表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/39

3 リハルト様を探しに

「お願いします! 教えてくださいっ!」


「だから、何と言われようと、無理なものは無理です」


 冒険者ギルドの受付で、90度に頭を下げた。

 でも、きれいなお姉さんは、かたくなに拒絶する。


「私、夫に裏切られたばかりなんです。あいつ、浮気相手を妊娠させて、私を殺そうとしたのよ。ひどいと思いませんか? だからね、立ち直るために、新しい恋のために、どうしても必要なんです!」


「そのようなこと言われても困ります。規則ですから」


「そこを何とか! あ、そうだ。これ。これでお菓子でも買って?」


 財布からきらりと光る銀貨を一枚取り出して、すっとデスクの上に滑らせる。


 受付のお姉さんは、それを目で追ってから首を振って、「規則です!」と強く3回繰り返した。


 はあ、やっぱりダメかぁ。


 がっくりとギルドの床に崩れ落ちる。


 美人受付嬢にカスハラしてしまった。

 ごめんなさい。

 だってね、そうでもしないと、他に方法がないんだから。


 もうっ! 

 こんなに探してるのに、どうして会えないの?

 愛しのリハルト様!



 私の名前はアリシア・カイザール。

 南の辺境伯アーサー・カイザールの一人娘よ。

 引きこもりだった私だけど、王都では、今はちょっとした有名人になっているの。

 婿入りした夫を、お家乗っ取りの罪で訴えたから。

 ちゃんと裁判して、決着をつけなきゃね。


 白い結婚だったことを認めさせて、婚姻歴を消し去りたいの。

 だって、普通に離婚したら、経歴に傷がついちゃうじゃない?

 私とリハルト様の未来のために、綺麗な戸籍と体が必要なの!


 リハルト様は臣籍降嫁して、一代限りの大公になったとはいえ、元王子でしょう? 結婚相手に元人妻を選んだりしたら、きっと、周囲からいろいろ言われると思うの。ただでさえ、王妃に嫌がらせをされてるんだから。私が足を引っ張ることはしたくない。


 まあ、でも、それは私のプロポーズに、リハルト様が応えてくれたらの話なんだけどね。

 とにかく、一刻も早くリハルト様に私の気持ちを伝えなきゃ。小さい時からずっと好きですって。それで、もしも、リハルト様が受け入れてくれたら。うん。今度こそ、幸せな結婚ができるよね。


 ってわけで、リハルト様が管理している領地に手紙を送ったんだけど、


「主様はダンジョンに出かけて、ここには帰ってきておりません」


「帰宅の時期は、知らされておりません」


 って、執事からそっけない返事が来た。


 リハルト様~。どこにいるのよ。



 ダンジョンにいるってことは、もう冒険者として活躍中なんだよね。

 だから、小説の中で、リハルト様が使ってた冒険者名を思い出して、王都の冒険者ギルドに情報を聞きに来たんだけど……。


「Sランク冒険者『漆黒の魔王』についての、個人情報は保護されております。また、指名依頼は受付けておりません」


 全く教えてくれない。賄賂も効かない。


 ああ、どこにいるの? 私のリハルト様。

 でも、もうすでにSランクになってるんだ。早くない? すごいよ。さすがは私の未来の旦那様。(気が早すぎる?)


「お嬢様、もう帰りましょう」


 だらしなく座り込んだ私の腕を取って立たせるのは、護衛騎士のルカだ。

 ドレスについた土埃を叩いて落としながら、騎士の顔を見上げる。

 街歩きのお伴に、父が雇ってくれたのは、若い騎士だ。たしか、どこかの子爵家の五男って言ってたかな? 最近、我が家に来たばかり。


「ギルドの受付嬢に聞いても、無駄だと思いますよ。どこのダンジョンにいるのかは、きっと彼女も把握していないでしょう」


「うん、そうだよね」


 ダンジョンは、国に10か所以上ある。そのうちの一つだけでも、攻略するのに1年以上かかる。

 リハルト様が、ダンジョンに入りっぱなしだとしたら、どこにいるのかは、本当に分からないよね。

 がっかりしながら、ルカと一緒に出口へ向かう。


 護衛騎士のルカは、茶髪に青い目で、どこにでもいるような平凡な顔立ちをしている。だけど、周囲の目を自然と引き付ける。立ち居振る舞いに品があるからだ。今だってほら、さりげなく私をエスコートしてくれてる。だから、女性の冒険者たちの注目を集めている。


 背が高くて、頭が小さいんだよね。何頭身だろう? 顔は普通なんだけど、なぜか、かっこいい。それに、騎士としての実力も、父のお墨付き。採用試験で打ち合った父が、べた褒めしてた。といっても、父にはぜんぜん勝てなかったみたいだけどね。


「閣下に勝つには、人間をやめないといけません」


 にっこりと青い瞳で微笑んで、扉を開けてくれた。

 あれ? 私、口に出してた?


「でも、お父様ほどじゃなくても、ルカも結構魔力が多いんでしょう? ねぇ、ルカが冒険者になったら、すぐにSランクになれる?」


 リハルト様みたいに、Sランク冒険者って多いのかな?


