1話:才の持ち主
今回の登場人物
主人公:気道 輝
謎のご老人
いつも通りの帰り道――。
それなのに、胸の奥をざわつかせる底知れぬ焦燥感が俺を急かしていた。
足早に通り過ぎようとしたその瞬間、
「お主……あるよ。才が……」
――突如、住職のような正装を纏った見知らぬ老人に声をかけられた。
困惑しつつも、俺は素っ気ない態度で立ち去ろうとする。
だが、老人はあきらめることなく、家の近くまでぴったりとついてきた。
しびれを切らした俺は、ついに問いかける。
「……なんですか。才って」
すると老人は、まるで待っていたかのように頷いて言った。
「才は才じゃよ。お主には、呪霊操術の才が溢れ出とるのじゃ」
得意げに語るその口から、次に飛び出したのは、予想外の一言だった。
「どうじゃ、儂の弟子にならんかの?」
俺は――特に取り柄のない、何者でもない人間だ。
それでもそのときは、ふとこう思った。
(……もう、どうにでもなれ)
「……わかりました」
そう返事をすると、老人は満足げに笑い、言った。
「明日迎えに来る。準備しておくのだな」
「はいはい……」
軽く流して振り返ると、そこにもう老人の姿はなかった――。
──翌朝。
昨夜の出来事が頭から離れず、結局一睡もできなかった。
あれは夢か冗談だろうと思い、荷造りなど何もしていない。
「……コンコンッ」
突然、窓の方から音がした。
目を向けると――そこには昨日の老人が立っており、こちらへ手招きしていた。
「ほれ! 迎えに来たぞ!」
「何も準備しとらんではないか!」
驚きのあまり棒立ちになる俺に、老人が一喝する。
「はよせんか!!」
その声でハッと目が覚め、慌てて準備を始めた。
俺に迷う理由はなかった。
両親は――俺が小六のときにこの世を去った。
その場に俺も居合わせたはずだが、あまりの衝撃で記憶は途切れ途切れ。
思い出せるのは、せいぜい薄れかけた両親との日常の断片だけだ。
……もう、どうでもいい。
そう考えることで、ようやく自分を保ってきた。
簡単に身支度を整えると、俺はまっすぐ老人のもとへと向かった。
――そして、始まった。
霊能者になるための修行の日々が。
2ヶ月にわたり、朝から晩までの修行。
最初こそ「つらい」「帰りたい」とこぼしていた俺だったが、
やがてその気持ちも次第に薄れ、自分が何を目指しているのかさえ、分からなくなっていった。
ただ――老人が毎日のように口にしていた言葉がある。
「困った人が居たら、迷わず助けよ……それが、ワシの信じてきた道なのじゃ」
「輝や……お主が傷つくのは見たくはない。じゃが、心優しいお主ならば、きっと助ける判断を取るじゃろう?」
その言葉を耳にするたび、胸の奥に何かが積み重なっていくのを感じた。
他人を想う気持ちが、日に日に強く、大きくなっていく――まるで、それこそが自分に課せられた使命であるかのように。
やがて修行が終わり、霊の知識を身につけた俺に、
師匠――そう、あの老人は言った。
「お前は凄い才の持ち主じゃったよ。儂の目に狂いはなかった!」
「2ヶ月ちょいで習得するとは、たまげたもんじゃ!」
そう言いながら、俺の背中を思い切り叩いた。
「バシッ!!」
「痛ってぇ! なにすんだよ!」
師匠はニヤリと笑う。
「ホッホ……気合を入れてやったんじゃ。気張れ、初任務じゃ!」
そう言って手渡された一枚の紙には、住所と「武運を祈る」とだけ記されていた。
「……行ってきます、師匠」
そう言い残し、俺は寺を後にした。
バスに揺られ、紙に書かれた場所へと向かうこと約20分。
「ふぅ〜、着いたぁ〜……」
バスから降りた瞬間、
「ズン……」
地面が揺れるような、不穏な気配が足元から伝わる。
視線を上げた俺の目に飛び込んできたのは、
――目的地、『不死の塔』。
異質な空気をまとい、そこに、そびえ立っていた。
はじめまして、こんばんにちは!
小説はこれが初めての挑戦で、まだまだ未熟な“ど素人”です。
読んでくださって本当にありがとうございます!
もしかすると、「あれ、どこかで見たことあるような…?」という展開や表現もあるかもしれませんが、あくまで趣味として、自分なりに楽しみながら書いています。
どうか、温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
ストーリーはすでにシーズン3 第4章まで構想済みなので、
これからどんどん盛り上げていく予定です!
次回は――
第2話『初陣戦』、ぜひお楽しみに!