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21 証人尋問6

 メリッサが、ガイウスとの子作りの方法を詳しく説明しだしたので、チチナは手を挙げて止めた。


「えー、こほん。つまりガイウス様とメリッサさんは、アリシア様に早く赤ちゃんを抱かせてあげるために、いろいろな方法を試した、というわけですね。代理母としての仕事を、精一杯こなしたということです。あくまで、代理母としての務めですよ」


 代理母と何度も言われて、メリッサは、不服そうに頬を膨らませた。


「まあ、そうなんですけどぉ。あ、それと、初めての時は、ガイウス様は、私が痛みを感じないように、ゆっくり時間をかけてくれたんです。私の胸を優しく触って……。でも、私はチチナさんほどは大きくないから、恥ずかしくて。どうしたら、そんな風に大きくなれるんですかぁ?」


 自慢の胸の話をされたチチナは、挙げた手をおろし、それに回答する。


「あら、今は妊娠中だから、大きくなってるわよ? それで充分だと思うわ。後は、形を保つために、筋肉をつけることが必要ね。マッサージをしてね」


「そうなんですね。がんばります。ガイウス様は、私の胸を触るのが好きみたいで……。ほら、だって、ねぇ」


 メリッサは、意味ありげに私の方を見た。つられて観客たちも、私とメリッサの胸を見比べる。


 もうっ、なんだって言うのよ!


「異議あり!」


 ベンジャミンさんの代わりに、立ち上がって叫んだ。


「関係ない話はやめてください! 胸の話もやめてください! チチナさん、いちいち揺らさないでください! いかがわしいです! それと、メリッサは絶対に、父の娘じゃありません!」


 私の胸をじろじろ見ては、憐れんだ顔をする観客たちをにらみつける。


「原告は、席を立たないでください。着席してください。それから、被告弁護人は、裁判に関係ない話は、謹んでください」


「はい。すみません」


 裁判長に注意されて、チチナは素直に謝った。

 一方、メリッサは不満げに唇をとがらせる。


「ええっ? 関係ありますよ。やっぱり、魅力のある体じゃないと、子作りしようって気にならないじゃないですか。私なんて、ほら、もう毎晩求められたから、すぐに赤ちゃんできちゃって」


「異議あり!」


 メリッサの得意げな顔に、もう一度、異議を唱える。

 裁判長は、あきれたように首を振って、木槌を鳴らした。


「他に質問がないようでしたら、これで終えてください。次は原告弁護人の質問の番です」


 ベンジャミンさんは、任せてくれというように、親指を立てて立ち上がる。


「えー、おっほん。メリッサさん。あなた、嘘をついてますね」


 大きなお腹を誇らしげになでているメリッサに、ベンジャミンさんは、チチナ弁護士のまねをして、人差し指をつきつける。


「アーサー様は、妻のマリア様にぞっこんでして、他の女性には一切触れないと誓いを立てています。まあ、そんな誓いなどなくても、マリア様以外の女性は、目に入ってなかったですがね。マリア様の方も、アーサー様が浮気でもしようものなら、地の果てまでも追いかけて、相手を殴り殺すほどの恐ろしい女性でしたし」


 そうなの?! お母様って、そんな強い人だったの?

 もっと優し気な人だと思ってたよ。

 まあ、東の魔女って呼ばれて、魔物討伐が趣味だったみたいだけど……。


「だから、あなたは嘘をついているんです! 平民によくある、そんな赤毛を見せられてもねぇ。辺境伯の娘だという証拠はあるんですか?」


 ベンジャミンさんの質問に、メリッサはお腹を押さえながら答えた。


「証拠って言われても……、だって、死んだ母さんは、辺境伯家のメイドだった時に、私を妊娠したって。……それで逃げて来たって。……それに、……私が辺境伯の娘だって……、肖像画、……!」


「肖像画?」


 途中で呼吸が荒くなったメリッサに、ベンジャミンさんは、いぶかし気に問いかけた。


「肖像画が何ですか?」


「……赤ちゃん……」


「はい?」


「あっ……、ああっ、……赤ちゃん!!」


 聞き返したベンジャミンさんに、メリッサは取り乱して叫んだ。


「っ! 痛いっ! 赤ちゃん! ああ、い、痛いっ! 生まれるー!」


 悲鳴のような叫び声に、再び会場中が大騒ぎになる。

 あわてたチチナ弁護士とガイが駆け寄る。


「メリッサ! どうしたんだ?!」


「早く病院へ連れて行かなきゃ! 手を貸して!」


 メリッサは、病院に運ばれて、裁判は延期になった。

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