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37 別れ

 翌日、父は、家を出て行った。

 領地に戻ったわけではない。


「ダンジョンに潜るぞぉ! 領地は心配ない。スタンピードが起きたばかりだからな。しばらくは、魔物もおとなしいだろう」


 そう言って、ウキウキと楽しそうに出かけて行った。

 遊びに行ったんじゃないことは、分かっている。私の学費を稼ぐためだ。


「閣下なら大丈夫ですよ。Sランクですからね。すぐに大金を手に、戻ってくるでしょう」


 ルカはそう言って、慰めてくれた。

 そのルカとも、もうすぐお別れだ。


 あれから、ルカに気持ちを伝えようとした。「あなたが好きです」って、行動で示そうとした。

 料理人のおばあちゃんのアドバイスに従って、恋心を伝える方法を試してみた。こんな感じで。



 「ルカ。クッキーを焼いたの。食べてみて」 


「男の気持ちをつかむには、まずは胃袋から」って教えてもらったからね。この世界でも、好きな人に手作りのお菓子を渡すのは、告白の定番なんだって。(作ったのは、ほぼ料理人のおばあちゃんだってことは、内緒。だって、異世界の調理器具って、扱いが難しいんだもん)


 ルカは書類を書く手を止め、私を見て、にっこり笑った。


「おいしそうですね。いただきます」


 上品な仕草で、クッキーを手に取るルカに、ちょっと見とれる。やっぱり、……かっこいい。

 この笑顔が、大好き。

 一口かじって、青い瞳をキラキラ輝かせている。

 ああ、もう。好き、好き、大好き。


「とてもおいしいです」


「よかった! 今日はね、チョコチップクッキーにしたんだけど、他にもね、レモンピールとかナッツとかを入れても作れるんだよ。ね、どんな味にしたらいい?」


 さりげなくルカの好みの味を知ろうとしたのに……。


「そうですね。リハルト様は、学園の食堂では、ナッツ入りパンをよく注文していました。プレゼントするなら、甘いものよりも、木の実入りがいいのではないでしょうか。……ですが、お嬢様の手作りでしたら、何を入れても喜んでくださるでしょう」


 って返された。

 え? 違うってば。

 リハルト様じゃなくて、ルカの好みが知りたいんだよ。


「ただ、リハルト様は毒の混入を警戒されていましたので、人伝手に渡すよりは、直接、手渡した方が良いと思います。お嬢様からのプレゼントなら、リハルト様は、きっと大喜びで受け取られるでしょう」


 なんで? 

 だから、なんでリハルト様の話になるの? 

 ってか、ルカって、そんなにリハルト様と親しかったの?


「なんでそんなこと分かるのよ」


「それは、お嬢様のリハルト様に対する熱い想いを、毎日聞いていましたから。きっと、お嬢様の想いに、リハルト様も答えてくださると思います」


 とか言い出す。


 なにこれ。

 私って、全く相手にされてないのかな?


「あのね、ルカ。わたし、リハルト様のことは、もういいかなって思うの……」 


 今は、リハルト様じゃなくて、ルカのことが気になるの。そう続けようとしたのに。


「ダメです! お嬢様、絶対に、あきらめてはなりません! お嬢様のリハルト様に対する想いは、そんなものではなかったでしょう?!」


 強く反対されてしまった。

 なんで?


「いや、でも……。だって、ずっと会ってなかったし。それに、リハルト様にとっては、私って、妹みたいなものかなって思うし、向こうも迷惑だよね。きっと」


「そんなことはありません! お嬢様の成長した姿を見れば、リハルト様は、必ずお嬢様を好きになります! もっと自信を持ってください。私も全力で協力しますので!」


 って言われてしまった。

 好きな人に、他の人との仲を全力で協力されるなんて……。

 ああ、これって、私、フラれてるのかな?

 全く、脈ナシってこと?


