17話:安心できる場所
入学試験を乗り越え、ようやく禍津学園への切符を手に入れた輝。
痛みと不安を抱えながらも、支えてくれる仲間、そして親友の神田との約束を胸に――少しずつ前へ進もうとしていた。
けれど、どれだけ強がっても「休める場所」がなければ、人は前に進めない。
戦いの中で傷ついた心を癒やすのは、戦う力ではなく、寄り添ってくれる存在。
輝にとっての「安心できる場所」とは一体どこなのか。
そして、彼がそこで出会う“新たな日常”は、果たして安らぎか、それとも嵐の前触れか――。
【登場人物】
主人公:気道 輝
真鴉 隼
神宮寺 泰斗
水瀬 詩織
師匠
パド
バク
神田 大輝
九条 颯真
新多 優
獅子堂 炎次
教師「……では続いて、皆様の生活拠点についてお伝えします」
背後のスクリーンが切り替わり、校舎と周辺を映した地図が現れる。
教師「我が校の寮は、校舎裏にあります。二人一部屋。全室、最低限の家具と生活必需品は揃えてあります」
輝「二人一部屋……誰と同室になるんだろ」
真鴉「ふん、どんな奴でも構わねぇよ。俺は寝るだけだ」
教師「詳細な部屋割りは後日発表となります。また、寮は単なる住居ではなく、日々の訓練と規律を学ぶ場でもあります。寮則違反は即座に退学の対象となりますので――肝に銘じておいてください」
水瀬は小さくうなずき、神宮寺は退屈そうに腕を組んだまま目を閉じている。
教師「続いて、本校の学年制について説明します。本校は三年制ですが、進級は点数制で管理されています。一年時は合計百点で二年へ、二年は二百点で三年へ……そして三年は五百点を満たした者だけが卒業できます。授業や試験の成績に応じて点数が振り分けられる仕組みです、本校最速卒業生は約1ヶ月で卒業されてるので皆様もそれを目指し奮闘してください...」
教室「卒業後は教師として残るかフリーで活動するか選べるのでご自由に」
ざわめきが広がる。ただ過ごせばいいわけではない――その事実が、合格者たちの胸に重くのしかかる。
教師「……以上で入学前の説明は終了です」
そこで言葉を切り、教師は一拍置いて声を落とした。
教師「本日は一度、ご実家へ戻って構いません。入学式は三日後。各自、必要な物を揃え、心身を整えてから臨みなさい」
一気に空気が緩む。張りつめていた緊張が解け、合格者たちの間に安堵のざわめきが広がった。
輝「……帰れるんだ」
真鴉「三日後か……ゆっくり寝れそうだなぁ」
神宮寺「……(小声で)無駄な時間だな」
教師「これにて本日の選抜試験は終了です。――解散」
体育館の扉が大きく開かれ、差し込む外光に皆の目が細まる。
試験の終わりを告げるように、眩しい日差しが床を照らしていた。
輝は深く息を吸い込み、隣に立つ真鴉や水瀬、神宮寺の顔を順に見やる。
輝「よし……」
――こうして試験の幕は下りた。
次に待つのは、学園生活の本当の始まりである。
光が徐々に弱まり、気がつけば輝は寺の前に立っていた。
輝「やべぇ……緊張とけたら急に眠くなってきた……」
バタンッ。
玄関前で力尽きるように倒れ込む。
その時、軒下の影から小さな影がもぞもぞと這い出てきた。
バク「……バクゥ?」
夢を嗅ぎとったバクは、嬉しそうに輝へ近づくと、夢を食べ始める。
バク「バクバク〜♪」
ガラガラッ。
戸が開き、中から師匠が慌てて飛び出してきた。
師匠「輝……!? パドや! 輝が帰ってきておるぞ!」
パド「ほんと!? どこ行ってたの!?」
師匠「とにかく家に入れて寝かせてやれ!」
――数時間後。
輝「あぁ〜……見覚えありすぎる天井だ〜」
師匠「だろうな」
