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夏休み前の終業式も終わり、後は帰宅するばかりとなった、何時もより早い放課後の事。
ガタガタと椅子が床を擦る音の中、一人の女子生徒が鞄を手にした岸田愛子を呼び止めた。
「愛子、明後日海に行かない?
兄貴が車出してくれるって言ってるんだけど」
その声に手を止めて少し考える。
「海? ん~……」
「海! いいじゃん! 行く行く~♪」
反応したのは仲良しグループの一人で、連鎖的に他のクラスメイト達もわらわらと集まってくる。
愛子が返事をする前に、あれよあれよと人数は増え、クラスでも……いや、全学年を通してモテ男子である大崎弘人も手を上げている状態だ。
当然愛子も狙っていて、ことあるごとにアピールはしているのだが、大崎は全く靡いてくれない。
そんな訳で、普段なら一も二もなく参加表明するのだが、愛子は難しい顔で黙り込んでしまった。
「愛子?」
少しおバカなところも可愛く、持ち前の明るさでクラスの人気者な愛子の普段と違う様子に、声を掛けた女子生徒は心配そうに顔を曇らせた。
「もしかして調子悪い?」
「ううん、そうじゃないんだけど…」
大崎が行くなら是非とも参加したい所だが、海となれば話は別だ。
愛子は海が……いや、水が苦手なのだ。
高校受験の時も、プール授業がない所が決め手でこの高校を選んだくらいに水を嫌っている。
最早嫌いを通り越して恐れていると言ってもいい。
今ではそんな事はしないが、一時期は洗顔やお風呂さえも怖くて、泣いて嫌がっていたそうだ。
『そうだ』と、何処か他人事のように言ってしまうのは、何も覚えていないから…。
当然、何が切っ掛けでそうなったのかも覚えていない。
「ごめん、ちょっと先約があって無理そう」
「えー残念……愛子が来ないなんて兄貴に締め上げられる~~」
泣き真似をして笑う彼女に、曖昧な笑みで手を合わせる。
「ホント御免。
実はさ、今日帰ったら田舎に行かないといけないんだよ。
お婆ちゃんが……ね」
愛子の表情からクラスメイト達は何か感じ取ったのか、揃って神妙な顔つきになった。
「そっか…ぁ、じゃあ戻ったら連絡してよ。
そんで気晴らしに遊ぼ?」
「うん、ありがとね」
「ううん、こっちこそ引き留めてゴメン」
口にした理由は事実で、ずっと疎遠だった祖母の葬式に田舎へ行く事を告げられたのは今朝の事だった。
実際の所そう言われても、愛子自身は行っても行かなくてもどっちでも良いようだった。
だからあまり気が進まなかった事もあって、家で留守番が良いかなと思っていたのだが、海へのお誘いの断り理由に使ってしまった手前、本当は嫌だったが行くしかないかなと考える。
ただ、ずっと幼い頃にその田舎――小縁村と言うらしいが、其処へは行った事があるはずだった。
何時頃だっただろう……中学に上がる頃にはもう行かなくなっていた気がする。
愛子は気持ちを切り替えるようにふぅと小さく息を吐いてから、家路へとついた。
後にこの決断を後悔するとは夢にも思わないまま……。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>