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6 ルカのレッスン

「ルカは、スキルって持ってる?」


 参考書の山の横にいる護衛騎士に質問した。ルカは、3年前に学園を卒業してるんだけど、優秀クラスだったんだって。だから、私の家庭教師をお願いすることになった。


 スポーツ万能のうえ、頭もいいなんて、きっと学園時代は一軍の男子だったのにちがいない。


「どうでしょう?」


 質問に、さわやかな笑顔で返される。


「どうでしょうって、つまり持ってないってこと? それとも言いたくないってこと?」


「どっちだと思いますか? ところで、お嬢様は、スキルはありましたか?」


「えーと、うーん。どうで、しょう?」


 思わず、同じ答えを返してしまう。私のスキルは、私と父と家令の三人だけの秘密にすることになった。もしかして、ルカにも、人には言えないスキルがあるってことなのかな。


 にこにこ微笑みながら、ルカは私の小テストの採点をする。

 ああ……ほぼ全滅だ。

 仕方ないよね。アリーちゃんは、今まで勉強なんて、したことなかったもんね。お人形遊びと木登りが得意だったよ。クミンの実を、びちゃびちゃになりながら、おいしく食べることも上手だったね。


 テキストのページをめくりながら、ルカの横顔を眺める。

 リハルト様は今22歳だから、ルカと同じぐらいの年齢だよね。

 同じ時期に学園に通ってたんだったら、リハルト様のことを知ってるかな? きっと、リハルト様は有名人だったよね。あんなにかっこよくて、何でもできるんだから。


「お嬢様、真剣に学んでくださいね。後でもう一度、テストしますよ」


「はーい。がんばります」


 いけない、いけない。全力で勉強して、試験に合格して、魔法の杖を手に入れて、冒険者になって、リハルト様を探さなきゃ。ああ忙しい。愛を告げに行くために、やることがいっぱいある。


 まあ、勉強は嫌いじゃない。魔物生態学は、小説の設定資料を読んでるみたいでおもしろいし。ただ、問題は……。貴族法と宮廷礼法。それから、宮廷舞踊……。


「座ってばかりでは、気が滅入るでしょうから、後でダンスの練習もしましょう」


 私の考えを読んだのか、ルカ先生は、今日の時間割にダンスも入れて来た。


「ダンスもルカが教えてくれるの?」


「もちろん。お嬢様の初めてのダンス相手を務められて、光栄です。あ、閣下に怒られそうですけどね」


 アリーちゃんは、結婚式でもダンスを披露しなかったんだよね。まあ、アリーちゃんは、ダンスを覚えることはできなかったから。

 でも、今さらながら、ガイウスとダンスしなくて良かったよ。ピッタリくっついて踊る新郎新婦のチークダンスなんて、おぇっだよ。ああ、やだやだ。

 そう言えば、アリーちゃんのファースト・キスはガイウスだった。うわぁー、最悪!! ひどすぎる! 思い出すたびに、唇をごしごし洗いたくなるよ。ああ、リハルト様で上書きしてほしい~。

 もう、泣きそう。気持ち悪すぎる。今度、裁判で顔を見たら、殴ってしまうかも。大丈夫かな、裁判。


「お嬢様。勉強に身が入らないようですが、もしかして来週の裁判が不安なのでしょうか?」


 ルカが、私の顔色をうかがいながら、質問してきた。

 もしかして、ルカのスキルって、心読みとかじゃないよね。まさかね。


「裁判も不安だけど、リハルト様に会えないのが、悲しい」


「そうですか。まあ彼は、一人でいることを好んでいましたので。学園時代も、誰も側に寄せ付けませんでした。きっと、ダンジョンにも行先を告げずに、一人で潜られているのでしょう」


「リハルト様を知ってるの?!」


「ええ、もちろん。学園始まって以来の優秀な学生との評判でした。剣術の試合では、常に優勝していましたよ。誰にも負けなかったです。ああ、もちろん閣下は別ですよ。閣下は、人外ですからね」


 いやいや。うちの父は、一応は人族だよ。





 ※※※※※


「それで、……お嬢様は、リハルト様のどこがお好きなのですか?」


 ルカにそう聞かれたのは、ダンスのレッスンを受けている時だった。


 え、待って、待って。今、ステップを間違えずに踏むのに精いっぱいで、しゃべってる余裕なんてないんだけど。


「あ!」


 ほら。リズムが崩れて、足がもつれてしまった。

 転びそうになるのを、ルカが、筋肉質な腕で支えてくれる。


「無理むり。踊りながら話をするのって、難しすぎるよ」


 弱音を吐いて顔をあげたら、ルカの顔がすぐ近くにあった。

 あわてて離れる。

 前世では、彼氏いない歴が年齢だった私にとって、この世界のダンスは難易度が高すぎる。

 家族以外の男性と、こんなにも接近するのは、恥ずかしいよ。

 アリーちゃんだった時は、無邪気に、リハルト様にべたべた抱き付いてたんだけどね。


「大丈夫ですよ。お嬢様はリズム感がありますから。ダンス初心者にしては、踊れてますよ」


「そうかな?」


 前世では大学の時に、ダンスサークルにちょっとだけ入ってたから、何とかなるかなって思ってたけど、社交ダンスは初めてだった。実際にやってみると緊張する。だって、この距離感! 

 片方の手はつないでて、もう一方の手は、背中にあるって、どういうことなの?! 近すぎるよ。

 ドキドキしてしまうじゃない。


 だって、ルカは、なんかいい匂いがするし。

 それに、ルカの目の色は、リハルト様と全く同じ青色だ。

 貴族にはよくある瞳の色らしいけど、なんか、リハルト様と踊ってるみたいで……。

 それに、ルカは、顔は普通なんだけど、なんか、かっこいいし……。


 いやいや。私にはリハルト様がいるんだからね。


 ああ、もう。これ、本当に試験に必要なの? 魔法を習うのに、なんでダンスをしなきゃいけないのよ?


「魔法学園の聴講生試験は、魔力の多い平民が受けるものですから」


 ルカが私の表情を読んだのか、説明してくれた。


「貴族の魔力が減少しているため、平民でも、魔力の多い者には、杖を授けることになったのです。聴講生制度を導入して、履修後には準貴族の身分を用意してあります。ですが、平民が貴族と同じ学園に入るためには、それ相応の教養が必要であるため、試験はかなり難しくなっているのですよ」


「えー? それじゃあ私、聴講生になるよりも、1浪して、普通に貴族として学園に入った方が、良かったんじゃない?」


「それはどうでしょう? 聴講生は家から通えますが、本科生は入寮しなくてはいけませんからね」


「え? 寮生活なの? それはいやだな。じゃあ、聴講生でいいや」


 寮で生活するなんて、絶対無理だよ。しんどいよ。だって、貴族のお嬢様に囲まれるんだよ。「ごきげんよう」とか言うんでしょう? 肩が凝りそう。


「では、もう少し練習しましょう。足元を見ずに、顔をあげて会話を楽しむレベルまでの上達が必要です」


 うわぁ。先は長そう。だって、顔をあげたら、すぐ側にルカの顔があるんだよ。恥ずかしすぎるよ。

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