輝は跳ね起きるようにして師匠の顔を見る。
輝「師匠!!!」
師匠「おはよう……。見たところ大きな怪我もないようだが、昨夜...何があったか、全部話してもらうぞ」
輝は息を整えながら、選抜試験で起きた出来事を余すことなく語った。
師匠「……禍津学園、か」
パド「うわさをすれば、ってやつだね」
輝「ほんとだよ……たった数時間なのに濃すぎてさ。師匠とパドの顔見たら、やっと安心できた」
パド「ねぇ、私たちも一緒についていけないのかな」
輝「多分無理だと思う。セキュリティめっちゃ厳しそうだったし……」
師匠「いや、試してみる価値はある。せめてパドだけでも連れて行けるかもしれん」
輝「確かに……。俺一人じゃ弱すぎて、野垂れ死にそうだから戦力欲しい。」
師匠「そうじゃな。小さくて、目立たずバレにくい味方がいれば……」
パド「小さくて……」
輝「バレなさそうな味方……」
輝&パド「女郎蜘蛛!! 蜘蛛ちゃん!!」
師匠「女郎蜘蛛? そんなやつ、いつの間に知り合ったんじゃ」
輝「そ、それは……まぁ、細かいとこはいいじゃん!」
パド「でも今どこにいるかも分かんないでしょ? 駄目じゃない?」
師匠「三日の準備期間の間に、わしが探してみよう。見つかるかどうかは分からんがな」
輝「ごめん……ありがとう。学校の結界の件もあるし、ほんと頼ってばっかで」
師匠は微笑み、優しく輝の肩に手を置いた。
師匠「構わん。頼れる時に頼ればいい。大人の仕事じゃからな。」
その言葉に、輝は思わず涙がこぼれそうになり、慌てて袖で目元をこする。
けれど胸の奥は、温かさでいっぱいだった。
グゥ〜〜。
輝「……あっ、腹減った」
師匠「そうじゃ輝……晩飯を食べておらんからの。準備するから待っとれ」
輝「手伝うよ?」
師匠「いいんじゃ!お主は座っとれ」
輝「……ありがとう」
(食事を済ませた)
輝「ふぅ〜、食った食った!」
パド「今日はどうするの?」
輝「今日は学校行こうかな。来週からは登校できなくなるだろうし、今のうちに顔出しとこうって」
師匠「そうじゃな。休学の件は、わしが学校と話をつけておこう」
輝「ごめん……頼んだ。行ってくるね!」
パド「行ってらっしゃい!」
制服に着替え、体の包帯を隠しながら登校する
輝「おはよ〜」
クラスメイト「……」
輝「……相変わらず無視っすね」
神田「……輝?」
輝「おう!神田!おはよう!!!」
神田「おはよう!……本物の輝だ!」
輝「どの俺でも本物の俺だよ」
神田「怪我はもう大丈夫なのか?」
輝「まだちょっと痛むけど大丈夫。来週から休学するし、早めに登校しておこうかなって」
神田「はぁ〜?休学すんのか!?それは……断りたい」
輝「無理です(キッパリ)」
その時、風桜が立ちはだかる。
風桜「おい、ごみ。まだ退学してなかったの?」
輝「あぁ……やな奴が絡んできちゃった」
神田「お前もそうだけど、学校の全員が輝のこと誤解してんだぞ!」
風桜「誤解?笑わせるなよ。被害者もいるのに“誤解”って?」
輝「いや、だからあれは――」
(周囲のクラスメイトがざわつき、引きつった顔で輝を見る)
神田「待てよ!お前ら話も聞かずに責めるだけ責めるのは卑怯じゃないか!」
輝「……もういいよ。どうせ信じてもらえない」
神田「輝……」
そのやり取りが隣のクラスまで響き、数人が輝の教室に入ってきた。
???「……君かい? 悪い噂の“本人”ってのは」
神田「っ……九条!」
取り巻きの女子たちが一斉に輝を責め立てる。
取り巻きA「九条様が話しかけてるんだから、一秒以内に返事しなさいよ!」
取り巻きB「これだから問題児は……」
