20 証人尋問5
「嘘よ! うそつき!」
立ち上がって叫ぶ。メリッサが父の娘だなんて、そんなひどい嘘、絶対に許さない!
「娘じゃない! お父様は、浮気なんてしないんだから! 絶対に!」
父は、まっすぐな人よ。頭はあまり良くないけど、嘘がつけない正直な人。その父が、浮気して子供を生ませる?
そんなの、ありえない!
私の叫び声につられて、観客席で大勢がしゃべりだす。
「彼女は、辺境伯の隠し子だったのか?」
「なるほど。それなら血筋の問題は解決だ」
「じゃあ代理母って言うのは、やっぱり本当のことなのね? 辺境の血筋を残すためなら、仕方ないわよね」
「やだ。ドロドロしてきた。この裁判どうなるの? めちゃくちゃ面白いんだけど」
皆が好き勝手なことを言っている。
違う。そんなわけない。
メリッサは、絶対に、違う!
私は、父を信じる。
「まさか、アーサー様が浮気を? まさか……、しかし、あのメイドの赤い髪は……」
ベンジャミンさんまでが、そんなことをつぶやく。
「違いますよ。閣下はそんなことしません。というより、できません」
怒りをこらえる私に、ルカだけは、力強く否定の言葉をくれる。
「閣下は、野生の獣と同じで、嘘をつく方法を知りませんからね。妻に隠れての浮気など、そんな高等技術は持ち合わせていません」
うん。父をかばってくれてるんだと思うんだけど、いつも辛口だよね。でも、ありがとう。
「大丈夫ですよ」
ルカの言葉が、私を安心させてくれる。
そうだよね。たまたま、メリッサは髪が赤いだけで、父とは何の関係もない。お腹のディートだって、赤い髪だけど……。! そうだ、ディートは、……!?
「アリシア様には、私が辺境伯の娘だってことを、打ち明けていました。でも、誰にも言うなって、口止めされされたんです」
「辺境伯は、あなたのことを知っているんですか?」
「いいえ。母は、妊娠したことを誰にも告げずに、一人で私を育てたので……。だから、私も、父に娘だとは言い出せなくてぇ」
「まあ、それはお辛かったですね。でも、それではなぜ、代理母になろうと思ったのですか?」
「それは、アリシア様に命令されたからです。辺境の領民のために、跡継ぎが必要だからって……。血をつなぐのは、辺境伯の娘に生まれた私の義務だと言われたんですぅ」
騒音の中でも、二人の質疑応答は続いている。メリッサの鼻にかかった甘ったるい声と、チチナの高い声は良く響く。
勝手なことを言わないで!
「それで代理母として、ガイウス様に抱かれて、子供を授かったと言うことですね」
「はい。すごく恥ずかしかったけどぉ、ガイ様はとても優しくしてくれて。毎晩、何回も求められて、一晩に5回の日もありました」
「えー、つまり、異母妹のアリシア様の代理母として、早く子供を作ってあげようと、何度も務めを果たしたと言うことですね」
「そうなんですぅ。私、期待に応えるために、いろんな方法を試しました。一日中寝室に籠ることもあったしぃ、食堂のテーブルの上とかぁ、庭の植木の前でとかぁ、前からとか後ろからとか、上になってとか下になってとか……」
うぇー、やめて! 帰ったらすぐに食堂のテーブルを消毒しなきゃ。汚いよ!! もうご飯食べられない!
観客席の騒音は、いつの間にか止んでいる。皆、メリッサとガイウスの子作りの話を、耳を澄ませて聞いていた。
ベンジャミンさんまでもが、異議を唱えるのも忘れて、メリッサの口から出る言葉を待っている。
ちょっと、ちゃんと仕事してよ! 弁護士でしょう?!




