11話:狩る者
霊の墓場――そこは噂だけが独り歩きし、誰も真相を知ることのない場所。
そこに足を踏み入れた霊は、二度と戻らないとも言われる。
前回、依頼を受けた輝とパドはついにその禁域へ向かうことを決意する。
だが彼らを待っていたのは、霊でも妖怪でもない、“別種”の脅威だった。
狩る者と狩られる者。
境界線が消えたとき、生き残るのは――。
【登場人物】
主人公:気道 輝
パド
バク
死神
輝とパドがバスに乗り込み、目的地へと向かう。
輝「師匠が帰ってくる前に戻れるかな……」
パド「ギリだね。最悪バレたら私も一緒に謝るよ」
輝「……ごめん。ありがとう」
その時、天井から蜘蛛が糸を垂らして降りてきた。
輝「あっ、蜘蛛か。逃がしてやろ」
手を伸ばした瞬間――
蜘蛛「汚い手で触るな」
輝&パド「!?」
輝「しゃ、喋ったぁ!?」
蜘蛛「いちいち騒ぐな。面倒くさい」
輝「……すんません、って違うわ!!蜘蛛が喋ったら誰でも驚くでしょうが!」
蜘蛛「はぁ……私は蜘蛛じゃない。“女郎蜘蛛”という名前がちゃんとあるの」
パド「女郎蜘蛛って……有名な僧侶に名前をつけてもらった、あの女郎蜘蛛!?」
女郎蜘蛛「そうよ。あの女郎蜘蛛は私のこと」
パド「あ、握手してください!」
輝「……話についていけねぇ」
女郎蜘蛛「霊と会話できるあなたが気になって、姿を見せてあげたの。あなた何者?生まれつき見える子?それとも後天性?」
輝「どっちかというと後天性。視る方法を教わったから」
女郎蜘蛛「なるほど。師を持った子なのね」
女郎蜘蛛が周囲を見回す。
「……にしても、このバスに乗ったってことは、あなた死んでるの?」
輝「え?いやいや、生きてますけど!?」
女郎蜘蛛「このバス、“あの世行き”よ?」
輝は勢いよく席を立った。
輝「嘘だろ!?」
パド「え〜、全然気づかなかった〜……」
その時、車内アナウンスが響く。
《次は〜霊の墓場〜霊の墓場〜》
輝「あれ?ここ目的地だぞ」
女郎蜘蛛「……降りない方がいい。あなた、誘われてる」
輝「誘われてる?」
女郎蜘蛛「“霊の墓場”は滅多に停車しない。普通は降りられないのに、このバスが止まった。つまり――あなたを指名してる相手がいるってこと」
パド「降りるの……?」
輝「降りるさ。指名されたなら、逃げるわけにいかない」
女郎蜘蛛「……仕方ないわね。帰り道は案内できるから、同行してあげる」
輝「助かる」
――キィィ。
バスが停車し、目の前には墓場が広がっていた。
パド「気を引き締めていこ!目的は“行方不明者の捜索”だよ!」
輝「あぁ、分かってる」
霊の墓場を進むうち、泣き声が四方八方から響いてきた。
輝「どこからだ……?」
女郎蜘蛛「……全方向ね」
その時、輝の足元に何かが触れた。
輝「ひゃっ!?」
???「バク〜」
女郎蜘蛛「安心して。この子は“バク”。夢を食べて生きる弱い妖怪よ。こんなとこに居たら死んじゃうのも時間の問題ね」
輝「じゃあ連れてってやるか……可哀想だし」
輝はバクを抱きかかえ、両肩にパドと女郎蜘蛛を乗せたまま歩き続ける。
輝「もっふもふだな、こいつ」
やがて泣き声は途絶え、前方に人影が見えた。
輝「大丈夫ですか!?」
遭難者「ひ、人……ですか?」
輝「そうです!あなたを探してきたんです!」
遭難者は泣き崩れた。
「急にこんな場所に迷い込んで……2週間も彷徨ってたんです……助かった……!」
輝「顔写真と一致する。間違いなく依頼された遭難者だ」
パド「じゃあ帰ろ!目的は達成したんだし!」
だが、女郎蜘蛛が輝の耳元で囁いた。
女郎蜘蛛「……輝。その人から離れなさい。全速力で」
輝「え?なんで――」
次の瞬間、遭難者が立ち上がると同時に手から鎌を出し輝へと斬りかかってきた。
輝「うわっ!」
パド「輝!?大丈夫!?」
輝「ギリで避けた!こいつ、一体……」
遭難者の姿が黒い靄に覆われ、声が変わる。
「……ちぃ、すばしっこいガキだな」
女郎蜘蛛「やっぱり……あれは“死神”。遭難者の魂を狩り、身体を依代にしている」
輝「つまり、依頼主の遭難者はもう……」
女郎蜘蛛「そう。すでに殺されている」
死神が本来の力を解き放つ。
ブワッッッ――!
その圧に全員の身体が硬直する。輝は歯を食いしばり叫んだ。
輝「逃げろぉッ!!」
死神が迫る。
輝「どんどろ……いや、牛鬼以上……桁違いの強さだ!」
パド「やばいやばいやばい!!」
女郎蜘蛛「出口はあっち!」
光に満ちた出口が見える。
輝「うおおおお!!」
死神の鎌が輝の首に迫る――その直前。
――ズザザッ!
外の世界へ飛び出していた。
輝「……助かった……のか?」
女郎蜘蛛「ええ、もう大丈夫。ここはバス乗り場よ」
振り返ると、あの世行きのバスに乗る前の場所に戻っていた。
パド「戻ってこれた〜!」
輝「でも……あの死神、今の俺たちじゃ勝てない。戦力を補充しないと……」
パド「バラバラになってるみんなが帰ってこないとまずいね」
輝「ああ」
女郎蜘蛛「他にも仲間がいるのね」
輝「そう!君も来る?」
女郎蜘蛛「遠慮しておくわ。私には私のやることがあるから」
輝「そうか。ありがとう、またどこかで!」
パド「ばいばーい!」
バク「バク〜!」
輝「バク〜〜!」
パド「その子、連れて帰るの?」
輝「……愛着湧いちゃった」
バク「バクッ!」
輝「一緒に帰るか!」
バク「バク〜!」
パド「じゃあ急ご!時間ないよ!師匠に殺される!」
――輝たちは新たな仲間(?)を連れ、バス乗り場を後にした。
11話「狩る者」お読みいただきありがとうございました。
今回は“死神”との初遭遇回。
輝たちは依頼された遭難者を救出するはずが、まさかの正体は死神と魂が混ざり合った存在。圧倒的な力を前に、ただ逃げるしかないという結果になりました。
「今のままでは勝てない」――この絶望と決意こそが、後に続く仲間たちとの再会、そして強化の物語への大切な土台になります。
バクや女郎蜘蛛といった新たなキャラクターも登場し、少しずつ舞台は広がってきました。
次回 12話「妖飼い隈」です!!