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霊業  作者: まんらび
2章
19/46

19話:忘れたい記憶

前回、佐山たちに強引に誘われる形で、輝と神田は“裏山の墓地”での度胸試しに参加することになった。

もちろん輝は乗り気ではない。だが神田が挑発に乗ってしまった以上、彼を一人にしておくことはできなかった。


――そして迎える夜。

月明かりに照らされた墓地は、昼間の学校とはまるで別世界。

「幽霊なんていない」と笑う佐山たちの声も、どこか心細さを隠すための虚勢にしか聞こえない。


輝は胸の奥に広がる“嫌な予感”を必死に押し殺しながら、足を踏み入れる。

果たして待っているのは、ただの子供の遊びか――それとも、“本物”との遭遇か。

【登場人物】

主人公:気道 輝

神田 大輝

佐山 太郎

谷口 亮介

浜野 大地

黒ずくめの男

輝と神田は懐中電灯と木の棒を手に、裏山の墓地へとたどり着いた。

辺りは静まり返り、虫の声さえ遠ざかっている。夜風が木々を揺らし、影がゆらゆらと墓石の上を踊っていた。


輝「……雰囲気すごいね...」

神田「ああ、雰囲気だけはな...」


その時、後ろから足音。振り返ると佐山たちが笑いながら近づいてきた。


佐山「おう! 逃げなかったな!」

神田「当たり前だろ」


輝は神田の背中に隠れるようにして立っていた。肩が小刻みに震えている。


谷口「おい! 鬼が震えてるぞ!」

佐山「だっせぇ!!」

神田「お前ら、うるせぇっての!……輝、大丈夫か?」

輝「だ、大丈夫……」


佐山「行くぞ! 谷口! 浜野!」

谷口&浜野「おう!」「……」

神田「……行こうか、輝」


二人が歩き出すと、その背後で佐山たちは互いに顔を見合わせ、にやりと企むように笑った。


---


輝「暗いね……」

神田「大丈夫、大丈夫。何も出やしねぇよ」


二人は怯えながらも足を進めていく。懐中電灯の光が墓石をかすめ、その影が幽霊のように揺れた。


神田「おい、お前ら、ちゃんとついてきてるか……?」


振り返った瞬間、佐山たちの姿はどこにもなかった。


輝「ええっ!? 迷子!? 探さないと!!」


慌てて来た道を引き返しながら声を張り上げる。


神田「おーい! 佐山ー! 谷口ー!」

輝「浜野くーん!」


しかし返事はなく、森の静寂が広がるばかりだった。


その時――。


ガクンッ!


輝の足が何かに掴まれ、前のめりに転倒した。


輝「いってて……な、なんだこれ……!?」


足首を握っていたのは、ゾンビのように崩れ落ちた顔をした化け物。濁った瞳がギラリと輝を見上げていた。


輝&神田「ぎゃあああああああっ!!」


二人は半ば転げるようにして必死に走り出した。


佐山「へっへっ、成功だ! そっちの道には谷口が待ってんだよなぁ〜!」


---


輝「はぁ……はぁ……」

神田「なんなんだよ今の!?」

輝(あれも……お母さんが“無視しろ”って言ってたやつなのか……?)