九条「まぁまぁ……落ち着いて。僕みたいな人に声を掛けられて、彼だって恐縮してるんだろう?」
――九条 颯真。
端正な顔立ちと飾らない笑顔、醸し出されるカリスマ性で女子人気は圧倒的。
名家・九条家の跡継ぎであり、財力・人脈も兼ね備えた“完璧超人”として知られる男。
九条「……なるほど。これが“問題児”ね。思ってたよりも、普通そうじゃないか」
(輝を見下ろすように、しかし笑みを絶やさずに言う)
輝「……俺のこと知らないくせに、問題児って決めつけんなよ」
九条「おや? 随分と反抗的だね。でも……本当の君がどんな奴かなんて、すぐに分かるさ」
(女子たちがクスクス笑う)
九条「安心しろ、僕は君を排除しようなんて思ってない。むしろ――」
(意味深に輝の肩へ手を置く)
九条「……“どこまで落ちていくか”を、じっくり見てやるつもりだよ」
(取り巻きの女子たちから黄色い声。九条は余裕の笑みを浮かべたまま、クラスを後にする)
神田「ちっ……嫌味ったらしい奴だな……」
その時――。
ざわめく野次馬をぐいぐいと掻き分け、ひときわ柄の悪い男が輝の方へずかずかと歩いてきた。
???「気道ってのは誰だ?」
輝「気道は俺だが……」
???「なんか普通の顔してんなぁ!」
輝「普通の顔してて、すみませんねぇ!」
軽口で返す輝に、男は一切気にせず、ジロリと睨みつけて続けた。
???「お前、喧嘩強いのか?」
輝「死ぬほど弱い」
???「じゃあ興味ねぇ〜。帰るわ」
輝「お、おう……」
あまりに唐突すぎる登場と退場。嵐のようにやってきて、嵐のように去っていった。
輝「神田……あいつ誰だっけ……」
神田「あいつは……」
ドンッ!
突如、教室の扉が大きな音を立てて開き、さっきの不良が派手に吹っ飛んできた。
床を転がる姿に、教室全体が一瞬静まり返る。
輝&神田「!?」
???「いってぇ……」
その直後、扉の向こうから影が差し込む。
巨体――いや、“壁”のような男が悠然と入ってきた。
???「またお前か、問題児……」
???「新多……!」
――新多 優。
輝の学校の生徒会長にして、身長190センチを超える堂々たる長身。
正義感に溢れ、困っている者を助け、悪さをする者を決して許さない。
学校の象徴ともいえる存在でありながら、生徒たちにとっては“頼れる兄貴分”でもある人物だ。
吹っ飛ばされた男は、よろよろと立ち上がり、血走った目で新多を睨み返した。
???「いちいち俺に突っかかってくんじゃねぇよ!」
新多「獅子堂……。お前が弱い者いじめをするからだろうが」
獅子堂「ちっ……」
――獅子堂 炎次。
その名を聞いただけで、周囲の生徒たちがざわめく。
普段の素行は悪く、授業をサボり、教師に反抗し、廊下を歩けば避けられる。
金髪に近い明るい茶髪、耳には校則違反のピアス。制服は着崩し、ネクタイはだらしなく垂らしっぱなし。
表向きはただの不良に見えるが――喧嘩の腕っぷしだけは確か...
誰彼構わず襲うわけではない。弱者に対しては無闇に挑まない、強者や自分より格上の相手には見境なく突っかかる。
しかし――新多 優だけは別だ。
どれだけ反抗しても、彼だけには敵わない。
力でも、正義でも、周囲からの信頼でも、常に完敗してしまうのだ。
ここまで読んでくれてありがとう!
今回は新キャラが一気に登場して、だいぶ賑やかになった回でした。
嵐のように現れて去っていった九条と獅子堂、そして圧倒的な存在感で現れた生徒会長・新多。
彼等は、今後の物語に大きな影響を与えていくことになる……はず。
次回からは、さらに波乱が巻き起こっていくのでお楽しみに!
次回ーー18話:輝の過去