「いや、まさか。Sランクになれるのは、ごく少数ですよ。例えば、お嬢様のご両親のように」


 ルカは茶色のサラサラな髪をかき上げながら、さわやかにほほ笑んだ。


「お嬢様なら、すぐにランクが上がるかもしれませんね」


「私?」


 私が冒険者……。

 それでリハルト様と一緒にダンジョン……。

 それだよっ!

 小説では、ヒロインがパーティメンバー募集の張り紙をして、そこにリハルト様が応募してくるんだった。


 そうよ!

 今すぐ私が冒険者になって、リハルト様をパーティに勧誘したらいいんだ!


「ルカ、私、冒険者になるわ。早く手続しましょう!」


 ルカの手をつかんで、くるんと回って、再び受付デスクに向かう。美人受付嬢さんが、迷惑そうに眉をしかめた。


「冒険者になるから、冒険者カードをちょうだい!」


 小説では、みんなカードを持ってたよね。私も欲しい。


「それでは、冒険者資格証明書と登録料をお出しください」


「冒険者資格証明書?」


「はい。国家冒険者資格認定証書もしくは、予備国家冒険者資格認定証です。あ、学生さんでしたら、魔法学園冒険者仮登録証でもかまいません。学生証も一緒にお出しくだされば、学生割引で登録料は半額になります」


 え? なんて? なにそれ。


「私、学校行ってない……」


「貴族様ではなかったのですか? 平民が冒険者になるためには、国家冒険者研修学校の卒業が義務付けられております。入学試験は半年後ですね。では、卒業してからおいでください」


 けんもほろろに追い出された。


「ねえ、私、学校に行ってない、よね?」


 唖然として、ルカを見上げて聞く。

 あれ?

 この世界の貴族って、みんな魔法学園に入らないといけないんじゃなかった?

 たしか、小説のヒロインちゃんも、15歳で学園に入学して、そこでヒーロー君と出会うんだった。


 私は、今16歳。普通の貴族だったら、学園の2年生のはず……?

 だけど、私は、この間までは、半分眠ってる天使のアリーちゃんで、引きこもりだった。病気とかの理由があれば、学校に行かなくていいの?


「お嬢様は、結婚されましたので」


「結婚したら、学校に行かなくていいの?」


「はい、特例で認められております。貴族女性の場合は、学業よりも子供を生むことが優先されます」


 魔力持ちの子供を生むことが、貴族女性の優先事項。

 貴族の少子化対策ってことなのかな? 結婚してたら、学校に行かなくていいんだ。

 女性の役割って、勉強よりも子供を生むことなの?

 前世日本人の私には、なんだかもやもやするんだけど。


 うーん。もしかして、父が私をガイウスと結婚させたのって、学校に行かせないためだったのかな?

 覚醒前の私は、学校で学ぶなんてこと、絶対無理だったから。

 お茶会にも行ったことないし、ほとんど人と会うこともなかった。領地の館からは、出してもらえなかったし、結婚してからは、王都の館で監禁されてた。


 やっぱり、人前に出すのが恥ずかしい娘だと思われてたの? 


「でもね、私、白い結婚で婚姻無効にするよね。そうしたら、どうなるの?」


「一度免除になったので、学校に行く必要はありません。ですが、」


「ですが?」


「魔法の杖を入手できませんので、これから先も、魔法を使うことはできないでしょう」


 !!

 そうだった。

 この世界では、魔法を使うために杖が必要だ。

 魔力の暴走を防いだり、魔法が犯罪に使われるのを防ぐために、学園で杖を貸与されて、制御されるんだ。


 小説では、主人公をいじめた生徒が、学園を去る時に、杖を取り上げられる描写があった。魔法を使えない平民にさせられたのだ。


「魔法が使えなくても、日常生活に不便はありません。しかし、冒険者カードを取得されるのでしたら、魔法なしでは難しいかと」


「冒険者になるのに、魔法が必要なの?」


「いいえ。魔法の使えない平民でも冒険者になることはできます。学校で研修を受けて、魔物討伐試験に合格すれば、予備冒険者資格を取得できます。ですから、平民でも、腕に覚えがある者は、魔法がなくても特に問題ありません」


 ルカは、腰につけた剣をこつんと叩いた。


 剣で魔物を倒せるから、魔法はいらないってこと?


 私は自分の手をじっと見つめる。

 白くて細くて柔らかい手。

 今まで、剣どころか、スプーンより重いものを持ったことがない。


 無理だ。魔法なしでは戦えない。

 それに、私は東の魔女と呼ばれた母と、南の凶戦士と呼ばれた父の娘。魔力はたくさんある。


 せっかく、異世界転生して魔力チートに生まれたのに……。


「私、学校に行く! それで、それで魔法を手に入れて、冒険者になるの!」


 たいへんだ。大急ぎで学園に入学しなきゃ。

 そうじゃなきゃ、私とリハルト様の恋愛ファンタジー小説が始まらないよ!


 だって、せっかく異世界に生まれ変わったのに、魔法が使えないなんて、つまんないじゃない?!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