24 ゲームチート
その夜、私は夢を見た。
なかなか眠れなくて、毛布にくるまって、ごろごろしていたから。だから、こんな夢を見たんだよね。
前世でも、眠れない夜は、いつもやってたから。
私の手の中には、前世で愛用していたスマホがある。
これこれ! この感触。これがなかったら落ち着かない。
眠る前のゲームが日課だった。
やっぱり、これをしないと1日が終わらないよね。まあ、夢中になりすぎて、一睡もせずに朝を迎えたことも何度かあったけど……。
あれ? 転生する前日の夜も、こうやって一晩中スマホゲームしてたっけ? イベント中だったから、徹夜は仕方ないよね。
まあ、いいや。これは夢だ。夢の中でスマホゲームできるなんて、めちゃくちゃ運が良い! 当たりの夢だよ。さっそくゲームしよ。
データ―消えてないよね? 長年やりこんだアプリゲーム。バリアを張るのを忘れて、敵に攻め込まれてたりしてないかな? いっぱい課金して育てたんだから……。って、あれ?
いつもやっていたゲームのアプリは、入ってなかった。そのかわりに、知らないアイコンが一つだけあった。
「なにこれ? 『異世界裁判』?」
そのアイコンに触れると、ゲームが始まった。
「! これって!」
それは、裁判ゲームだった。
見覚えのあるキャラクターが、証言台でしゃべっている。
「アリシア様がぁ、代理母をやれって命令したんですぅ」
「だってぇ、私は、辺境伯の娘なんだもん!」
メリッサだ!!
今日の裁判の証人尋問が、ゲームになってる!
私は画面の下にある「異議あり」ボタンを連打する。
さすがは私の夢。私の裁判ゲーム。ボタンが押し放題だ。
夢の中だったら、やりたい放題できる。メリッサをやっつけてやるんだから!
「赤ちゃんが卵から生まれるなんてぇ、うっそでぇーす!」
「異議あり!!」
「偽装妊娠で、私の赤ちゃんを盗られるところだったの」
「異議あり!」
「私が、本物の辺境伯の娘よ。だって、ほら綺麗でしょう? この赤い髪」
「異議あり!」
「アリシア様の体って、ちっとも魅力がないのよ。胸なんか、洗濯板よ。だから、ガイ様に抱いてもらえないの」
「異議あり!」「異議あり!」「異議あり!」
はぁ、はぁ。もうっ、どうして!!
「異議あり」ボタンを何度押しても、「根拠を述べてください」「証拠を提出してください」と裁判長にはじかれる。
なんなのよ、このくそゲー!
ゲームの中でくらい、勝たせてもらってもいいじゃない!
私の夢なんだから!!
腹が立って、スマホを投げつけようとしたけど、画面の上部で光っているボタンに気が付いた。
「ヒントボタンだ!」
早速、押す。
『ヒントを利用するには、広告を見てください』
「見るわよ。広告ぐらい。さっさと終わらせてね」
独り言を言いながら、画面を眺める。
どうせ、いつものダイエット薬か、ピンチの王様を助けるパズルゲームの広告でしょう? もう見飽きたよ。
「♪~まだ知らない世界に旅立ちましょう~♪」
あれ? 初めて見る広告だ。新しいゲームかな?
ファンタジー風の建物のアニメ絵から、女性の声が歌うように話しかけてくる。
「私を助けて。お願い。一緒に来て」
胸の前で祈るように手を組んだ黒髪の女性キャラの絵が、画面に現れる。
「この国は、間違っている」
「もっと広い世界に」
「今こそ、結界を破るんだ!」
セリフとともに、男性キャラのアニメ絵が増えていく。
乙女ゲームかな? 好みのキャラは、いないなぁ。
「500ダウンロード突破! ☆評価3! 今なら、結界破壊装置増量ガチャ無料!」
あ、やっぱり、あんまり人気ないみたい。500人しかダウンロードしてないんだ。つまらなそう。
ぼんやり見ているうちに、広告は終わった。
ようやくヒントが流れ出す。
「なになに? え? たったこれだけ?」
画面に現れたのは、『23年前の秘密』とだけだった。
「ちょっと、全然ヒントになってないじゃない! ふざけてんの? そうだ、もう一回、ヒント2を!」
ヒントボタンをもう一度押すと、また広告が流れだす。
「もうっ! 広告邪魔!」
「♪ ピローン ♪ ねえ、知らないって、もったいない」
さっきのアニメキャラの黒髪の女の子が、下着姿でしゃべってる。
「私と一緒に経験しよ♡ 新しい世界の扉をあ・け・て」
くねくね体を動かしながら、バナナを食べている。
「おいしいもの、いっぱいあるよ。一緒に食べに行こ♡」
「あなたの参加をお待ちしております。今なら帝国コスプレが当たるかも~結界をなくそう、反聖女主義同盟~」
何? これってエロゲ―なの?!
スマホを取り落としそうになる。我ながら、変な夢を見てるなぁ。
で、早く2個目のヒントを!
『肖像画を見てみよう。違和感を見つけられるかな?』
って、はあぁ? また、全然分かんないじゃない! 次のヒント!
ボタンを押してヒント3を出す。
今度の広告は、黒い画面だった。
真っ黒な中、男の声が響く。
「なぜ、失敗したんだ。もう少しだったのに。彼女が帝国から持ってきた魔法無効可装置、あれを使えば、外に出ることができたのに……」
暗闇に、男のシルエットが浮かび上がる。
「王国秘密騎士に処刑されてしまった。魔道具も処分された。……聖女の秘宝を破壊すれば……もしかしたら外の世界に……結界破壊装置を……魔道具の研究を……」
そこで画面は急に変わる。さっきのアニメの黒髪の女の子が出て来た。
「新しい世界に旅立ちたい。そんなあなたにぴったり。♪~反聖女主義同盟~♪ ダウンロードしてね♡」
ああ、もう変なゲームの広告はいいから、はやく裁判に勝つ方法を教えてよ。
「ヒント3は……、『王国秘密騎士団に、23年前に抹消された名簿の開示を求めろ』って。何のことよ? もっとちゃんとしたヒントはないの? ぜんぜん分からないじゃない! 夢の中なんだから、ちゃんとしたゲームをさせてよ!」
スマホをベッドの上にぶん投げた。
そこで、夢は終わった。




