫した。
そこには血の海が広がり、腹を裂かれた浜野が倒れていた。
神田「くっ……警察! 電話しねぇと!」
輝(え……みんな、あの化け物に気づいてない……!?)
化け物を直視する輝を、黒ずくめの男はじっと観察していた。
震える指で電話をかけようとする輝。
輝「て、手が震える……!」
次の瞬間、黒ずくめの男がその手を掴み、電話を阻止した。
輝「え……?」
神田「どうした、輝――」
ドスッ!
男は輝の首筋を叩き、気絶させる。
神田「輝!! なにすんだよ!!」
黒ずくめの男は深いため息をつき、淡々と告げた。
黒ずくめの男「こんな場所にいたから“視える子達”かと思ったが……思い過ごしか」
神田「な、何言って……」
黒ずくめの男「今眠らせた彼は視えているようだ。だから連れて行く」
気絶した輝を担ぎ上げながら、冷たい声で言葉を続ける。
黒ずくめの男「君と、そこの腰を抜かしてる子は反応がない。化け物が見えていない証拠だ」
その視線の先――。
腹を裂かれた浜野の死体のすぐ横に、あの“化け物”が立っていた。
裏山の墓地での度胸試し。
軽い肝試しのはずが、佐山たちの悪ふざけを超えて、本物の“怪異”が姿を現す。
谷口や浜野に襲いかかる、輝だけが視える“異形の存在”。
それをまじまじと観察する、黒ずくめの男。
神田の叫びも届かぬまま、輝はその腕に担がれ、闇の中へ連れ去られかけてしまう...
少年たちの度胸試しは、ただの遊びで終わらなかった。
それぞれの恐怖、そして輝が抱える“視える力”。
この夜が、彼の運命を大きく動かしていく。
次回ーー20話 視える者の宿命




