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27 来客

 ルカを待っている間、部屋に戻ってテキストを開く。

 彼に出された宿題が、全然終わってないことを叱られたのだ。

 裁判も気になるけど、聴講生試験の日程が迫ってるんだよね。ああ、忙しい。


「王国秘密騎士団?」


 国の組織図を眺めていたら、小さく記載があった。

 これも、夢の中のゲームで、ヒントに出てたよね。


「国王直属の騎士団。その構成や人員は秘匿されている。……って、つまり何も分からないってことね。確か、王国秘密騎士団に抹消された名簿の開示がどうとかって……」


 夢を思い出していると、ノックの音がしてメイドが入って来た。


「お、お嬢様、大変です。あの人が来ました!」


 いつもよりも怯えている。


「あの人って? ルカは帰って来たの?」


「いえ、まだです。あの、女性の弁護士さんが」


「えっ? チチナ弁護士が来たの? なんで? ベンジャミンさんは、まだいる?」


「はい、さっきクッキーを食堂にお持ちしました」


「そう、じゃあ、すぐに呼んで来て。チチナ弁護士は応接室に案内したのね。行くわ」


 身だしなみを整えて、応接室に向かう。

 何の用事だろう? 裁判は、メリッサが退院するまで延期になっているけど、もしかして示談の話し合いとか? 




「突然お邪魔して、申し訳ありません」


 チチナ弁護士は、礼儀正しく頭を下げた。

 いつもと違う。


 じろじろ見つめてしまう。


「ああ、このドレスね。私があんな恰好を、好きでしているとは思わないでくださいね」


 今日は、裁判の時と違って、紺色の地味なドレスを着ている。胸にもちゃんと布が付いていて、首まで覆われている。化粧も全然違う。いつもより地味だ。髪をシニヨンに結って、まじめな女弁護士って顔してる。


「あれは裁判用の服装なの。女が裁判に勝つには、あれぐらいしなきゃダメよ。裁判員はね、ほとんどが男性でしょう? 男って単純よ。自分の好みの女に票を入れたがるの。私は今の所、負けなしよ。女がこの業界で仕事をするには、いっぱい努力が必要なのよ。すごいでしょう。これが私の努力の結晶よ」


 チチナ弁護士は、胸を突き出して、変な自慢の仕方をする。


「それで、今日はどういったご用件ですか?」


 着席をうながしながら、用件をすぐに聞く。

 マナー教本には、季節の挨拶から始めるって書いてあったけど、今はルカ先生もいないから、さっさと進めよう。


「良い話を持ってきてあげたわ」


 チチナはテーブルに書類を並べる。


「ここにサインをして。示談にしてあげる」


 私の前にペンを置く。


 示談? なにかの罠?

 書類を手に取る。


「アリシア様! サインをしてはいけませんぞ!」


 ベンジャミンさんが、バタンとドアを開けて、部屋に駆け込んできた。


「チチナ弁護士! 勝手にやって来て、依頼人と話をしないでください!」


 握ったハンカチをつきつけながら、ベンジャミンさんは怒りの声をあげた。


「あら、失礼。だって、とっても良い条件なんだもの」


 さあ、はやく。と、彼女は私にペンを差し出し、サインをうながす。

 ベンジャミンさんは、あわてて私から書類を取り上げる。


「いったい何を書いてあるんだ?……ん? 結婚は継続? メリッサの産んだ子供を嫡子と認める? なに? メリッサをガイウスの第二夫人にする?!」


 ありえない!

 ふざけてるの?!

 私は、ベンジャミンさんから書類をぶんどって目を通す。

 

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