表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/39

26 違和感

 言い訳をしていると、メイドがようやく祖父母の肖像画を運んできた。もう、遅いよ。

 ルカに手伝ってもらって、父母の絵の隣に飾る。それは、2枚あった。


 一枚目は……、


「これは、若い時のおじいさまと、おばあさまと、それから?」


「おお、なつかしい。先代辺境伯ご夫妻の、若かりし時の肖像画ですな」


 ベンジャミンさんが感慨深そうに、肖像画を眺める。彼は、若い時から辺境で働いていたから、二人を良く知っているそうだ。


 厳しい顔の祖父と、気難しそうな祖母。そして、祖母は腕に赤ちゃんを抱いている。父母の肖像画と同じ構図だ。


『肖像画を見てごらん。違和感を見つけられるかな?』


 ゲームのヒントの言葉を思い出す。

 そんなの。見た瞬間に分かったよ。


「ねえ、この絵って、変だよね」


 後ろに立っているルカに確認する。


「ええ、変ですね。閣下は、父親にも母親にも似てないんですね。両親は、普通の人間の顔をしています」


 いや、そうじゃなくて。

 確かに、細身の祖父と華奢な祖母の絵を見ると、父にはあまり似てないことが分かる。どこの遺伝子なんだろうってくらいに、父はごつごつした筋肉だるまゴリラだ。でも、体つきは違うけど、耳の形とか、眉毛の角度とか、ちょっとした場所に祖父との共通点がある。


 それに、父と祖父は、二人とも全く同じ色合いの、赤い髪と、そして、真っ赤な目をしている。南の辺境伯家の血族眼だそうだ。

 それから、肖像画の祖母が抱いている赤ちゃんの髪と目は……。


「なんでこの赤ちゃん、全身が布に包まれてるの?」


 祖母が抱いている赤ちゃんは、全身を真っ黒の布に包まれている。赤ちゃんの髪も、布のせいで全く見えない。っていうか、祖母が布の塊を抱いてるように見える。赤ちゃんの顔も髪も手足も、布に覆われて隠されている。


「たしかに、おかしいですね。赤子の姿を隠しているような……」


「でも、こっちの、もう一枚の肖像画には、子供の時のお父様が、ちゃんと描かれてるのよね」


 隣に飾ったもう一枚の祖父母の肖像画を指さす。

 1枚目よりも少し年を取った祖父母と、少年時代の父が描かれている。10歳くらいかな。赤い髪も真っ赤な瞳も、後ろに立つ祖父と同じだ。祖父は、柔らかそうな赤い巻き毛だけど、父はまっすぐな剛毛。顔立ちも髪質も全く父に似ていないけど、色は同じだ。


 こっちの肖像画にも、一目で分かる違和感がある。それは、父の横に描かれている巨大な……。


「壺ですね」


 壺だ。

 ルカが言ったように、少年時代の父の横には、大きな黒い壺の絵が描かれている。祖父母の前に立つ父と壺の肖像画。あんまり見ない構図だ。しかも、その壺は、子供の時の父の背丈と同じくらいある。


「ずいぶん適当に描かれた壺ですね。……いや、これは?」


 ルカは手を伸ばして、塗りたくられた黒い絵の具に触る。


「これは、後から描き加えられたんですね」


 そう! そうだよね。絶対に、後から修正されてるよね。何かを隠すみたいに黒塗りされてる! 夢のゲームのヒントだったけど、もしかして、この肖像画が裁判に勝つ解決策を教えてくれるかも。


「絵画の修復士を呼んで、この二枚の肖像画を元の姿に戻させましょうか?」


「いや、それはちょっと、やめた方が」


 ルカの提案に、ベンジャミンさんが、焦ったように、口をはさむ。


「なぜ?」


 ルカが冷たい声で振り返る。


 ベンジャミンさんは、スーツのポケットからハンカチを取り出した。


「いや、その。きっと、理由があって、そういう絵にしたんじゃないかなぁと……」


 もごもごと口を動かす。


 何か知ってるの?

 黒塗りされた肖像画の秘密って何? あ!


「『23年前の秘密』って、夢の中で言ってた!」


 夢で見たゲームのヒント1の言葉を言ってみた。


「なぜそれを!!」


 ベンジャミンさんの額に、ぶわっと汗が浮き上がる。


 やっぱり、何かあるんだ。

 あれは、夢だけど、夢の中のゲームだけど。ただの夢じゃないの?


 ルカが青い目を細めてベンジャミンさんを睨むと、彼はハンカチで汗をぬぐった。


「言えません! 守秘義務です! 弁護士生命に関わります!」

 と言って、口を閉じ、ぎゅっとしわを寄せた。


「すぐに絵画の修復士を連れてきます」


 ルカはさっと身をひるがえして、ドアから出て行った。


 後に残された私は、首をかたむけて、目を大きく見開いて、ベンジャミンさんをじっと見つめたけれど、彼は首をぶんぶん振って、手を口にあてた。

 何も話す気はないようだ。


 肖像画が裁判にどう関係するかは分からないけど、とりあえずルカが戻ってくるのを待とう。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