 ルカは、私がリハルト様を好きだと思ってるから。

 だから、何をしても、リハルト様との仲を応援されてしまう。

 ルカのために焼いたクッキーも、リハルト様への告白の練習だって思われてる。


 分かってるよ。

 私は、ルカには、女性として見られてないんだよね。

 私は彼の護衛対象だから。ただの仕事上の関係者に過ぎないから……。


 だから、もう、これ以上ルカに何も言えなくなった。


 学園の寮に入る日まで、ルカ先生と一緒にまじめに勉強するだけだった。今の私には、それが精いっぱい。


 そして、一生懸命に考えたルカとのお別れの言葉は、これだった。


「ルカ。私、絶対に、学園で一番になるから。それで、冒険者になって、ダンジョンに行って、強い魔物を倒して、大金持ちになる。そうしたら、また、護衛として雇ってもいい?」


 虚勢を張って、早口でお願いしたら、ルカは、ふっと、とろけるように笑った。もうっ、大好き。


「私の雇用料金は、高いですよ」


「平気よ。いっぱい稼ぐんだから。ダンジョンじゃ、きっと負け知らずよ。だって、私には、ドラゴンがついているんだからね」


「ピッ」


 私の言葉に、ルカの膝の上で丸まっていた赤ちゃんが返事する。

 今はまだ、花火程度の炎しか吐けないミニドラゴンだけど、成長したら、魔物をいっぱいやっつけてくれるはず。それで、私は冒険者としてランクを上げて、ルカの前に現れるの。そうしたら、認めてもらえるかな?


 最初は、リハルト様に会うために冒険者になりたかったんだけど、今は、ルカのためにがんばりたいって思う。


 でも、いつかは、初恋のリハルト様にも会いに行くよ。

 ありがとうって、感謝を伝える。彼の存在は、私をたくさん助けてくれたから。アリーちゃんの初恋の思い出に……。



 ドラゴンの頭をなでるルカを見つめる。


 彼と離れたくない。明日から会えなくなるって考えただけで、泣きたくなる。

 でも、今の私は、すごく弱いから。彼の護衛対象でしかいられない。守ってもらうばかりで、全く相手にされてない。それなら、もっと強くなるしかない。そして、もう一度、護衛として雇うって理由で出会えたら、その時に、彼の隣に立つことができるくらい強くなったことを証明して、認めてもらうの。


 ただの護衛対象じゃないって、分かってもらうの。

 それから、彼に気持ちを伝えよう。今度はちゃんと、はっきり言うね。


 学園生活は、不安でいっぱいだけど、目標ができたから。

 私、もっと、がんばるね。



 ※※※※※※


 その夜、私は夢を見た。


 夢の中で、愛用のスマホを手にしている。


「あー! スマホゲーム! 裁判のゲームは、役にたったよ。ヒントは分かりにくいし、勝った気は全然しないけど。次は何のゲーム?」

 

 知らないアプリが、一つだけ入っている。


「『歪んだ愛♡アブノーマルロマンス~魔法学園は危険がいっぱい~』……?」


 恋愛ゲームかな?

 アブノーマルってことは、もしかしてR18?

 今の私は16歳だけど、前世と合わせたら、とっくに成人してるから、いいよね?

 ドキドキしながら、アプリを起動する。

 校歌風の音楽とともに、アニメ絵が流れ出した。


「危ない恋がいっぱい♡ あなたは誰に選ばれる?」


 攻略対象キャラの名前と絵が次々に現れる。


「たっぷり愛をそそいであげる。僕の子供を産んでくれ。側室にしよう ~絶倫王太子ヴィルフリート」


「君は、兄上の役に立ちそうだ。病める時も健やかなる時も、共に、兄上のために生きると誓え。兄上に、心も体も捧げるのだ。 ~ブラコン王子アルフレッド」


「私の研究対象になってほしい。あなたのすべてを知りたい。さあ、ドレスを脱いでごらん。~サイコパス魔法教師ヨナス」


「僕を養って! 高貴な僕には、たくさんのお金が必要なんだ。その代わり、毎晩、喜ばせてあげるよ。~無職ホームレス平民ガイウス」 



 どさり


 スマホをベッドの上に落とした。


 ……なに、このゲーム……。

 キャラクター全員が、気持ち悪いんだけど……。

 特に、最後に出て来た「無職ホームレス平民ガイウス」って、あのガイウスのこと?!

 あいつ、侯爵家から追い出されたの?


 まさか、ね。……これはただの夢? 夢だよね?!


 そんな魔法学園、行きたくなーい!! 

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