神田「とにかく佐山たちを早く見つけねぇと!」


その時、輝の首元に冷たいものが触れた。


輝「ひゃっ!」

神田「どうした!? 輝!」

輝「首に! なんか触った!」


神田が覗き込むが、そこには何もない。


神田「……何もねぇぞ」

輝「え、でも確かに……」

神田「いいから、行くぞ。ここに長居はヤバい」


二人は顔を見合わせ、不安を抱えたまま先を急いだ。


---


その頃。


谷口「へっへっ……木の上からこんにゃく垂らしただけであいつ、あんなにビビりやがって!」


得意げに笑っていた谷口の下を、何か黒い影が通り過ぎた。


谷口「……え?」


木から降り、周囲を見回す。


ザッ……。


その瞬間、影が谷口に向かって突進してきた。


谷口「やっ……!」


――闇に飲み込まれる。


---


輝「……ん? 今、音がした気がする」

神田「気のせいだろ……」


神田の声はわずかに震えていた。


---


別の場所。


浜野「よし……この小屋に隠れて待ち伏せしてやる」


佐山と同じゾンビの仮面を被り、物陰に身を潜める。


浜野「これでビビらせてボコボコにしてやる……」


ザッ……ザッ……。


誰かが近づいてくる。浜野は息を殺し、身を固めた。


ガラガラ……。


浜野(来た! 入ってきた……!)


飛び出そうと身を低く構える。


浜野(今だッ!)


浜野「アァァァァ! 殺し……て……」


しかし目に映ったのは輝でも神田でもなく――。


三メートル近い巨体。

顔はドロドロに溶け、腸を垂らし、血に濡れた錆びた斧を引きずる化け物だった。


浜野「う、うわぁぁぁァァァァァ!!!」


---


輝&神田「!?」


輝「浜野の声!? 今の!」

神田「ヤバい何かあったんだ!急いで行くぞ!」


走り出す二人の前に、佐山が現れた。


佐山「鬼!? 神田!? ……今の声、浜野だろ!?」

神田「ああ! どこ行ってたんだよ! ……ってか浜野が!」

輝「大丈夫かな……」


その時、輝の背後に大きな影が現れ、肩に重い手を置いた。


輝「うわぁぁぁぁっ!」

神田「誰だ!?」


現れたのは黒ずくめの男だった。


黒ずくめの男「こんなところで何をしているんだ?」

神田「あ、すみません! 友達が迷子になっちゃって……探してるんです!」

黒ずくめの男「友達……? ここは危険だ。一緒に探そう」

神田「ありがとうございます!」

輝「……」


四人は声の聞こえた小屋の方へ急ぐ。


---


輝「あの小屋のあたりだ!」

神田「ああ……ん? あれって……」

佐山「う、うわぁぁぁァァァァァ!!」


佐山が腰を抜かし、絶叫した。


そこには血の海が広がり、腹を裂かれた浜野が倒れていた。


神田「くっ……警察! 電話しねぇと!」


輝(え……みんな、あの化け物に気づいてない……!?)


化け物を直視する輝を、黒ずくめの男はじっと観察していた。


震える指で電話をかけようとする輝。


輝「て、手が震える……!」


次の瞬間、黒ずくめの男がその手を掴み、電話を阻止した。


輝「え……?」

神田「どうした、輝――」


ドスッ!


男は輝の首筋を叩き、気絶させる。


神田「輝!! なにすんだよ!!」


黒ずくめの男は深いため息をつき、淡々と告げた。


黒ずくめの男「こんな場所にいたから“視える子達”かと思ったが……思い過ごしか」


神田「な、何言って……」

黒ずくめの男「今眠らせた彼は視えているようだ。だから連れて行く」


気絶した輝を担ぎ上げながら、冷たい声で言葉を続ける。


黒ずくめの男「君と、そこの腰を抜かしてる子は反応がない。化け物が見えていない証拠だ」


その視線の先――。

腹を裂かれた浜野の死体のすぐ横に、あの“化け物”が立っていた。

裏山の墓地での度胸試し。

軽い肝試しのはずが、佐山たちの悪ふざけを超えて、本物の“怪異”が姿を現す。

谷口や浜野に襲いかかる、輝だけが視える“異形の存在”。

それをまじまじと観察する、黒ずくめの男。

神田の叫びも届かぬまま、輝はその腕に担がれ、闇の中へ連れ去られかけてしまう...


少年たちの度胸試しは、ただの遊びで終わらなかった。

それぞれの恐怖、そして輝が抱える“視える力”。

この夜が、彼の運命を大きく動かしていく。


次回ーー20話 視える者の宿命

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